全8戦が開催された2022年の全日本ロードレース選手権。最高峰クラスのJSB1000クラスは7戦13レースで争われ、今シーズン3度のポールポジションと3度の表彰台を獲得した亀井雄大(Honda Suzuka Racing Team)はランキング5位でシーズンを終えた。そんな亀井に今シーズン見せた強さと速さの秘訣について聞いてみた。
JSB1000クラス参戦4年目を迎えた亀井は、雨となった第3戦オートポリスの予選ではレース1・2ともにポールポジションを獲得し、JSB1000では自身初となった。続いてドライとなった第4戦SUGOのレース2でもポールポジションを獲得した亀井は、「オートポリスは運も味方して獲れたんですけど、SUGOは完全に真っ向勝負で獲れたのでそこは嬉しいですね」と振り返った。というのも、第3戦オートポリスの予選では前半ウエットから、後半にかけて乾き始めるという難しいコンディションのなか、レインのハードタイヤの準備がなかった亀井はスリックタイヤで臨んだことが結果的に功を奏してポールポジション獲得となったからだ。
2021年シーズンよりさらに強さと速さを突出させた亀井に、強さの秘訣や変更点はあったのかを聞いてみたところ、2022年シーズンから仕様変更したスイングアームを使用したことが一番大きいとのこと。しかし、同時に「自分もメカニックも全体的にレベルアップしたのがいい結果に繋がったと思います。ボランティアで来てもらっているメカニックがやる気を出してくれているのが、タイムや結果が出ている秘訣かなと思います」とマシンもチームも強化したことを明かした。
亀井が所属するチームは『鈴レー』でもお馴染みのHonda Suzuka Racing Teamだ。プライベーターチームで、チーム全員が本田技研鈴鹿製作所の社員が自主的に好きを活かして活動している。若さと勢いは絶対に他のチームに負けないという同チームの強みを聞いてみると「やっぱりホンダだとHRCがサポートしているチームが大半で、車体を好きなようにいじれないこともあると思いますが、自分たちは好きに思いついたパーツをすぐ試せるのが強みだと思います」とプライベーターならではの長所を語った。
しかし、逆にプライベーターならではの大変なこともある。拠点となっている鈴鹿以外の遠征は、少人数で移動してレースに挑まなければならず、運転手がいないことからバイクを積んだトラックは、亀井自身がひとりで運転して移動する。鈴鹿からSUGOやオートポリスへは10時間以上の長距離移動となるので、疲れがレースに影響しないのかと尋ねたところ「まだ若さなのかわからないですけど、今はなんとかいけています」と明るく答えてくれたが、少人数のプライベーターならではの短所もある。
レース以外での大変さも伺えるが、亀井はサーキットに着くとレースモードへと切り替え、ライダー兼メカニックをこなす忙しいレースウイークとなる。走行を重ねるごとに微調整を加え、マシンのセッティングを万全の状態に持っていき、予選や決勝に挑むことになる。マシンのセッティングが専門でできるメカニックがいないというHonda Suzuka Racing Teamは、マシンの不具合も亀井自身がアプローチし、チームのメカニックに対して的確に指示を出している。
「多分みんな『亀井が速い』みたいに感じているかもしれませんが、自分は特にバイク乗ることはそんなに上手くないと思っていて、単純に自分に合わせたセッティングにするのが他の人よりちょっと上手いのかなと思っています」と亀井。他チームでは、ライダーのコメントに対してメカニックがセッティングをすることがほとんどだが、亀井が自ら双方をこなしていることにより、マシンのセッティングを的確に良い状態に持っていけるのだという。
多忙なレースウイークを過ごしながらも、2022年は3度のポールポジションを獲得するなど予選で速さを示して活躍を見せていた亀井。決勝では13レース中3度はポイント獲得とならなかったが、ほとんど上位で完走を果たし、3位表彰台にも上っている。予選で一発の速さを見せたマシンでも、レースとなると気温や路面状況なども変わってしまうため、当然セッティングを変える必要性が出てくる。そんななかで亀井は決勝に挑む際、最後の詰めに少し苦戦を強いられているという。
亀井は「車体セットの仕方もあると思いますが、ホンダは結構リヤタイヤがすぐスピンしてしまい、レース後半に失速することが多いです」と語る。しかし、最終戦鈴鹿のレース1では清成龍一(TOHO Racing)が中盤から終盤に速さを見せ、ホンダ勢最上位となる3位表彰台を獲得し、亀井は4位となったが、その時のことについても次のように触れていた。
「今回のレースで清成さんが最後までペースがすごい良かったので、まだまだ向上するべきところはあると思います。セッティングを詰めればレースは最後までいけるかなと感じますが、要はライダーとメカニックのセッティング能力がまだ低いのかなとも思います」
また、ヤマハファクトリーとの差は「SUGOや岡山であまり、中須賀選手と差がつきづらいですが、それって単純にグリップしない路面なので、勝手にタイヤに優しいみたいな感じがあるんです。でも、オートポリスや鈴鹿はタイヤにすごい攻撃的な路面なので、そこを上手くどうにか保たせられるセットを出せれば……」と説明した。
決勝レース中にホンダCBR1000RR-Rはリヤタイヤのスピンが多いことから、サーキットの路面によってはレース後半までタイヤを温存させられずにいるそうだ。しかし、決勝でのマシンのセッティングにはまだ悩み中で、少し苦戦を強いられしまっているというが、若さと勢いのあるHonda Suzuka Racing Teamは来シーズンに向けて様々な試行錯誤を重ね、さらにパワーアップした姿を見せてくれるだろう。
また、現時点では2023年シーズンの体制は発表はされていないが、今回の取材で亀井は来年も引き続きJSB1000クラスに出る予定だと語っていた。プライベーターとして様々な困難を乗り越えながら、ライダー兼メカニックをこなす亀井の挑戦は今後も続いていくだろう。来シーズンも引き続き予選で抜群の速さを見せつけ、プライベーターチームを代表する亀井が、決勝で強敵なファクトリーチームを倒して表彰台の頂点に立つ瞬間を目にすることができるのはそう遠くはないのかもれない。