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 2022年11月に発表された5代目となる新型プリウスだが、これまでとは大きくコンセプトを変更していた。その一番の驚きは、全高を低めたシャープなスタイリングと、2Lエンジンを追加してパワーアップを図ったことだ。1.8Lモデルの一部は先代よりも燃費を向上したものの、発表会では高まった動力性能が強調されていた。なぜプリウスは燃費スペシャルをやめたのだろうか?

文/渡辺陽一郎、写真/トヨタ、ベストカー編集部

■WLTCモード燃費40km/Lに届くと思われたが

1997年に世界初の量産ハイブリッド車としてデビューした初代プリウス
1997年に世界初の量産ハイブリッド車としてデビューした初代プリウス

 プリウスはハイブリッドの主力車種だ。初代モデルは1997年に世界初の量産ハイブリッド車として発売され、認知度も高い。2023年1月には、5代目の新型プリウスが登場して話題になっている。

 プリウスはハイブリッドの主力車種だから、燃費性能に関心が集まる。例えば4代目の先代プリウスが登場した時は、燃費数値の表記が今のWLTCモードではなくJC08モードとされ、価格が最も安いEグレードの数値は40.8km/Lだった。

 コンソールボックスやノイズを抑えるサイレンサーなどを省き、車両重量をSに比べて50kg軽く抑え、JC08モードが40km/Lを超えた。

 この流れを踏まえると、5代目の新型プリウスではWLTCモード燃費が40km/Lを超えるかと思われたが、意外にも燃費へのチャレンジは大人しかった。新型プリウスに、1.8Lエンジンをベースにしたハイブリッドを搭載するXとUの2WDは、WLTCモード燃費が両グレードとも32.6km/Lだ

 ちなみに先代型が生産を終える直前のWLTCモード燃費は、最も優れたEの2WDが32.1km/Lだった。それ以外の2WDは27.2~30.8km/Lになる。新型の1.8Lは32.6km/Lだから、先代型に比べて向上したが、大きくは変わらない。

 また新型プリウスでは、1.8LエンジンのXは法人向けのグレードとされ、Uは定額制カーリースのKINTO専用車だ。従って一般ユーザー向けに設定された購入の可能なグレードは、新型になって登場した2Lエンジンがベースのタイプになる。

 この2Lエンジン車のWLTCモード燃費は28.6km/Lだ。シビックe:HEVの24.2km/Lに比べて18%優れており、動力性能を考えると依然として低燃費だが、いわゆる燃費スペシャルではない。

■新型は5代目にしてコンセプトを変更

新型プリウスの2Lハイブリッドシステム。従来の1.8Lハイブリッドも一部グレードに採用されている
新型プリウスの2Lハイブリッドシステム。従来の1.8Lハイブリッドも一部グレードに採用されている

 プリウスが燃費スペシャルから脱却した背景には、複数の事情がある。最も大きな理由は、プリウスのコンセプトが新型になって変わったことだ。

 従来のプリウスは「ハイブリッド専用車」という位置付けに特徴があり、販売も好調だった。それが今は、ヤリスからセンチュリーまで大半のトヨタ車にハイブリッドが搭載され、プリウスの売れ行きは下がっていた。

 登録台数を具体的に見ると、2009年に発売された3代目プリウスは、2010年に1か月平均で約2万6000台を登録している。これに比べて先代型の4代目は、2015年に発売され、2016年の1か月平均は約2万台に留まった。2019年は、コロナ禍の前だったが、1か月平均は約1万台だ。モデル末期の2021年は、約4000台と下降を続けた。

 プリウスの特徴が、ハイブリッド専用車の位置付けと低燃費にあったとすれば、その使命は終わったといえるだろう。前述のように今では大半のトヨタ車にハイブリッドが用意され、ヤリスハイブリッドXのWLTCモード燃費は36km/Lに達するからだ。

 プリウスは全長が4600mmの3ナンバー車で、車両重量は、最も軽い1.8LのXでも1350kgだ。ヤリスハイブリッドXなら、全長が3940mmの5ナンバー車でエンジン排気量も1.5Lに収まり、車両重量は1050kgと軽い。

 仮にプリウスのWLTCモード燃費が、一時的にヤリスハイブリッドを上まわっても、次期型ではヤリスハイブリッドに必ず抜き返される。プリウスが燃費ナンバーワンを守るのは難しい。

 以上のような事情から、プリウスをなくす方法もあったが、その認知度は世界的に高く廃止するのは惜しい。

■スポーティな外観とシステム最高出力の向上

全高を低く抑えてよりスポーティなフォルムを採用した新型プリウス
全高を低く抑えてよりスポーティなフォルムを採用した新型プリウス

 そこで新型プリウスは、燃費スペシャル的な発想から離れたわけだ。全高を先代型に比べて40~50mm低く抑え、前後のウインドーを大きく寝かせた。

 エンジンとモーターの駆動力を合計したシステム最高出力は、先代型は122馬力だったが、新型は1.8Lが140馬力、2Lは193馬力に達する。充電可能なPHEVは223馬力だ。パワーアップに伴って、外観もカッコ良く、運転感覚の楽しいクルマに進化した。

 つまりハイブリッドの低燃費を含めた実用性は、カローラクロス、シエンタ、ノア&ヴォクシーなどのハイブリッド仕様に任せ、プリウスは趣味性の強いスポーツ指向の5ドアクーペに発展させている。

 そして新型プリウスのような性格のハイブリッドは、トヨタには用意されていない。カローラスポーツ/ツーリング/クロスなどのハイブリッドは、新型プリウスに比べて実用的だ。クラウンクロスオーバーは趣味性の強いハイブリッドだが、ボディが大きく、なおかつ多くのユーザーはSUVと判断する。

 例えば今でもマークXが存在していて、そこにハイブリッドを搭載すると新型プリウスに近いかも知れないが、既に終了している。かつてのカリーナED、あるいは今のメルセデスベンツCLAに相当する車種も用意されていない。

 そのために新型プリウスは、トヨタのラインナップにおいて、燃費追求とは違うスペシャルティカーの価値も発揮できた。いい換えれば新型プリウスがコンセプトを変えたことにより、今まで穴の空いていたトヨタのラインナップが埋められている。

 いろいろな意味で、新型プリウスには新しい価値が盛り込まれ、そこが燃費スペシャルから脱した一番の理由だ。

■燃費スペシャルを続けるのは厳しかった

2Lハイブリッド採用により、これまで以上に走りのパフォーマンスを向上させた
2Lハイブリッド採用により、これまで以上に走りのパフォーマンスを向上させた

 現実的な課題もある。燃費性能は無限に向上できるものではなく、プリウスのボディサイズを踏まえると、従来型でも限界に達しつつあった。燃費性能をさらに向上させようとすれば、軽量化で装備が貧弱になったり、転がり抵抗を極端に抑えたタイヤの採用で乗り心地が粗くなったりする。

 燃費の向上率が小さい割に、機能の悪化が目立ってくるから、商品としてはマイナス面が大きくなる。前述のJC08モード燃費が40km/Lに達した先代プリウスEも、売れ行きは芳しくなかった。商品力のバランスに基づき、燃費スペシャルから脱した事情もある。

 販売店の見解はどうか。プリウスの燃費について尋ねると、以下のように返答された。

「先代プリウスはボディの重い上級グレードでも、実用燃費は十分に優れていた。そのためにプリウスは、燃費の良いクルマとして完全に定着している。プリウスの燃費に不満を持つお客様はいない。新型についても、燃費数値の伸び悩みを指摘されたことはない」

 今さら燃費数値を追求しなくても、プリウスの燃費に対する満足度は高い。それならば、外観のカッコ良さ、走りの楽しさなど、5ドアクーペ的な魅力を追求した方が新型プリウスの価値や存在感を表現しやすい。

 新型プリウスが先進的なハイブリッドで、低燃費が当たり前になったからこそ、旧来の価値観とされる燃費スペシャルを用意する必要がなかったといえるだろう。

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