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 高速道路会社(NEXCO)3社は高速道路の「深夜割引」を見直す方針を発表した。見直しの目的は「トラック運転者の負担軽減等のため」としているが、トラック輸送、特に長距離輸送は深夜料金を前提とした運賃となっており、影響が大きい。見直しのポイントを解説する。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・図/フルロード編集部・国土交通省・NEXCO各社

高速道路の「深夜割引」見直しへ

長距離輸送はどうなるの!? 見直しが決まった高速道路の深夜割引をドライバー向けに解説します!
深夜割引が利用できる夜間に高速道路を走るトラックは多く、運賃も割引料金が前提になっていることも……

 国土交通省、および高速道路会社(NEXCO)3社(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)は、高速道路の深夜割引を見直す方針を明らかにした。令和6年度(2024年度)中の見直しを目指している。

 割引率は現行の3割を維持するいっぽう、割引時間を拡大するとともに、深夜走行分のみが割引対象となる。また400km超の走行を対象に料金を引き下げる長距離逓減制を拡充するほか、見直し適用後の救済策として「激変緩和措置」を5年程度導入する。

 さらに、この見直しに合わせて深夜割引は「ETCマイレージサービス」または「ETCコーポレートカード」への後日還元型の制度に変更される。このため事前登録をしていないと、割引そのものが受けられなくなる見込みだ。

 現状の高速道路の深夜割引は、並行する一般道路の沿道環境改善を目的として、0時から4時までの間に高速道路をETCにて通行する車両を対象に3割引を実施している。

 しかし、割引適用待ちのトラックが時間調整のために料金所付近に滞留するという問題がしばしばメディアでも取り上げられ社会問題となったほか、「物流の2024年問題」などを背景にトラック運転者の負担軽減が求められていることなどから、見直しに向けた検討が進められていた。

 社会資本整備審議会 道路分科会 国土幹線道路部会の中間答申では、走行分を対象とした割引とすることや、割引時間の拡大が必要とされていた。この中間答申に基づき、NEXCO3社と国交省は深夜割引を見直す方針を決めた。

 それによると、割引適用時間帯は現行の「0時から4時」を「22時から翌5時」へと拡大し、この時間帯に走行した分のみ3割引きとなる。見直し時期は令和6年度(2024年度)中を目途とするいっぽう、具体的な運用開始時期についてはまだ決まっていない。

見直しのポイント

長距離輸送はどうなるの!? 見直しが決まった高速道路の深夜割引をドライバー向けに解説します!
深夜割引見直しの概要(国交省の報道発表資料より)

 深夜割引の見直しのポイントは次の3つだ。

1.深夜割引適用時間帯に走行した分のみ3割引
2.深夜割引適用時間帯を22時から翌5時に拡大
3.深夜割引の見直しにあわせて、400km超の長距離逓減制を拡充

 時間帯は現行の「0~4時」の4時間から「22時~翌5時」の7時間へ大幅に拡大するいっぽう、割引時間帯を走行すればすべての走行分に3割引が適用される現行制度に対し、見直し後は割引時間帯に走行した距離のみが3割引きとなる。

 そのためには割引時間帯の走行距離を把握する必要があるが、料金所通過時間の他に高速道路上に設置するETC無線通信専用アンテナ等を用いて車両の通行記録を収集し、それらのデータに基づいて走行距離を算出する。
(ETC2.0のデータを活用するものではない)

 こうした理由から割引額の算定には一定の処理時間を要する。「ETCマイレージサービス」または「ETCコーポレートカード」への後日還元型に変更されたのはこのためだ。従って出口料金所では割引適用前の通常料金が表示されることになる。

長距離輸送はどうなるの!? 見直しが決まった高速道路の深夜割引をドライバー向けに解説します!
割引適用時間帯を拡大し、その時間帯の走行分のみが割引となる(ネクスコのプレスリリースより)

 以上の割引見直しでは、長距離輸送など走行距離の長い利用で負担額が増加するため、「長距離逓減制」を拡充し400kmを超える走行の料金負担を軽減する。また1000kmを超える部分には変更から5年程度は「激変緩和措置」が適用され、負担額はさらに減る予定だ。

 走行距離が長くなるほど料金の引き下げ率が大きくなる長距離逓減制は、現行制度では「100~200km」で25%割引、「200km以上」は一律に30%割引となっている。

 見直し後は、これに加えて「400~600km」が40%割引、「600~800km」が45%割引、「800km以上」で50%割引が適用されるようになる。なお、長距離逓減制は深夜割引とは別の制度であるため、後日還元型への変更とは関係なく、事前登録も不要と思われる。

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長距離逓減制は大幅に拡充する(ネクスコのプレスリリースより)

 いっぽう、見直しから5年程度の時限措置として予定されている「割引見直し運用開始後の激変緩和措置」は、長距離輸送の負担緩和や時間調整のトラックによる滞留解消を意図したものとみられ、次の2つがポイントとなる。

1.深夜割引適用車両のうち1000km以上走行した場合は、1000kmを超える部分を割引対象走行分に追加
2.22時台に高速道路を流出した車両について、22時台に走行した分は深夜割引の割引率を2割に縮小

 なお、1000km以上走行した場合も実質割引率の上限は30%だ。

長距離輸送はどうなるの!? 見直しが決まった高速道路の深夜割引をドライバー向けに解説します!
料金と実質割引率の計算方法(国交省の報道発表資料より)

 今回の見直しに際して、高速道路上へのアンテナの設置(約50km毎)やシステム改修等を行なう必要があるが、世界的な半導体不足などが導入時期に影響を及ぼす可能性があり、具体的な時期については「改めてお知らせします」としている。

駐車枠を増やさないと状況は改善しない?

 そもそも深夜割引は割引料金によって混雑を緩和し、周辺道路の環境を改善することを目的としていたが、2014年4月より前の「50%割引」の時代は、時間調整のトラックが本線上にまで停車している姿がよく見られた。

 当時は適用時間帯の一部でも高速道路上にいれば5割引きが適用されるので、長距離トラックとしては利用しない手はなく、「高速道路上にダムを作ってトラックをせき止めているようなもの」という批判もあった。

 その後、割引率30%への引き下げで多少改善したものの、東京料金所付近のトラック滞留などがクローズアップされるようになった。今回の「走行分のみ30%引き」への変更は必然だったといえる。

 とはいえ、高速道路のSA・PAや料金所付近、周辺道路などがトラックで溢れているのは深夜割引だけが原因ではない。

 割引待ちのトラックの滞留や、それを原因とする労働環境の悪化が懸念される中、当のトラックドライバーたちは大型車の駐車スペースが全く足りていない状況を何とかしなければ状況は改善しないと考えているようだ。

 実際にトラックマガジン「フルロード」に寄せられたドライバーの意見としても、大型車の駐車枠不足を指摘する声が多い。

「高速道路の深夜割引を待つためにPA等が満車になるとよく言われますが、法律で決まっている『430休憩』や『8時間の休息』のほうが直接的な原因になっていると思います。より広い駐車スペースを確保するしかないと思います」(九州・長距離トラック)

「ドライバーとしては、料金・時間など気にせず通過できればいいですが、会社は割引料金を前提とした運行をしているので、そうもいきません。割引待ちのトラックを見て『ドライバーのマナーが悪い」で片づけられてしまいますが、現状、解決策がない問題です」(関東・大型トラック)

「深夜割引などのプライシングで混雑を緩和するのは悪くない手法に思えますが、その深夜割引によってトラックの駐車場不足が引き起こされているのは皮肉なことです。大型車休憩スペースの確保に鑑みると、深夜割引は必ず足枷になると思います」(関東・大型トレーラ)


 制度設計上の問題を抱えながら、トラックドライバーの努力によって世界トップクラスと評される精確な物流を実現しているのが日本の現状だ。制度を見直すなら、その努力が報われるものにして欲しい。

 高速道路以外で大型車の駐車が可能な施設として、トラック協会が運営するトラックステーションがあるが圧倒的に数が足りず、他には道の駅やコンビニの駐車場があるくらい。工業団地や荷主の施設は、ジャスト・イン・タイムを求めるいっぽうで、夜間には入れない所も多い。

 深夜割引の見直しがトラックドライバーの労働環境や物流の諸問題を解決するとは思わないが、それを一つの契機として、一般道でのトラック駐車場や物流施設の待機場整備、荷主企業の理解などを進めないと、持続可能な物流を確保することが難しくなってきている。

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