マクラーレンのテクニカルディレクターを務めるジェームズ・キーは、2022年シーズン序盤に広がったポーパシングの問題をF1が予期していなかったことに驚いたことを認めている。
新しい技術レギュレーションの導入には、グラウンドエフェクトの復活も含まれており、それが1980年代以来F1では発生していなかったポーパシング現象の再発につながった。不均一な路面では、高速ストレートを走行中にアンダーフロアと路面の間の負圧が断続的に失われる。つまりマシンは一瞬飛び上がってグリップを失うので、全体的にスピードとハンドリングに影響が出てしまう。過去には、動的にマシンのライドハイトを変更するアクティブサスペンションでこの現象を打ち消していたが、現在のルールでは禁止されている。
メルセデスは特にポーパシングのひどい影響を受けていた。一方のレッドブルはほとんど影響を受けていなかったが、それはエイドリアン・ニューウェイの知識と経験のおかげだろう。彼は最初のグラウンドエフェクトの時代もF1で仕事をしていたのだ。
F1のチーフテクニカルオフィサーを務めるパット・シモンズは、2022年に向けてポーパシングに彼らが注目したことはなかったと認めており、モータースポーツ担当マネージングディレクターのロス・ブラウンは、各チームがシーズン前の風洞テストでこの問題を予見していなかったことに驚いたと述べた。
キーは、F1は新レギュレーションを考案する際にこの問題を予測するべきだったと語ったが、ルール変更のうちチームはふたつの重要な側面を予測できず、ポーパシングはそのうちのひとつだったことを認めた。
「我々にとってそれほど明白ではなかったことがふたつあったと思う。ひとつはポーパシングで、誰もが見逃してしまった」とキーが語ったと、今週『PlanetF1.com』が報じた。
「我々が1980年代のことを十分知っており、前回は1970年代にそれが問題になったことを覚えている年齢だったら、おそらくもっと賢明に対処しただろう」
「だが実際には、シーズンの序盤にあれだけひどくなるという可能性を誰もが見落としてしまった。解決に予想以上に時間がかかってしまった」
ほとんどのチームがポーパシングの対処に成功したが、FIAは過度のバウンシングからドライバーの健康を保護するため、2023年に向けてさらなる変更を導入する。
■新規則の導入で「予想以上に多くのオーバーテイクを目にした」
2022年に驚いたこととしてもうひとつキーが指摘したのは、トウがいかに過小評価されたか、ということだ。ドライバーは先行するマシンのスリップストリームに入ることでストレートでスピードを増し、オーバーテイクをしやすくなる。
しかし新ルールは、先行車が生み出す乱気流を削減するように設計されており、そのアプローチに大きな違いをもたらした。
「我々が利用していたスリップストリーム効果は、明らかにオーバーテイクの一部だったが、それがなくなったのだ。コーナーである程度追いかけることができるようになり、風の強いコースではわずかに楽になったかもしれないが、その効果は間違いなくそれほど強力ではない」
「正直に言えば、どうして物事を正しながら、他のものを破壊してしまうのかがわからない。かなりトリッキーなことだ。我々はそのなかで何かを失ったのだろう」
しかし2022年にすべてが計画通りに進んだわけではないものの、F1とFIAが新ルールとレギュレーション策定について行った仕事を、キーは全体的に評価している。
「以前は難しかったコースで、チーム同士が追いかけあったレースがあったのは間違いないことだ。予想以上に多くのオーバーテイクを目にした。たとえばハンガロリンクや、これまでオーバーテイクが難しかった他のコースでもそうだ。ドライバーたちはみんな、追いかけやすくなったとコメントしている。だから目標は達成されたのだ」
「この取り組みをまとめ、初期の研究の多くを先駆けて行い、各チームと非常に積極的に協働したFIAの功績だ」