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新型プリウスが「HVの始祖」の次に追い求めた価値観と性能

 2022年11月に世界初公開された、トヨタ新型「プリウス」。先日行われた、箱根駅伝2023の先導車の一台としても登場し、話題となった。歴代プリウスの特徴であるモノフォルムシルエットを踏襲しながらも、スタイリッシュに生まれ変わった姿は、SNSの反応を見ていても、概ね好評を得ているようだ。

 「プリウス」といえば、ご存じのとおり「ハイブリッド車の始祖」。ただ、昨今のトヨタ車はどのモデルにもハイブリッドモデルがラインアップされており、プリウスの存在価値は薄くなってきている。そんななかで登場した、新型プリウス。はたして、新型プリウスが「ハイブリッド車の始祖」の次に追い求めた価値観と性能とは!??

文:吉川賢一
写真:TOYOTA

圧倒的な低燃費で大成功した先代4代目プリウス

 4代目となる先代プリウスがデビューした翌年の2016年、プリウスは登録車販売台数で第1位(驚異の24万8258台)となった。2017年も1位、2018年はノートとアクアに続く3位となったが、2019年には再び1位(12万5597台)に返り咲くなど、先代プリウスは、安定したヒットを続けてきた。

 先代が大ヒットした理由、そのひとつはやはり、燃費の良さだ。ガソリンタンク容量はわずか43リットル、カタログ燃費はWLTCモードで30.8km/L(E-Fourは28.3)。実燃費をイジワルに0.7掛けの21.5km/Lと仮置きしても、1度の給油で約800kmは走行可能。燃料はもちろんレギュラーガソリンだ。クルマにそれほど乗らない方であれば、2か月に一度の給油で済むほどの経済性は、日本人に大いに響いたはずだ。

 また、TNGAのGA-Cプラットフォームの出来も優秀で、走りの質感も高く素晴らしい完成度であった。さらには、「ナンバー1のクルマを買えば間違いない」というユーザー側の安心感も、先代プリウスがヒットした理由であろう。

昆虫のような50系前期のデザインは、好き嫌いが別れたが、2018年のマイチェンでフェイスリフトを行った
昆虫のような50系前期のデザインは、好き嫌いが別れたが、2018年のマイチェンでフェイスリフトを行った

「ハイブリッドの始祖」としての役目は終え、「マイカーとして愛される」を目指した

 だが昨年2022年の国内販売台数は、TOP10圏外(20位)にまで下落してしまっている。コンパクトカーからミニバンまで、多くのモデルでハイブリッドが普及したことで、プリウスを買う必要がなくなっていくことは当たり前の流れ。トヨタ自動車 クルマ開発センターデザイン領域統括部長サイモン・ハンフリーズ氏によると、トヨタとしても、新型プリウスは何を目指してつくるのか、大いに論議になったそうだ。

 中国やヨーロッパ、北米を中心に、内燃機関車からバッテリーEVへと、怒涛のスピードで置き換わろうとしているいま、ガソリンハイブリッド車に投資をするべきなのか、また、プリウスをハイブリッド車としてつくるべきなのか。単に燃費の良いハイブリッド車であれば、コンパクトカーから大小のミニバン、SUVまで、フルラインアップしている中から選んでもらえればよい。だが、「マイカーとして愛されるプリウスを追求したい」という声が開発チームから上がったことなどから、最終的には開発することになったそうだ。

 そこから、コンセプトワード「Hybrid Reborn」が誕生し、「一目ぼれするデザイン」と「虜にさせる走り」を併せ持ったエモーショナルなプリウスを開発することになったという。その言葉どおり、新型プリウスの強く傾斜したAピラーは、トヨタのいう「感性に響くエモーショナル」に感じられる。

 また、プリウス史上最大の19インチ細幅大径タイヤ(プリウス用タイヤは18インチが最大だった)の採用のほか、後輪周りにボリュームが増したようにデザインされていることで、ロー&ワイドで、よく走りそうな雰囲気だ。「虜にさせる走り」の実現のためには、第2世代TNGAプラットフォームによる低重心化と、ワイドトレッド化を。Cセグメントの乗用車として完成されたプロポーションとなったといっていいだろう。

 (編集部注/先代型にあたる4代目プリウス登場時(2015年9月)の月販目標台数は1万2000台で、発売後はそれ以上売れて納車待ちを抱えたが、5代目となる新型プリウスの月販基準台数は4300台に留まる。この6年半でハイブリッドカーを巡る環境もライバル車とのパワーバランスも大きく変わったが、新型プリウスはそうした環境に合わせて大きく、大胆にその立ち位置を変えてきたことが、「狙っている販売台数やターゲットの変化」にも現れているということだろう)

ボディサイズは、全長4600(+25)mm×全幅1780(+20)mm×全高1430(-40)mm、ホイールベースは2750(+50)mm(カッコ内は先代比)。フロントオーバーハングを25mm伸ばし、リアオーバーハングは50mmも縮めた
ボディサイズは、全長4600(+25)mm×全幅1780(+20)mm×全高1430(-40)mm、ホイールベースは2750(+50)mm(カッコ内は先代比)。フロントオーバーハングを25mm伸ばし、リアオーバーハングは50mmも縮めた

「褒めすぎ」と思うならば、是非一度乗ってみてほしい

 実際に、限られた試乗コースではあったが、筆者もプロトタイプのハイブリッド車(1.8Lエンジン仕様と2.0Lエンジン仕様)のハンドルを握らせていただいた。動き始めのステアリングの手ごたえ、直進安定性の正確さ、ブレーキングのやりやすさなどの所作が、先代から「一皮むけた」と感じた。比較試乗した先代プリウスで、微舵の曖昧さと戻りの遅れが気になるほどで、新型は確実に進化していた。新型プリウスは、Cセグメントのベーシックカーとして、ゴルフ8に近いほどの操縦安定性の完成度の高さを感じた。

 インテリアに関しては、以前はインパネにあった電制シフターを、センターコンソールへと移動し、新型クラウンとも似た、小型のシフトノブ形状に変更。12.3インチの大型センターディスプレイは2.0L車に、8インチディスプレイは1.8L車へと、ランク違いでサイズは変わるが、見やすさは変わらない。ステアリングホイールの奥へと移動した7インチのTFTメーターは、表示項目が少ないため寂しさもあるが、視線移動も減るので有効だ。なにより、シンプルで清潔感のあるインテリアは、先代プリウスのインテリアが散らかって見えるほどに洗練されていた。

 「褒めすぎだろ…」と思われるかもしれないが、実際乗ってみると、本当に良いクルマ感が半端なく出ていた。ぜひ実車を一度みて、触れてみていただきたい。この感想に共感してもらえるのではないだろうか。

着座位置の低さや前方視野の広さのおかげで、グラリとした揺れを感じさせない、良い足回りに仕上がっている
着座位置の低さや前方視野の広さのおかげで、グラリとした揺れを感じさせない、良い足回りに仕上がっている
新型プリウスの内装。ステアリングホイールの上からデジタルメーターを覗くタイプとなった。そのためステアリングホイールは先代よりもやや小径となっている
新型プリウスの内装。ステアリングホイールの上からデジタルメーターを覗くタイプとなった。そのためステアリングホイールは先代よりもやや小径となっている

新型プリウスが目指したのは上級車からのダウンサイザーが納得するデザインと走り

 トヨタが、「マイカーとして愛されるプリウスを追求したい」として出来上がった新型プリウスは、間違いなく素晴らしい出来だ。このプリウスならば所有してみたいと思う人は多いと思う(筆者も含む)。この出来ならば、上級車や他社メーカーからダウンサイジングしてくる、デザインや走りにこだわる層も十分納得できるはずであり、これこそが、新型プリウスが「ハイブリッドの始祖」としての次に追い求めた姿だと理解できる。

 ただ、これを市場が受け入れてくれるかは別。「マイカーとして愛されるクルマ」は、アクアのようなコンパクトカー、ノアやヴォクシーといったミドルミニバン、ハリアーのような多目的SUVであってもあてはまるフレーズであるし、新型プリウスよりも、広くて快適なクルマも、静かなクルマも、走りが良いクルマもトヨタにはある。はたしてコンセプトを一新した「プリウス」は、これまでの「プリウス」と同様に、ヒットを続けることができるのか!?? 今後が非常に楽しみだ。

【画像ギャラリー】もうダサいとはいわせない!! 生まれ変わった、新型プリウスのデザイン(17枚)画像ギャラリー

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