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 クルマのタイヤはたとえ溝が残っていても年数や走行距離、劣化状態などから交換したほうがいいのかどうか迷うことがある。タイヤのパンクやバーストが多いのは、見た目は残り溝があっても使い続けていることでリスクが大きくなることもあるだろう。タイヤのどこを見るべきか、走っているとわかるのか、プロドライバーのハル中田氏が指南する!

文/ハル中田、写真/AdobeStock(トビラ写真:Kirill Gorlov@AdobeStock)

■ポイントを抑えないと大事故に!

タイヤを交換するタイミングは大事。しかし、使い方と見極める目、こまめな目視による確認も重要になってくると筆者は指摘する(明彦 久保田@AdobeStock)

 これまたひと筋縄ではいかないテーマですね。しかし、安全安心なカーライフを送るうえではとても大事なポイントです。

 私自身、貧乏学生でボログルマでサーキットを走り回っていた頃は、ヤフオクで中古タイヤを大量にゲットしてはとっかえひっかえしていました。また、クルマのサスペンション開発では切っても切れない関係にあるタイヤを扱うなかで、タイヤメーカーの技術者にかなり突っ込んだ内容まで教えてもらいました。

 そうした理論知識と実践経験を踏まえて言うならば、「5年経ってもだいたい大丈夫。10年経っても程度と使い方がよければ無問題」です。

 しかし、そのいっぽうで「抑えるべきポイントがある。そこを見落とすと確実に大事故に繋がる」というのが実際です。

 そのポイントを並べていくと、

・残り溝

・タイヤ表面のヒビ割れ

・ゴムの硬さ、見た目の白さ

・表面の凸出っ張り(ピンチカット)、エグレ傷

・古いタイヤほど、空気圧管理!

 主に、この5点です。

 運転していて異常を感じたらタイヤはすでに完全破壊=大事故になる直前。大事なのはこまめに愛車のタイヤを目視確認することです。では詳細を見ていきましょう!

■大前提は「迷ったら安全サイドで交換を!」

 もし、見極めるのに自信がなかったり、判断に迷ったりしたら、必ず慎重に安全サイドで考えてください。

 一般的にタイヤ交換の目安は「製造から5年。もしくはスリップサインが出たら(残溝1.6mm)」と言われますが、これは「通常想定される最も悪い条件で使われていたとしても、この範囲なら安全」という設計で作られているからです。

 もし迷ったら必ずこのガイドラインで判断してください。どんな高性能車であろうとも唯一地面に接地してグリップを確保しているのはタイヤだけです。タイヤのトラブル=事故です。ここは絶対に抑えましょう。

■「残り溝1.6mmまでOK」ってホント??

これはスリップサインなので論外だが、街乗りメインなら1.6mmでも問題なしだと筆者は指摘。ただ、雨の日に高速に乗るなら3mmで交換するのがベターとのこと(Kumi@AdobeStock)

 本当であって、本当ではありません。街乗りメインならばあまり問題ありませんが、雨の日の高速ドライブもあり得るならば、せいぜい3mmくらいで交換したいところです。

 理由は、ハイドロプレーニング現象(ハイプレ)がいとも簡単に起こるから。

 例えば、高速道路を時速80kmで走っていて大雨になり、視界が悪く目の前の渋滞に遅れて気づき、ブレーキを思い切り踏み急停止しようとした時を仮定します。最近主流の粗い透水性舗装ならいいですが、昔ながらの平滑な水がたまりやすい路面で、水深2mmくらいの場合。

 新品バリ溝(7~10mm)のタイヤならば30mくらいで止まれて事なきを得ますが、スリップサイン1.6mmだと確実にハイプレを起こし、倍の60mくらいの停止距離になって止まらず追突してしまいます。そもそも水深のある路面に入った瞬間にブレーキを踏まずともわずかな横Gで吹っ飛んだりします。

 なので、高速道路を雨の中も走る可能性が少しでもあるならば、残溝3mmくらいで交換して欲しい。安全のためには最も大事。

■タイヤの表面のヒビ割れ、大ヒビは交換!

タイヤ表面のヒビについては小さなものについては問題なしだが、それが進展して大きなヒビになってしまった場合に問題となる(chihana@AdobeStock)

 小じわのような小さなヒビは大丈夫。大きなヒビは交換しましょう。

 小さなヒビはトレッドブロックの根本ら辺とショルダー部に、サイドウォールならば模様や文字の周辺など、製造時の残留応力の発生しやすい場所や走行時に変形しやすい箇所に発生します。ぶっちゃけ、小さなヒビは表面のみで深くはないのでまったく問題ありません。

 しかし、それが進展して深く大きなヒビになったら話が変わります。

 トレッドなら金属ベルト、サイドならばプライカーカスなどの内部構造にまでヒビが達してしまうと、ゴムとの隙間に水が入り込んで構造材との接着が弱くなり、走行中にゴムが剥がれたり、内部構造が腐食して突然のバーストに繋がります。

 大きなヒビは即交換! ぜひ徹底を。

■ゴムの硬さ、タイヤの白さ

まずは自分の愛車のタイヤを触ってみることが大事。表面の硬さや表面の白さが明確な場合はゴムの劣化が確実だという(norikko@AdobeStock)

 一般的に、タイヤを触ってみて表面が硬いなーとか、タイヤの表面がうっすら白くなってるなーと思ったら、ゴムが劣化しており、交換する目安になります。

 しかし、溝は減ってないし細かなヒビ割れも全然ない場合は、単純に最近走ってないのでごく表面のみ、薄ーく劣化しているだけ、という場合もあります。この場合は実際に装着して走行することで表面の柔らかさが戻るケースもあります。

 タイヤゴムは暑さや風雨、太陽の紫外線にさらされることで表面から劣化していきます。しかし、ゴムには劣化防止材が練り込んであり、走行してゴムが”揉まれる”ことで、この劣化防止剤が常に表面ににじみ出てくるようになっています。

 なので、走り続けることで常に表面に劣化防止剤が出てくる状態になるのです。クルマ本体と同じく、タイヤも動かないまま悪環境で放置されることが最も劣化に繋がるのです。

 逆に言うと、いくら走行し続けようが内部の劣化防止剤が完全に枯渇しているようなカチカチの古タイヤは……交換しましょう。ゴムの柔らかさ=グリップ。硬いタイヤはグリップしません。

■表面の凸出っ張り(ピンチカット)、エグレ傷

タイヤのバーストにつながってくるような損傷には気を付けたいU(琢也 栂@AdobeStock)

 基本的にこれらは即交換です。しかし、大丈夫な場合もあります。

 例えば、タイヤのサイドウォールやトレッド面の一箇所ピンポイントがポコっと出っ張っている場合は、内部構造の損傷から来るピンチカットの可能性が高く、走行を続けると突然のバーストに繋がるので即交換してください。

 一方、最近は燃費を求め、特にエコタイヤはサイドウォールがどんどん薄くなっています。そうなると内部構造プライカーカスのつなぎ目が表面に段差となって出てくることがあります。サイドウォールの段差がタイヤ垂直方向に端から端までわずかに入っている場合はこのケース。特に問題ありません。

 エグレ傷もひび割れのケースと同様、表面のゴムのみの場合は大丈夫。もし内部構造まで達していそうならばこれも同じ理由で即交換を!

■古いタイヤほど、空気圧管理をしっかりと!

古いタイヤになればなるほど空気圧には気を配ってほしいと筆者は指摘する(Jo Panuwat D@AdobeStock)

 最後にタイヤの基本のキを持ってくるのは気が引けますが、実際はこまめに確認している人は少ないのではないでしょうか?

 空気圧が適正でないとグリップや快適性などが悪くなるだけでなく、特に低すぎる場合は高速走行でのスタンディングウェーブ現象からのバーストなどの大事故に繋がります。

 冬から夏にかけて気温が上がっていく時期は空気圧も上がっていき。そこまでマメに確認する必要はありませんが、逆に夏から冬にかけて気温が下がっていく時期は思った以上に空気圧は下がっているもの。ぜひこまめに確認してください。

 特に古いタイヤでゴムが硬くなっていると、この空気圧管理がさらに重要になってきます。

 空気圧は高すぎても低すぎても当初の設計を超えた変形圧力がかかります。新しくゴムが軟らかいうちは吸収できますが、古く硬くなったゴムだと吸収しきれません。

 空気圧が高すぎるとトレッド剥離が起きやすくなり、低すぎてもトレッド剥離やスタンディングウェーブ現象で文字どおりタイヤが粉砕されたりします。恐ろしや。

 新しいタイヤはもちろん、古いタイヤはそれ以上に空気圧に気をつけてください。

■まとめ

 このように「5年か1.6mm」とよく言われるタイヤの寿命について実際のところを書いてきました。何度も言いますが、タイヤは重要保安部品。もし自信がなかったり、判断に迷ったりしたら絶対に安全サイドで交換をしてください。

 しかし、そのいっぽうで今はサステナブルやエコロジーが求められる時代。まだまだ使えるタイヤを安易に捨ててしまうのも考えものです。

 ぜひ皆さんの懐事情やクルマとの付き合い方を踏まえ、最適なタイヤライフをお送りください!

【画像ギャラリー】一歩間違えば大事故につながるだけに怖い! タイヤはいつ交換するのがベストなタイミングなのか!?(4枚)画像ギャラリー

投稿 溝残ってても交換てマジか!? 「タイヤ5年交換説」の根拠っていったいどこにあんのよ!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。