12月23日に25周年を迎えたグランツーリスモシリーズ。記念すべき25周年を迎えるにあたり、グランツーリスモシリーズの開発を手がけるポリフォニー・デジタルは、メディア向けに東京スタジオのスタジオツアーを開催。そこでは、ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデントの山内一典氏がプレゼンテーションを行い、グランツーリスモの原点、そして収録コースやクルマ、サウンドの製作について語った。
プレゼンテーションに登壇した山内氏はまず、グランツーリスモシリーズを開発するポリフォニー・デジタルという会社について説明した。ポリフォニー・デジタルは1998年、初代グランツーリスモのリリース直後にソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のサテライトカンパニーとして設立された。
当初のコアメンバーはエンジニアが3名、アーティストが2名という規模だったが、2022年時点での社員数は約250名に及び、うち58%がアーティスト、27%がエンジニアと、開発に携わるスタッフが多くを占める。また、グランツーリスモの開発には欠かせない、自動車メーカーなどのさまざまな企業とのパートナーシップやコラボレーションを通じて、社会とどう繋がるかを担うエクスプロア(Explore/探検)と呼ばれる職種が6%を占めている。
続いて、山内氏からグランツーリスモのランドスケープデザイン、つまりコースがどのように作られているのかが語られた。
プレイステーションでリリースされた初代グランツーリスモは240p(320×240ピクセル)、秒間30フレームで描画されていた。最新作であるグランツーリスモ7をプレイステーション5で稼働した場合、解像度は4K(3840×2160ピクセル)、秒間60フレームと25年で大幅な進化を遂げている。
収録コース/ロケーション選定の条件のひとつ目は『コースレイアウト、高低差』が面白いかどうか。ふたつ目は『コースの知名度、歴史』。そして『景観の美しさ』だ。グランツーリスモでは架空のオリジナルコースも収録されるが、それらのコースの作成に当たっては世界中の景観の中から美しい景観を引用し、製作に反映させていく。
そして、実際にコースの収録にあたって現地を取材する際の工程についても語られた。まず、車載レーザースキャンのルート、固定型レーザースキャンの計測ポイント、ドローンの飛行経路の選定などが事前に計画される。
現地入りすると、徒歩によるスチールカメラ撮影が行われ、1コースあたり平均で30000点以上が撮影される。さらに、8K車載パノラマビデオの撮影、精度の異なる複数のレーザースキャンによるスキャンが行われる。なお、固定型レーザースキャンによって得られた点群データの誤差は0.2cm、車載型の誤差は0.5cmとのことで、その正確性には驚かされる。固定型と車載型合計でスキャニングデータは35億頂点にも及ぶが、ゲームデータになる際には、およそ0.5%に整理・圧縮されるとのことだ。
続いて、地形のモデリングに際しては、ハイトマップ(航空測量データ)を購入。ハイトマップからアウトラインを抽出した地形データに対し、アスファルト、グラベル範囲、縁石、アスファルトの補修パッチなどの要素の属性をつけていき、カーブデータを製作する。その後、タイヤ痕や汚れなどを表現するマテリアルを適用し、路面に質感が加えられるなど、複雑な工程を経て完成に至る。
ただ、パッケージに収録するにはここから軽量化、最適化の作業が重要となる。山内氏は「(軽量化・最適化が)作業のほとんどを占めると言っても過言ではないと思います」と語る。
続いてはカーモデリングだ。初代グランツーリスモではおよそ250頂点で作られていたクルマモデルだが、プレイステーション2用ソフトグランツーリスモ3では2000頂点に増え、グランツーリスモ7では100万頂点(曲面)まで増えている。
モデリングの精度が格段に向上したこともあり、初代グランツーリスモではモデリング日数は3日間だったが、現在のグランツーリスモ7では270日間と、制作期間も長くなっている。なお、グランツーリスモSPORTよりすべてのクルマの内装も再現されていることも忘れてはならない。もちろん、コース同様に収録車種についても最適化・軽量化のプロセスを踏むが、「プレイステーション5でもオーバースペックというくらい作り込んでいるので、おそらく今後それを作り直す必要はないだろうと思っています」と山内氏。
また、グランツーリスモシリーズに収録されるクルマについて、『自動車デザインの傑作』、『レースの歴史』、『人間の歴史文化に与えた影響力』、『人気車種や流行』、『これからの自動車史を拓くようなコンセプトカー』という点から選定されることも語られた。
クルマのデータキャプチャリングでは、自動車メーカーからCADデータなどの資料提供を受ける場合と、社内で行うデータキャプチャーを実施する場合がある。データキャプチャリングの際には据え置き型のレーザースキャナが用いられるが、こちらの精度は0.015mm。内装などのスキャニングで使用されるハンデ型レーザースキャナの精度0.025mmのものが使用される。
モデリング作業にあたり、自動車メーカーから提供されたCADデータは1000万〜2000万頂点とそのデータ量も膨大となり、そこから外観を損なうことなく10分の1から20分の1に削減する必要がある。また、CADデータは設計データのため、実際に生産されたオブジェクトとは異なる箇所も出てくる。「そういったところもすごくリアリティには影響するので、CADデータから軽量モデルに手作業で変換していく過程で、そういったニュアンスも加えていきます。そうでないとリアルには見えないです」と山内氏。
そして、迫力あるドライビングを演出する上で欠かせないサウンドレコーディングは、日本、北米、ヨーロッパの3拠点に実車を持ち込んでレコーディングが行われる。これまでシリーズ累計でおよそ1800台がレコーディングされており、その多くはシャシーダイナモ上で録音されている。どうしてもシャシーダイナモに乗せられない車両は、サーキットでの車載録音などが行われるという。なお、レコーディング施設のシャシーダイナモは、騒音を出さないようハブ直結式のモデルが採用されている。
■山内一典氏が制作したグランツーリスモ誕生に欠かせない3つの企画書
1997年12月23日に産声を上げたグランツーリスモ。山内氏は25年以上前のシリーズの出発点を振り返る。
「グランツーリスモの出発点に自動車文化への憧れ、憧憬がありました。それから物理シミュレーションへの欲望がすごくありました。プレイステーションは、物理シミュレーションをビデオゲームで扱える最初のハードウェアでもあったと思います。同じようにリアルタイム3Dグラフィックスについても、コンシューマーレベルで実現できる初めてのハードウェアだったとこともあり、そのあたりが出発点になっています」
「最初のグランツーリスモはとても実験的な作品でした。それはグランツーリスモ7になってもあまり変わっておりません。当時の私としては実験的にこのようなゲームタイトルを作ってみたいと思っていましたが、それが25年間続くとは想像していませんでした」
また、新しいゲーム機、新しいゲームタイトルだけに、開発には技術面以外にも大きなハードルがあった。
「このグランツーリスモを製作するにあたって、当初はまだプレイステーションもなかったですし、ソニー・コンピュータエンタテインメントという会社も、グランツーリスモもなかったわけですけれど、リアルなクルマを収録することは自動車メーカーの許諾を得る必要がありました。許諾をどうのように得るのかが最初のハードルでした」
「そこで僕は3つの企画書を作りました。ひとつはこれから設立されるソニー・コンピュータエンターテイメントの会社説明のプレゼンテーション。それからその会社が作るプレイステーションというビデオゲームコンソールのプレゼンテーション。そしてグランツーリスモのプレゼンテーションと全部で3部構成になっていました。なかなか自動車メーカーの許諾が得られなかったのですけれども、トヨタ自動車の代表番号に電話をかけて、最終的にある担当者の方に繋がりました」
「池袋のアムラックス(2013年まで営業されていたトヨタ自動車のショールーム)まで行き、その担当者の方にこの3つのプレゼンテーションを2時間半ほどかけてやったところ、その担当者の方が『やってみましょう』と言ってくださいました。そこからは、『トヨタさんがやるならうちも』という感じで、他の自動車メーカーの皆さんも協力していただけることになりました」
プレゼンテーション終盤、山内氏は、グランツーリスモが25年間続いてきた理由を以下のように語った。
「なぜグランツーリスモが25年間続いてきたかについてですが、グランツーリスモは世界とのコミュニケーションをとても大事にしてきました。その中で、さまざまなパートナーであったり、人物であったり、いろいろな人たちとの出会いがありました。それぞれの会社だったり、事物が持っているエネルギーが自然に流れるような。そういう仕組みをグランツーリスモは作ってきたのではないかと思っております」
「エネルギーが、あるところからあるところへ流れるときは最も効率の良い形で渦を作ります。それは川の水面もそうですし、あるいは宇宙の銀河もそうです。そういう渦のような存在、つまり一見そこに静止してあるかのように見えて、実はエネルギーの出入りがあり、つかの間にその姿を保っている。そういう渦のようなものがグランツーリスモなのではないかと思っています」
誕生から25年を迎えたグランツーリスモシリーズ。今後もクルマファン、モータースポーツファンを大いに楽しませてくれる存在に違いない。
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