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 国土交通省が全国の高速道路を2115年まで有料にできるよう関連法令を改正することが判明した。有料期間はこれまでの最長2065年から50年延びることに。つまり、2005年の旧道路公団の民営化に際して掲げた無料化は事実上撤回した形となるワケだが、これまでの経緯を踏まえつつ、高速道路について一家言ある自動車ジャーナリスト、清水草一氏に私見を述べてもらった。

文/清水草一、写真/AdobeStock(トビラ写真:jaimax@AdobeStock)

■2115年まで50年間延長されることになった高速道路有料化

2115年まで、従来の2065年までとされていた高速道路の有料化は50年間延長されることになった(Paylessimages@AdobeStock)
2115年まで、従来の2065年までとされていた高速道路の有料化は50年間延長されることになった(Paylessimages@AdobeStock)

 国土交通省は、全国の高速道路を2115年まで有料にできるよう関連法令を改正する方針であることがわかった。有料期間はこれまでの「2065年まで」から、さらに50年延び、2115年になる。

 2065年でも42年後であり、遠すぎるほどの未来だったが、それが92年後になれば、事実上「永遠」に近い。92年後には、クルマは皆空を飛んでいる可能性もゼロではなく、高速道路が必要なくなっているかもしれない。それほど先のことだ。

 2115年まで有料のままとなれば、2005年の道路四公団民営化に際して掲げた「2050年までに債務を返済して無料化」という約束は、完全に反故になったも同然である。

「フザケルナ! 俺たちを騙しやがって!」

 そう怒る人もいるだろうが、少数派ではないだろうか。中央道笹子トンネルの天井板崩落事故をきっかけに2012年、有料期間が2050年から2065年に延長された時点で、こうなることは見えていたが、「老朽化対策」の錦の御旗の前に反対の声はほとんど聞かれなかった。今回の50年延長に対しても、反対の世論は盛り上がらないだろう。

■あえて民営化時に将来の維持費増大を想定しなかった?

高速道路の事情に詳しい筆者は基本的に「高速道路は永久に有料でいい」と主張する(7maru@AdobeStock)
高速道路の事情に詳しい筆者は基本的に「高速道路は永久に有料でいい」と主張する(7maru@AdobeStock)

 高速道路研究家を名乗る私としては、「日本の高速道路は、基本的には永久に有料でいい」と考えている。事情を詳しく知れば知るほど、無料化など無理筋の暴論だという思いが強くなるのである。

 実を言えば、民営化時点での青写真は老朽化による将来の維持費の増大をいっさい無視したものだった。なぜそんなことをしたのか?

 それは、世論が許さなかったからである。当時の世論は、高速道路建設を「すべてムダであり、悪の温床」と決めつけていた。あらゆるメディアが「高速道路なんてもう作るな!」と叫んでいた。

 が、その意見が間違いだったことは、多くの人が認めざるを得ないだろう。新東名・新名神を、今も「あんなものいらない!」と言う人がいるだろうか。当時は「第二の戦艦大和」とまで言われていたが、今や日本に必要不可欠なインフラとなっている。

 民営化議論を進めた専門家たちには、それがわかっていた(私も)。高速道路は、建設を続ける必要がある。そのためには、「永久に有料にします」なんて言えるわけがなかったのだ。

■必要悪だった「無料化打ち出し」の騙し討ち

日本の新しい動脈となった新東名の必要性はユーザー誰しもが認めるところだろう(w_p_o@AdobeStock)
日本の新しい動脈となった新東名の必要性はユーザー誰しもが認めるところだろう(w_p_o@AdobeStock)

 だからあえて、老朽化による維持費の増大は無視して、2050年に無料化という結論を出した。確信犯の騙し討ちだが、国民を騙さなければ民営化も高速道路の建設続行も実現しなかった。

 私は、あの騙し討ちは、必要悪だったと思っている。

 そもそも、欧米諸国の多くで高速道路が無料なのに、なぜ日本の高速は有料で、しかも世界一高いのか? その答えは、主に次のふたつである。

理由その1)建設を始めた1960年代、日本はまだ世界銀行から融資を受ける発展途上国で、手元資金がなかった。

理由その2)日本の地形は、欧米に比べるとはるかに険しく、地盤も軟弱で、そのうえ世界一地震が多く、地価も高いため、建設単価が2倍強に跳ね上がり、維持費もかさむ。

 政府が建設速度を優先するため、有料道路制度を取ったのは致し方なかったのではないか。有料自体が誤りだったとしても、今さらやり直しは効かない。現状を受け入れつつ、ベストな道を選択する以外にない。

■今後はどのようにしていくべきなのか?

混雑する幹線の高速道路は永久に有料化にし、交通量の少ない地方の過疎路線を無料化するのがベストだと筆者は指摘する(beeboys@AdobeStock)
混雑する幹線の高速道路は永久に有料化にし、交通量の少ない地方の過疎路線を無料化するのがベストだと筆者は指摘する(beeboys@AdobeStock)

 では、今後歩むべきベストな道とはどんなものか。

 半永久的な有料化はしかたないが、現状維持がベストではない。私見だが、有料道路制度を維持しつつ、より合理的でメリハリの利いた、路線ごとの料金水準に変更すべきだ。

 日本の大都市は、欧米や中国と異なり、ほぼ一直線上にある。東名や名神などの幹線に、どうしても交通が集中する構造なのである。首都高や阪神高速などの都市高速を含め、幹線を無料にしたら交通集中でどうにもならなくなる。そこは永久に有料でいいし、無料にしたらむしろデメリットが大きい。

 しかし、地方の過疎路線は、無料にしても渋滞が起きる気遣いはないし、地域経済の活性化にも寄与する。そういった路線は無料、あるいは現在の半額といった料金水準に引き下げるべきだ。

■一律永久有料化より一部を無料にし、幹線は半永久的に有料化が落としどころか?

 交通量の少ない路線の料金を下げても、もともと料金収入が少ないのだから、借金返済への影響はごく小さい。半永久的に有料にすれば、借金返済の期限がなくなるのだから、多少の値下げはまったく問題にならなくなる。一律永久有料化ではなく、一部を無料にしつつ、幹線は半永久的に有料化するのが、経済合理性が高い方策だ。

 道路公団民営化によって、高速道路の建設・維持に関してはかなりのコストダウンが実現し、借金は順調に返済されている。ただ、老朽化に追いかけられているため、今後維持費はどうしても膨らむ。お金をかけなければ、古い路線から順に廃止せざるを得ず、永久有料化はやむを得ない。

 しかし、地域ごとの経済的な片寄りを考えると、全国一律料金であることがそもそも不合理なのである。

【画像ギャラリー】高速道路無料化の事実上撤回は致し方なかったのか?(3枚)画像ギャラリー

投稿 2115年まで有料維持って本気か? 「高速道路無料化」の事実上撤回に思うこと自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。