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 ここ最近、オートバックスのような量販店からネット通販に至るまで海外製の格安タイヤが驚くほど売れている。国内大手メーカー同サイズタイヤの半分ほどの価格になっているケースも多く、その性能は落ちるのかというとそうでもなく、新型エクストレイルが純正採用していたのは韓国製タイヤだった。

 格安タイヤが出始めた頃は中国製のもっと安いタイヤ(日本ブランドの1本分で4本分)が中心だったが、なぜここまで海外製格安タイヤが品質面に厳しい日本市場で支持を得ているのか、プロドライバーとしての視点からハル中田氏に分析してもらった。

文/ハル中田、写真/中島仁菜、AdobeStock(トビラ写真:volody10@AdobeStock)、ポルシェ

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■必要以上にタイヤにおカネはかけたくないのが大多数のユーザー

新型エクストレイルのように国産主要モデルの純正採用タイヤで韓国メーカー製になっているクルマもある。それは別にして海外製格安タイヤが激売れになっているというが……

 なんとそうですか、激安タイヤが売れていると。ふむふむ。

 いやぁ、実にけしからんですね。クルマが地面に唯一接地しているのがタイヤ。タイヤの性能がクルマの性能を大きく左右します。大切な愛車にどこぞの馬の骨かわからん変なタイヤを装着するとは何ということでしょう。許せん!!!!

 ……なんて思ってしまったアナタはきっと、全国のカーオーナーのなかではとても希少なコダワリのカーライフを送られるエンスーな方。私が目にしたことのあるデータと身の周りの例を見るかぎり、「タイヤにこだわる人」というのは非常に少数派です。

「いやいやそんなことはなかろうよ。だってタイヤは大事でしょ? 安くても変なタイヤは怖いじゃん!?」とお思いの方。それはきっと”趣味の道具として、相棒としての大事なクルマ”をお持ちだからと思います。素晴らしい。

 しかし、大都市圏はともかくとして、地方の「日常のアシとしてひとり1台が必須」なクルマ社会ではどうでしょうか? 一部の好き者を除けば本当にアシ。単なる下駄。そんなものにお金はかけたくないのです。安さが正義。

 もし、あなたが都市圏に住んでいて普段のアシに自転車を買おうとしたらどうしますか? 自転車好きでもないかぎりはそこらへんの適当なママチャリを買うでしょう。もしそのタイヤがパンクしたらどうします? わざわざ国内有名メーカーのお高いのを買いますか? その横に適当な安いのがあればそれを買いませんか? だって大して変わらないんですもん。別に困らないし。そこでお金が浮けばそのぶん酒でも飲めるのです。安いのバンザイ!!

 ……というのが、そのままクルマにも当てはまってしまうのです。

■いいクルマに乗っていてもタイヤには無頓着な人も多い?

都心に住んでいる筆者の友人はポルシェなどバリバリの高級車を所有するが、タイヤを見た途端、筆者は「……」と沈黙してしまうとか

 クルマのサスペンションと切っても切れない関係のタイヤ。開発も行う身としては「タイヤがしっかりしていないとサスセッティングも決まらない」のが実情なので、「タイヤはしっかりいいのを選んでよ……」が本音なのですが、ユーザーはそんなことはお構いなし。

 面白いのが、首都圏在住で「趣味嗜好としてのクルマ」であったとしても、タイヤにこだわる層は案外少ないということ。

 例えば、都心にビルを持ちつつ会社員もしている私の友人がいますが、ポルシェやBMWにベンツを乗り替えつつ常に2~3台は持っているのです。クルマはいつも綺麗に磨いており、ピカピカ。しかし、足元を見ると「何、このタイヤ……」とガックリくるという。

 実はこういうケース、少なくないのですよね。いいクルマに乗っているのにタイヤはお粗末という状況。数年前の東京で大雪が降った際、某ドイツ系大衆車のスポーツグレードがツルツル夏タイヤを履いて盛大にスピンしてひっくり返っているニュース映像が流れ、「なにやってんだよ」とクルマ好きネット民がザワついたりしておりました。

 まぁ、しかたない面もあります。例えば、ヨーロッパの磨かれた丸石舗装での雨なんて下手したら雪より滑ります。超ツルツル。タイヤのウェットグリップがとても大事。

 しかし、日本は舗装のグリップも高いし、透水性舗装も多いので雨でも水深はそこそこ。道路の制限速度は低いし、タイヤの性能がそこまで安全性に直結しない。本当に「普段履きならなんでもいい」のです。

日本の道路には透水性舗装などが施されている路面も多く、基本的にグリップが確保されている状況(大出正一@AdobeStock)

■ぶっちゃけ、格安タイヤの性能はいかほどのものか?

 さて実際、安いタイヤってどうなのよ?

 私もそのすべてを把握している訳ではありませんが、例えば日本でもある程度名が知れた韓国系メーカーのタイヤであれば、テストしたかぎりそんなに悪くはありませんでした。国産有名どころのちょい落ちくらい。操縦安定性もハンドリングも乗り心地もノイズも、厳密に見ると粗はありますが、ふつうに乗っていて文句は出ません。

 中国系とか東南アジアのもっと怪しいタイヤは確かに「けっこう落ちるなぁ……」という印象はありますが、普通に乗るかぎり明らかにおかしいとか危険とか、そこまでは行きません。

 例えば、雨の日に急ブレーキをかけてしっかり止まれるかどうかで言うと結構違いますが、そんな場面にはなかなか出会わないので「普段乗りで変わらないなら別にいっか」となってしまうのです。

雨の日などは急制動をかけると国産主要メーカーのタイヤと格安タイヤとではかなりの差が出るというが……(jumnong@AdobeStock)

 ある意味タチが悪いのが、「すり減ってスリップサイン出るくらいの替え時な国産のいいタイヤ」と、「新品バリ山の海外格安タイヤ」だと、乗り出しの乗心地やノイズは後者のほうがよかったりすること。ですから余計に「何だ、ぜんぜん変わんないじゃん。安いのでいいや」となりがちなのです。

■スタッドレスタイヤだとまた変わってくるのだが……

「曲がる、止まる」の基本的性能が顕著に出るスタッドレスタイヤの場合、夏タイヤの場合と事情が変わると筆者は指摘する(FRANK@AdobeStock)

 これが雪国のスタッドレス選びとなるとちょっと事情は変わります。

 日常が「雪や氷で曲がらない、止まらない」ですから、タイヤの違いがモロに出ますし、適当なタイヤを選ぶと即事故につながります。なので、日本の冬環境に合わせて開発された国産のしっかりしたスタッドレスタイヤが積極的に選ばれることになります。

 それで実際、海外製格安タイヤってそんな安いの?

 安いです。めちゃくちゃ安いです。例えばトヨタのヤリスの中間グレードのサイズ、185/60R15サイズを例に見てみましょう。

 夏タイヤで行くと、某世界最大手の日本メーカーのベーシックタイヤは通販で4本で4万円ほど。しかし、海外格安タイヤだと4本で2万円ほど。ざっくり半額! 物価は上がる一方、しかしお給料は相変わらずの昨今になんてお財布に嬉しいのでしょうか。

 スタッドレスタイヤでいくと、同じく某日本最大手のフラッグシップ、なんとか3の店頭価格は4本で何と13万円ほど! ネットだと最安で8万円。これが韓国系有名社品だと3万円ちょいとか。これが格安タイヤだと2万円ほどまで下がるわけです。店頭価格は別としても同条件のネット販売であってもお値段なんと四分の一、6万円も違うのです。

 いやぁ、これを見ちゃうとね、格安タイヤを買っちゃいますよね。

■が、高いタイヤには価格が高いだけの理由がある!

長距離ドライブではタイヤの性能がさらに差が出る。その差はドライバーへの疲労感となって現れるのだと筆者は指摘している(milkovasa@AdobeStock)

 ですが、忘れないでください。高いタイヤはそれなりに理由があります。膨大な実路データの蓄積と技術知見の積み重ねから、妥協のない製品を生み出しているのが有名大手製品。

 普段使いはともかくとして、高速道路を走る長距離ドライブではぜんぜん違うのです。荒れた路面やカント(傾斜)のついた路面での直進安定性、乗り心地やノイズ性能からの快適性。雨の日の安全&安心性にブレーキ性能、緊急回避の際のグリップ性能。それらが蓄積されると、大手の特に高級タイヤでは長距離ドライブでの疲労感がぜんぜん違います。運転に気を遣わないので現地に到着してからも元気に観光できます。

 しかし、格安タイヤは運転自体に地味に気を遣うので、現地に到着する頃には疲労困憊。その日はもう宿にバタンキューでせっかくの旅をフルに楽しめません。もし、道中が雨でうっかり事故でもしようものなら旅行どころではありません。

 私の立場からみても、日常使いなら格安タイヤでもまったく問題ありません。安いに越したことはない。しかし、例えば長距離ドライブをするとか、大切な家族を乗せるとか、そういう使い方ならぜひ大手のしっかりしたタイヤを選んで欲しい。その値段の違いでドライブ旅行の満喫と安全と、家族や大事な人の笑顔を買えるのです。それと引き換えに数万円だけ安いのを求めますか?

 ぜひ、皆さんご自身のクルマの使い方をよく吟味して、ご自身に合ったタイヤ選びをしてください!

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