かつて地方選手権で速さを見せ鳴り物入りで全日本ロードレース選手権に上がって来た荒川晃大だったが、なかなか勝つことができずにいた。地方選手権では、同じレベルで走るライダーがいなかったこともあり、いつも独走優勝だった。全日本ロードでは、小山知良、岡本裕生、南本宗一郎、埜口遥希、長尾健吾、羽田太河など蒼々たるメンバーに揉まれながらも、成長してきた。
2022年シーズンは、優勝こそ1回にとどまったが、6戦中5戦でポールポジション、モビリティリゾートもてぎ、スポーツランドSUGO、そして鈴鹿サーキットと3コースでコースレコードを保持する速さを見せつけた。
最終戦鈴鹿は、有利な状況で迎えており、得意としているコースで勝って決めたい思いもあったが、そんな思いとは裏腹に気持ちよく走ることができずにいた。
「最終戦は、好きな鈴鹿でしたしチャンピオンのプレッシャーもなくリラックスして走れると思っていました。実際は木曜日から、うまくペースを刻むことができず不調が重なり、それがプレッシャーとして降りかかってきた感じでした。鈴鹿のなかでは今までで一番悪い流れでした」
それでも公式予選では、2分10秒776を記録。ただひとり、前人未踏の2分10秒台をマークした。ST600では驚異的なタイムだ。
「予選はポジション取りがうまくいき、他力本願で無理矢理出した感じだったので納得いくアタックではなかったですね」
ポールポジションからスタートした荒川は、ホールショットこそ奪われるものの、すぐにトップに立ち、レースを引っ張っていきたいところだったのだが……。
「勝って決めたい思いもあったので、前に出て引っ張りたかったのですが厳しかったですね。予選までにアベレージを刻めていなかったですし、セットも毎セッション変えていてライディングも安定していなかったので、すぐに前に出られてしまいました」
レースは井手翔太がトップに立つと、これを小山が追っていく。荒川は國井勇輝との3位争いを繰り広げ最終ラップに前に出るものの、抜き返されて4位でゴールしてシリーズチャンピオンを決めている。
「2021年もチャンピオンのプレッシャーもありましたが、2022年はポイントでは余裕があったので気持ち的には楽でした。チャンピオンを獲ることよりも、鈴鹿で勝つためには、どうすればいいのかを考えてしましたが、結果的にうまくいかなかったので、周りからは“チャンピオンのプレッシャーで固くなっている”と思われてしまったみたいです」
「自分では、そうは思っていませんでしたが、後になって考えてみると(プレッシャーが)あったのかもしれません。チャンピオンという結果を残すことができましたし、いいシーズンになったと思います。4年目というのは、長かったと思いますが、2022年も新たなライバルもいましたし、ライディング面でも精神面でも成長することができました」
全日本ロードフル参戦4年目で得た初タイトルを引っさげて来シーズンは、ST1000クラスにスイッチする。
「来シーズンは、希望通りST1000クラスに参戦させていただけることになりました。1000ccにはF1日本グランプリでデモランしたり、慣らし走行をしたりしたくらいしか乗っていないのですが、ST600出身のライダーが活躍していますし、レベルの高いST600で戦ってきた自負があるので、いい結果を残していきたいですね」
2022年のST600クラスは、6レースで6人のウイナーが誕生した。それだけ実力が拮抗しており、トップ10に入ることも難しい状況となっている。そんななかで、荒川は、常にセッションを引っ張り、アタマひとつ抜きん出る速さを見せた。
また、スポット参戦したARRC SUGOラウンドではダブルウインを飾り、ダンロップスリックにも順応できることを証明した。最終戦を終えた直後に20歳になった荒川。近い将来、「世界へチャレンジしたい、そのためには自分自身で道を切り開いていかなくてはならない」とも語る。来シーズン、ST1000クラスで、どんな走りを見せてくれるか、今から楽しみなところだ。