フェラーリのチーム代表を退任するマッティア・ビノットは、2020年5月にセバスチャン・ベッテルに電話したことをいつまでも覚えているだろうと述べている。それはビノットのプロとしてのキャリアのなかで直面した「最も困難な仕事」のひとつだったという。
当時、新型コロナウイルスの影響でF1シーズンは大きく混乱し、開幕が4カ月遅れたが、フェラーリはシーズンが始まる前に、2021年のドライバーラインアップについて発表するという異例の決断を下した。この発表は、ベッテルとの契約を更新しないというフェラーリの決断であり、ビノット個人にも影響を与えるものだった。
「まず、セバスチャンは素晴らしいドライバーだ。自分自身がそう語っているとは思えないが、彼が成し遂げたことは素晴らしく、ずば抜けていて、驚異的だ」とビノットは、2022年シーズンの終わりを迎える前に語っている。
「フェラーリとして彼をチームの一員に迎えることができて幸運だったし、重要な6年間だった。ドライバーとして彼は多くのことを成し遂げたが、それ以上にひとりの人間として多くのことをもたらしてくれたと思う。フェラーリのファンはみんな、今でもセバスチャンを愛している」
「事実、フェラーリを愛しているファンのひとりひとりと、我々フェラーリの全員が、彼のことを今も愛している。私たちはそう感じている。素晴らしい年月だったと思う」
「最後に、契約を更新しないと何らかの形で彼に伝えるのは、私にとっては難しいことだった。私のキャリアを通じて行った仕事のなかで、一番困難なことだったかもしれない。彼のような好意を抱いている人と仕事をともにすることを楽しんでいるというのに、終わりを迎えるのはいつも難しいものだ」
「私のキャリアにとっても重要な局面だったと思う。なぜなら、困難を乗り越えて強くなれるからだ。だがこのことは最も困難だったこととして記憶されるだろう」
ベッテルはグランプリドライバーとしての最後の2年間をアストンマーティンで過ごしたが、ビノットのベッテルへの敬意から、フェラーリは先月アブダビでの最後のF1出走を前に、ベッテルを讃える時間を取った。ベッテルは6年間のフェラーリ在籍中に世界チャンピオンに返り咲くことはできず、彼はその責任は自身にのみあるとしている。しかしビノットは、タイトルを獲得できなかったのはチーム全体の努力の結果だと主張することで、ベッテルの責任を幾分軽減した。
「彼は何らかの形では正しいと思う。彼はフェラーリに加入した時は野心的だったし、目標はフェラーリとタイトルを勝ち取ることだった。それは彼とともに我々の夢と目標でもあったと思う」
「彼の失敗ではあったが、チーム全体としての失敗でもあった。彼は非常に近いところまで行った。2017年と2018年に最も近づいた。我々には何度かチャンスがあったのだ」
「我々はチャンスをつかむことができなかった。最終目標がタイトル獲得なら、それが達成できなかったということは失敗だということだ」