国鉄・JRの鉄道線から転換されたバス路線「代替バス」72路線のうち、全国で54路線が現在も活躍中だ。鉄道時代と同じ場所を起点に同じ目的地を代替バスで目指し、無事戻ってこられるか……JR江差線の代替バスだとこうなる!!
文・写真:中山修一
平成後半に生まれた代替バス
北海道の有名観光地の一つである函館。地図で見て函館から左下に進んだ中間あたりに木古内(きこない)町があり、木古内町から日本海側へ向けて左斜め上に行くと江差(えさし)町に辿り着く。
この函館・木古内・江差の間をJR北海道の鉄道がかつて通っていた。江差線がそれで、正確には五稜郭〜木古内〜江差を結ぶ79.9kmの路線だ。
五稜郭〜木古内間37.8kmは本州から青函トンネルを抜けてくる特急や急行・貨物列車が通る大動脈、木古内〜江差間42.1kmは1両編成のディーゼルカーが走るローカル線と、木古内を境に正反対の性質を持っていた。
営業係数で言うと大動脈/ローカル区間とも100円稼ぐために2〜300円程度かかり赤字だったようだ。2016年の北海道新幹線開業に先立ち、2014年に木古内〜江差間が廃止となった。
五稜郭〜木古内間もJRとしては2016年に廃止となったが、第三セクターの道南いさりび鉄道が引き継ぎ、鉄道として存続している。
木古内〜江差間は代替バスが新しく設定されることになり、2014年5月に函館バスが運行を開始した。
バス転換後、江差側の始点と終点がJR江差駅周辺ではなく、江差の市街地を通った少し先の江差病院または江差高校に変更となっている。
本数は鉄道と変わらず1日上下6本ずつ。鉄道時代の同区間の駅数10駅に対してバス停は全50箇所と、乗降できる場所がキメ細かくなった。
函館エリアの「乗り鉄」常套手段
鉄道があった頃は「函館にいるなら江差を目指せ」と言わんばかりの、恰好の乗り鉄ゾーンであった。ダイヤ的にも無理のない便が設定されており、以下のような函館を拠点にした日帰りの行程が組めた。
122D 函館10:27発 → 江差12:55着
江差に着いてすぐ折り返し便で帰ると
125D 江差13:13発 → 函館16:21
であったが、函館から80kmも離れた場所へ行くなら現地観光を少しやっときたい!! と思ったら
4177D 江差16:16 → 木古内17:22
スーパー白鳥27号 木古内18:10 → 函館18:53
というプランが使えた。
代替バスで日帰りできるか
鉄道が廃止されて約8年経った2022年現在も、函館からほぼ同じ経路を辿って江差へ向かい、以前のように問題なく戻って来られるのだろうか。
函館から江差まで直通の路線バスがあるため、普通はそちらを選ぶハズ。しかし、せっかくなので代替バスをアクセス手段に組み込んで昔を懐かしみたいところだ。
あまりにも早朝出発や終バス終電で戻ってくるのは避け、現実的な時間帯で完結できるよう行程を割り出し、現地へ赴いて確かめることにした。
まず函館8:55発の道南いさりび鉄道線の1両編成のディーゼルカーに乗車し木古内へ向かった。所要時間は1時間13分。進行方向左側に海が広がり車窓からの眺めは折り紙付きだ。
10:08に木古内に到着後、江差線代替バスの出発まで59分の待ち。新幹線の木古内駅開業に合わせて駅周辺がきれいに整備され、楽しみながら時間調整できるようになっている。
駅前には道の駅が営業しており、観光案内所、おみやげ売り場、レストラン、トイレ、コインロッカーなども用意され便利だ。木古内駅から5分くらい歩くと浜辺にも出られる。
以前は在来線側から駅舎を正面に見て左側に木古内駅のバスターミナルがあったが、周辺の整備にともない右側にバス乗り場がロータリーごと移転した。
ポンチョが働く!! 江差線代替バス
出発3分前にバスが入線してきた。2011年にマイナーチェンジが行われた日野ポンチョのショートモデルだ。
従来の函館バス車両とは異なり、江差線代替バス専用カラーが施されている。
函館バスは交通系ICカードが使える。後払い方式なのでIC払いを希望する際は乗車時にカードをタッチするのをお忘れなく。
4名ほど乗車し、11:07に発車した。木古内の町を抜け海峡線の踏切を渡り、道道5号「江差木古内線」をバスは進んでいく。
バスのメインルートの約2/3がこの5号線であり、停留所へ立ち寄るため時々ルートから外れて再び5号線に戻るのが大まかな経路だ。
津軽海峡側から日本海側へ内陸部を突っ切って進むため、山の中を縫うように道路が通っている。途中の沿線人口はそれほど多くないようで、車窓からの景色は人工物より緑のほうが圧倒的に多い。
線路のあった路盤と並走する箇所が点在していて、バス乗車中に鉄道時代の遺構が所どころに現れるのも見逃せない。
全区間の走行距離が50kmくらいあるため、ポンチョの路線バスとしては相当長い。それもあってか、40分ほど経った先の経由地「湯ノ岱(ゆのたい)」バス停で数分間のトイレ休憩を挟んだ。
約40km走るといよいよ日本海側に達する。ここで道道5号線が終わり、国道228号線へとシフトする。5号線と228号線の接続地点がラウンドアバウトになっているのが面白い。
途中「江差ターミナル」というバス停を通る。ターミナルと付くだけに街の中心部だろうと思いきや、市街地から3kmほど離れている。ここで下車すると「罠」というほどではないが健康ウォーキングが少々追加されてしまう。
代替バスはJR時代の江差駅前は通らない。「南が丘通り上り口」が最も違い停留所にあたる。
ただしJRの江差駅も市街地から1km離れた場所にあったので、街の中心まで行ってくれる現在の代替バスでは、もうしばらく乗っておくほうが観光に好都合である。
旅行者的に少々戸惑うのが、「江差」と名のつくバス停が街の中心部に1つもないことだ。目視で外の様子を確認しながら、おおむね間を取ったあたりと思われる12:40着の「橋本町」バス停で下車した。
「トンボ帰り」はできない!!
乗り鉄のド定番と言えば、来てすぐ帰る、である。しかし代替バスの木古内行きが来るのは15:59だ。この15:59で来た道を戻れば鉄道時代と同じ要領の行程となる。
ところが木古内まで出た先に軽いトラップが待っている。17:37に到着後、道南いさりび鉄道線函館行きの出発時刻は19:15。函館着が20時を回ってしまい、時刻的にちょっと遅くなるのだ。
この時点で「同じ行程」ではなくなってしまうものの、橋本町を15:22に出発する新函館北斗経由・函館行きのバスがあり、そちらを利用すると17:41に函館に着ける。
函館行きバスは代替バスと経路が異なり、ちょうど函館〜函館を一筆書きで行って帰ってくる形になる。
いずれにせよ江差で2時間以上の滞在時間が作れる。お昼時に到着するのでランチにちょうど良く、食事を済ませた後は周辺を散策して過ごせる。
江差の町で目を惹くのが、1868年に江差沖で座礁沈没した幕府海軍の軍艦「開陽丸」の実寸大レプリカだ。
中は記念館になっており、坂本龍馬が所持していたものとほぼ同型のスミス&ウェッソン製リボルバーの残骸群や各種銃弾砲弾、ビン・食器類など、本物の開陽丸から引き揚げられた遺物が展示されている。
開陽丸のすぐ隣に聳える「かもめ島」も散策用に整備されており、徒歩で島内を回って楽しめる。島の上から眺める日本海や江差の町は壮観だ。
帰りは木古内行き代替バスではなく15:22発の函館行き路線バスを利用することに。この日はトイレ付きの高速車相当の車両がやってきた。2時間以上の乗車時間を考えると嬉しい車両選定だ。
新函館北斗駅ロータリーで軽い交通障害が起きたのと、函館市内のラッシュ時間帯にかかったため30分遅延したが、ちゃんと函館駅前まで戻って来られた。
ダイヤの都合で今のほうが早発・早着になっているが、代替バスの片道利用なら鉄道時代からの時間的な変化は極端に大きなものではなく、総じて「ほぼ同じ」と考えてよい範囲であった。
運賃面では鉄道時代が帰りに特急を使った場合計3,800円だったのに対してバスは計4,320円。異なる事業者の交通機関を利用するため少し高くなるのは仕方ない。
ちなみに、代替バスの部分を無視して函館〜江差直通バスを往復利用すると運賃は3,800円なので、JR江差線時代と同額になる。
鉄道がバスに置き変わっても、函館〜江差日帰り旅は今も似たようなプランで行ける、と分かった。
投稿 トンボ帰りはムリ!? 廃線代替バスでも鉄道と同じ日帰り旅ができるのか問題 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。