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 いよいよウインターシーズン/スノーシーズンの真っ只中へ! 雪国のみならず日本各地のいたるところでドカ雪が降る可能性がある昨今、積雪の備えは万全にしておきたいところ。

 そこで雪の「本場」ともいえる、北海道のベテラントラックドライバー菊地さんに真冬の北国を走るために必要なことをお聞きしてみまた。

文/ベテランドライバー菊地さん、写真/国土交通省・菊地さん・フルロード編集部
*2022年12月12日発行トラックマガジン「フルロード」第47号より

冬の北海道を走るためのスタッドレス

北海道の雪道を長年走ってきた菊地さん。やはり新しいスタッドレスほどよく止まるという

 今シーズンは私にとって58回目の冬であることに驚きを隠せません。幸い私は多くの北海道民が文句をいう大雪に対し、今もなお楽しいと思える気持ちを保っています。

 なにしろ十代の頃からバイクにスパイクタイヤを履かせて積雪路や凍結路を走り回り、免許を取得してからの約40年、さまざまなサイズのクルマで北海道の冬を遊び倒してきましたから……。砂利道も含めて私は滑る道が大好きなのです。

 今回は本州から冬の北海道へ初めて来られる方のために、備えるべき装備と路面事情をお伝えいたします。いつからだったかは思い出せませんが、スパイクタイヤの使用が禁止され、誰もがピンの無いスタッドレスタイヤを履くようになり、都市部の冬の空気は見違えるほど綺麗になりました。

 その代わり、初期のスタッドレスタイヤは現在のものほど性能が良いわけもなく、一時的にスリップ事故が増えた気がします。しかし今のスタッドレスタイヤは当時のバイアスタイヤにピンを打ったものより遥かに短い制動距離を叩き出し、その性能は毎年更新されています。

 新しいスタッドレスタイヤは驚くほど止まるというのが私の実感です。私たち雪国のドライバーが冬に向けてまず準備をするのがスタッドレスタイヤですが、それには東北から北海道にかけての本格的な寒冷地仕様のものと、主な使用環境を関東圏以西に設定したものがあるそうです。

 詳しくはわかりませんが、恐らくコンパウンドの配合量やその他素材の違いで使用条件に対応しているのでしょう。ですから、関東圏以西から北海道にクルマを乗り入れる場合、その時の気象条件によってはタイヤの種類の選択に注意が必要かもしれません。

 想像しやすいと思いますが、ほとんどの時間をアスファルト上で走行する地域で販売されているタイヤは、摩耗を減らすために積雪路や凍結路での性能を犠牲にした素材の配合になっているはずです。

 私たち北海道の運送屋は本格的な寒冷地仕様のものをスタッドレス1、関東圏以西仕様のものをスタッドレス2と呼んでいますが、俗称かもしれませんので、詳細はタイヤ屋さんにご確認ください。

 北海道で氷点下15℃から20℃、日によっては30℃を下回るのは1月の後半から2月の下旬です。私たちは常に本格的な寒冷地仕様のタイヤを履いていますので、そうではないタイヤの性能がどれくらい劣るのかわかりませんが、一番スリップ事故が多く発生しているのは雪道になりかけの年末年始、そして空気に春の匂いを感じ始める3月なのです。

 つまり、気温が0℃前後で、氷の上に水分がある状態が続く季節ですね。1月から2月にかけての厳冬期は、たとえ路面が凍結していても乾燥しているため、けっこうすり減ったスタッドレスタイヤでもアスファルト並みにグリップします。

 それをハッキリ体感するのは氷点下10℃以下の気温が数日続いている時です。そう考えると、北海道で本格的な寒冷地仕様のタイヤが絶対に必要になるのは1月から2月の厳冬期ではないということになります。

 ですから、11月から3月の間に関東圏以西から北海道に来られるクルマに、必ずしも本格的な寒冷地仕様のタイヤを装着する必要はないのかもしれません。

 ただ、春先は圧雪アイスバーンの上に雨が降り、どんなに高性能なスタッドレスタイヤでもまったくグリップをしない日があります。そんな日に排水性能が悪く、硬いコンパウンドのタイヤを装着していたら致命的です。

タイヤサイズとチェーンの備え

 次にタイヤサイズの話。積雪量が多い日は外径が大きく、車高が高いクルマのほうが安全です。具体的にいうなら11R以上のタイヤサイズが安心です。そして、標準的な3軸の車両なら後輪のデフは2つ必要です。

 駆動しないタイヤは深い雪が絡むと抵抗にしかなりません。むしろ、昔よく見かけた11Rタイヤを履いた2軸のトラックのほうが深雪には強いですよ。最近流行りの小径タイヤで低床のトラックは、本当に嫌になるほど深雪には弱いです。

 現在、私は4軸低床のクレーン付き車両に乗務していますが、配達先がオフロードの工事現場専門なので、まだ雪の無い現在でも既にデフロックを3回使っています。雪が積もれば現場内は常にデフロックの状態で、なおかつチェーンは常に装着することになります。

 北海道の厳冬期を安全に乗り切るポイントは3つ。①毎年新品のスタッドレスタイヤを履く。②11R以上の外径サイズのタイヤで、3軸車はツーデフが常識。③スタッドレスタイヤにも同サイズのチェーンを常備する……といったところでしょうか。

厳冬期の北海道を走るためのポイントをまとめると、新品のスタッドレス、大径タイヤ且つツーデフ、同サイズのチェーンを常備することだという

 チェーンに関しては、ある程度の高速走行が可能な細くて軽い亀甲型の特殊鋼チェーンがお勧めです。何故なら、埋まってしまってからチェーンをかけることが多く、その際重いチェーンだと装着が極端に大変になることと、動き出したら止められない状況があるからです。

 何日も降雪が続くと、ある程度勢いをつけて走り続けないと、例えチェーンを巻いていても埋まるほどの積雪量になります。そしてチェーンを購入する際は、スタッドレスタイヤ用のサイズがあることをお忘れなく。

 さて、北海道の雪を知らない方を驚かせてしまうようなことを書きましたが、決して大袈裟な表現をしたわけではありません。私たちのような工事現場回りのトラックドライバーには常識的なことです。

 しかし、大手の倉庫や、いくつものゼネコンがジョイントベンチャーしているような大きな現場であれば、完璧な除雪と導線が確保されていますので、それほど心配はいりません。数字の小さな国道は24時間体制で除排雪されていますし、大手の会社は大型の除雪車で24時間敷地内を除雪しています。

 それに大抵は主要幹線道路沿いにありますから、タイヤの小さな4t車や低床車でもスタッドレスタイヤさえ履いていれば問題なく辿り着けるでしょう。さらに細かいことをいうとしたら、日常点検の項目になりますが、バッテリー液の量、オルタネータの充電量の点検。

 氷点下30℃まで凍らないウォッシャー液を満タンにする。冬用のワイパーに交換する。3日分の食料と飲料水、携帯トイレ、氷点下対応のシュラフを用意しておく、といったところでしょうか。

 北海道は都市部を離れるとコンビニもトイレも暫く現れません。万が一郊外で道路外に落ちてしまった場合、冬季は救助が来るまでかなりの時間がかかります。

 暖房の無い氷点下では車内でも30分以上の時間は耐えられないと思ってください。以上、北海道に必要な冬の装備について語らせて頂きました。安全対策を怠らなければ、冬の北海道でしか見られない素晴らしい雪景色を堪能できますよ。では、素敵なドライブを!

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