新型プリウスの上位グレードには、なんと19インチタイヤが装着されている。まるでスポーツカーのようでかっこいいのだが、ある程度燃費も重要なハイブリッド車には似合わないサイズのように思える。ところが、この19インチタイヤには、燃費と操縦安定性を両立する秘密が詰まっていたのだ。この大径タイヤの狙いを解説する!
文/斎藤聡、写真/トヨタ、ベストカー編集部
■大径タイヤが採用された理由とは?
プリウスがついに19インチタイヤを装着! 大径すぎないか? ついにプリウスはドレスアップに走ったのか? なぜ19インチ? 高性能化? ハイブリッドの燃費の良さは捨てるのか?
いろんな疑問が浮かんできますが、タイヤをよくよく観察すると、ブリヂストン装着車はエコピアで、さらに「ologic(オロジック)」というロゴが刻まれています。そう、BMW i3に装着されて当時話題になったブリヂストンの次世代低燃費タイヤ技術であるologic搭載した低燃費タイヤなのです。
発表は2013年3月、ジュネーブモーターショーでのことでした。ここでラージ&ナローコンセプトタイヤとして発表したのがologicです。
下記は当時のブリヂストンのニュースリリースからの引用です。
「今回開発に成功した技術は、タイヤサイズをこれまでなかった狭幅・大径サイズ化(タイヤサイズを狭幅化、タイヤ外径を大径化)するとともに、使用空気圧を高内圧化へと変更、~中略~従来とは別次元の技術イノベーションによる転がり抵抗の低減とウエットグリップ性能の向上を実現しています」
当時、タイヤにまつわる状況はどんなだったかというと、欧州でタイヤラベリングが始まったのが2011年、国内では一足早く2010年からタイヤグレーディングが始まっています(タイヤに貼られている転がり抵抗、ウエットグリップを示した例のアレです)。
その数年前から世界中のタイヤメーカーは転がり抵抗の低減とウエットグリップ性能の両立に関する取り組みや研究が本格化していました。
2012年頃から転がり抵抗/ウエットグリップ=AAA/aというタイヤがサイズ限定で登場し始めたころでもありました。
そんな渦中にologicが発表されたわけですが、発表から1週間も経たないうちに他のタイヤメーカーからも次々と同様のコンセプトを謳った低燃費タイヤ技術が発表され、タイヤ業界は瞬間的ではありますが騒然としたのでした。
まあ、そのくらいインパクトがある発表であり、またどのタイヤメーカーのエンジニアも、タイヤの走行抵抗を低減させ、かつウエットグリップを落とさない方法としてラージ&ナローコンセプトを温めていたのかもしれません。
ちなみにこのologicは翌年発表されたEVのBMW i3とi8に装着されデビューしたのでした。
■19インチタイヤの狙いと利点
ologic技術は狭幅化、大径化、それに高空気圧が3つのポイントになっています。さらに狭幅化することで、空気抵抗の低減と転がり抵抗の低減が得られます。
走行中のタイヤの空気抵抗は意外に大きく、タイヤを細身にすることで、効果的に空気抵抗を低減することができるのです。特に近年ではクルマのハイパフォーマンス化が進んだことで、タイヤサイズもワイド化が進んでいました。
しかし、タイヤが太くなると接地面が広がりますから、転がり抵抗が大きくなり、またウエット路面では、細身のタイヤと比べ接地面圧が低く(車重が同じ場合)なりますから、ウエット性能は不利になります。 それを解消する方法がタイヤの大径化なのです。
タイヤを大径化してタイヤ外径を大きくすることで接地長を長くとることができます。もちろんこれにはタイヤプロファイル(断面形状)も関わってきますが、基本的にタイヤ外径が大きくなれば接地長は増えます。
※大径化で前後方向にタイヤの接地面積が増えるためにグリップが向上する。
じつは接地長を長くとると、クルマは操縦安定性が良くなるのです。絶対的なグリップ性能は接地面積が大きく効いてきますが、操縦安定性(≒クルマの落ち着き感、安定感)に関しては接地長の拡大で補えるのです。
またタイヤの大径化は、接地部分の変形を少なくすることになるので、転がり抵抗を低減する効果があります。これは高内圧化とも密接に関わっています。空気圧を高くすれば接地面部分のタイヤの変形が少なくなるので、大径化と合わせて転がり抵抗を少なくする効果が増すわけです。
一般的なタイヤでも指定空気圧よりも高くすると燃費が良くなりますが、これも同様の効果があるからです。
ただ、タイヤを細身にするとタイヤの負荷能力(≒ロードインデックス)は少なくなりますから、50→60といった具合に偏平率を低くしたり、あるいは高内圧化することでロードインデックス不足を補う必要があります。
※ロードインデックスが小さいとタイヤが耐えられる負荷が少なくなる。
つまりタイヤを細身で外径を大きくして空気圧を高くすると、転がり抵抗が少なくなるとともに接地面積が小さくなるので燃費が良くなり、接地面圧が高くなるのでウエット性能も期待できると、いいことづくめの技術というわけなのです。
■あまり普及しなかった大径燃費タイヤ
ただ、ologicが発表されてから約10年経過しましたが、その技術的なメリットから考えるほどには普及しませんでした。その決定的な理由があります。それはコストです。
タイヤを細身にし、かつある程度タイヤに厚みを持たせる必要があることから、車重や重心高などクルマのディメンションとのマッチングが重要になってくるのです。
単に細身大径のタイヤに付け替えるだけでは、燃費とウエットブレーキを向上させつつ、操縦安定性を確保するのは難しいのです。量産に向かないタイヤということです。専用設計かそれに近い作りにしないと最適値は引き出せないということなのです。
プリウスのタイヤサイズは195/50R19です。ちなみにi3(初期型)のタイヤサイズ(19インチ)は前155/70R19、後175/60R19でした。プリウス用とi3用を比較してみると、プリウス用はタイヤが太くなり偏平率も高くなっています。
タイヤを太くした理由は汎用性の向上ではないかと思います。ologicの問題点は、セッティングの幅が狭く量産に向かないことでした。
けれどもタイヤサイズを太くし、偏平率を高めることでタイヤの横剛性及びねじり剛性を高くなりタイヤの変形量を少なくできたことで、セッティングのシビアさを解消することができたのではないかと思います。
それが可能になった理由は、この10年である程度のタイヤ幅を確保したままでもタイヤの転がり抵抗を低くすることができるようになったことが挙げられます。
■195/50R19サイズが実現する燃費と操縦安定性
すでにオロジック開発当時から分かっていたことですが、タイヤの転がり抵抗はトレッド面のグリップが作り出す抵抗だけではなく、タイヤのトレッド面やサイドウオールを含めたゴムの変形が作り出す発熱がエネルギーロス≒転がり抵抗になります。
そこで低発熱のゴムの開発や配合剤の進化(シリカの分散性など)によって、極端にタイヤ幅を細くしなくても転がり抵抗を低く抑えることができるようになったのでしょう。
タイヤ幅を広くできると、横剛性やねじり剛性を高めることができ、コーナリング中のタイヤの変形も抑えることができるようになります。
一般的なタイヤサイズよりもナローで、空気抵抗低減や接地面積を(一般的なサイズのタイヤよりは)小さくすることができ、同時に操縦安定性も両立させることができる、そんなちょうどいい落としどころが195/50R19というサイズだったのでしょう。
プリウス+195/50R19サイズの組み合わせについて言えば、徹底的に転がり抵抗を低減し燃費に特化したタイヤ……ではなく、高性能なエコタイヤ並みに転がり抵抗を低減しながら操縦性を両立させることを、トヨタは狙ったのでしょう。
ちなみに、新型プリウスに装着されるタイヤはブリヂストンだけでなく横浜ゴムのブルーアースGTも用意されています。
じつはタイヤ外径が大きいということは、同じ距離を走るときタイヤの回転数が少なくなるので(ほんのわずかですが)タイヤライフにも有利に働きます。
i3という特殊な電気自動車ではなく、量産車プリウスに採用されたことで、今後このラージ&ナローコンセプトのタイヤは様々なクルマに採用されるようになるかもしれません。
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投稿 燃費も操縦安定性も抜群!! プリウス19インチタイヤ 衝撃の中身 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。