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 経済産業省の中小企業庁は、先ごろ価格交渉促進月間(2022年9月)のフォローアップ調査の結果を発表。中小企業における発注元企業への価格転嫁・価格交渉の現状が明らかになった。

 原材料費やエネルギー費の高騰が続き、厳しい経営状況が続く中小企業だが、中でも立場の弱い企業が多い運送事業者は、交渉の場につくことさえもむずかしいケースもある。

 物流の2024年問題が目前に迫った運送業界だが、今回の調査結果を見る限り、肝心の「適正運賃の収受」はまだまだ厳しい現状しか見えてこないのだ!

文・写真/フルロード編集部、グラフ/中小企業庁

価格交渉促進月間のフォローアップ調査の概要

トラック運送業の価格転嫁・価格交渉の絶望的現状が明らかに!! 中小企業庁が価格交渉調査結果を発表
長らくつづく燃料価格高騰はダイレクトにトラック事業者の経営を逼迫。パワーバランスの弱い中小企業ほど価格転嫁はむずかしい

 中小企業庁は、3月と9月を「価格交渉促進月間」として設定し、中小企業が、原材料費やエネルギー価格、労務費などの上昇分を、発注元企業に適切に価格転嫁をしやすい環境を整備するための取り組みを進めている。

 この取り組みの一環として、中小企業に対するフォローアップ調査が3月期と9月期に実施されており、今回の9月期における調査は、2022年9月26日~11月9日の間に1万5195社からアンケートや下請Gメンによるヒアリングで回答を得たもの。

 先に全業種の結果を記すと、3月期の調査結果と比較して、価格交渉では依然として1割程度が協議できていないが、価格転嫁の状況はやや改善が見られた。

 ちなみに、価格の交渉に応じた発注側企業の業種別ランキングでは、1位が石油製品・石炭製品製造、2位は鉱業・採石・砂利採取、3位は卸売で、価格転嫁に応じた業種別ランキングでは、1位が石油製品・石炭製品製造、2位は機械製造、3位は製薬となっている。

 また受注側中小企業の業種別ランキングでは、「交渉」が1~3位順に紙・紙加工、卸売、機械製造、「転嫁」が1~3位順に卸売、紙・紙加工、小売という結果になった。

運送事業者の価格交渉・転嫁の現状

 いっぽうトラック運送業は、発注側企業の「交渉」「転嫁」ランキング両方で最下位。受注側中小企業の「交渉」では全22業種中、19位であったが、「転嫁」は最下位である。

 3月と9月の調査を比べると、直近6カ月間の価格交渉の協議の割合は「取引価格を発注側から減額する申し入れがあった」が前回1.2%→今回1.0%と誤差レベルで改善されたものの、「協議を申し入れたが応じてもらえなかった」が5.9%→16.8%と悪化。いっぽう「価格反映のための協議に応じてもらえた・発注側から申し入れがあった」が51.8%→45.5%と、こちらも悪化している。

 また直近6カ月間の価格転嫁の状況をみると、1割でもコスト上昇を価格転嫁できた企業は37.5%の前回から今回は46.2%に改善されたが、「マイナス(費用は上昇してるなか逆に減額)」が前回の1.8%から8.6%に悪化している。

前回と今回のトラック運送業における価格交渉の調査結果の比較。改善とはいいがたい現状だ(※グラフはクリックすると拡大します)
前回と今回のトラック運送業における価格交渉の調査結果の比較。改善とはいいがたい現状だ(※グラフはクリックすると拡大します)
こちらは価格転嫁の調査結果の比較。コスト上昇分を取引価格に反映できた企業の割合は増加したが、逆に減額されたトラック運送事業者も増加している
こちらは価格転嫁の調査結果の比較。コスト上昇分を取引価格に反映できた企業の割合は増加したが、逆に減額されたトラック運送事業者も増加している

 調査結果を踏まえると、トラック運送業への理解を示す発注側企業がやや増えているものの、産業全体で著しくコスト上昇が起きているため、そのしわ寄せが立場的に弱い側へ反映されつつあるということだろう。

 中小企業庁ではこれらの結果をもとに、今後、状況の良くない発注側の個別企業に対して、下請中小企業振興法に基づく「指導・助言」の実施を検討し、業種別の自主行動計画やガイドラインの拡大に取り組んでいくとしている。

下請Gメンのヒアリング等によるトラック運送業の生声

 最後に、下請Gメンがトラック運送業へヒアリングした生声を紹介していく。まず改善されたという声は、

「2022年9月に価格改定要請を行ない、燃料費および労務費ともに改定された」

「初夏に取引先よりガソリン代の値上がり分について認めるという申し出があった。また、残業代についても、口頭での申し入れにより10%程度の値上げを認めてくれた」

「2022年秋に、燃料費をはじめとしたコスト上昇分の値上げ要請を行ない、現在は取引先からの回答を待っている。ある程度は認めてもらえる見通し」

 いっぽう芳しくなかったケースは、

「3年前より運賃が上がっていないこともあり、夏にガソリン代、労務費の値上げを口頭により求めたが、一切相手にしてくれず、何%アップという話までいかない。取引先からの残業代は、時間単価で最低賃金を下回っており、不足分は自社が負担している。荷主からの運賃が厳しいため自社への付帯業務料や料金を削減しようとする。運賃を下げられることもある」

「2022年春より運送価格が改定されたが、改定価格も10%程度上乗せ価格で、なぜその金額になのか全く理解できない金額である。ただ『価格の見直しをしました』だけの内容で、軽油価格の上昇分が全く転嫁できない。労務費等その他の経費の反映もできない」

「燃料代高騰分を2022年春に交渉。回答がなかなか届かず、数回電話もしたが『上司と相談する』等で、結局回答はなかった」

「2022年夏月頃に取引先から燃料サーチャージを導入すると連絡があった。実際に支払われる金額が、元々の取引金額に関係なく毎月増減して、説明を求めても『わからない』『教えられない』と繰り返すだけ。燃料サーチャージ料金の根拠も、いつまで支払ってもらえるかもわからず、委託先への配分もできず困っている」

 などとなっている。

 トラックドライバーの労働環境の改善には、荷主企業の理解と協力が不可欠だが、こんなテイタラクでは「物流の2024年問題」は必ず起きる。そのとき痛い目に遭うのは、価格転嫁・価格交渉にも応じない傲慢な荷主企業であることを肝に銘じるべきだろう。

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