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 悲しいことにバスの事故が相次いでいるが、事故の原因や対策は別の議論として、乗車中、車外に退避しなければならなくなった場合には、最寄りの正規のドアか非常口から脱出することになる。しかし2階建てバスの2階席の場合は非常口はあるが客室の位置が高いのでどうやって脱出するのだろうか。富士急行の全面協力で取材したので、知っておきたい「穴」を含めて紹介しよう。

 画像ギャラリーでも写真で詳細に説明しているので、合わせてご覧いただきたい。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
取材協力:富士急行・フジエクスプレス・富士急バス・レゾナントシステムズ


車内にある脱出用のマンホール?

 現在のところ日本においての2階建てバスはほぼ、スカニア・バンホールのアストロメガだ。正規の乗降口は左側に2つ。すなわち運転席横の前ドアと、トイレ前の中ドアの2つだ。左側から脱出できる場合はこの2つのドアを使用する。

 一方で、座席数の多いメインデッキである2階席には乗降口はないので、階段を降りて中ドアから脱出するが、2階席前方の乗客は階段までが遠く逃げ遅れる可能性もある。そこで脱出口(ドアではない穴)が床面に設けられている。それは2階席の2列目付近の通路にある。

床の黄色が目印の「マンホール」

 通路上には長方形の「フタ」があり、マンホールのように持ち上げれば外れる。そこから1階席通路に降りることができる。ちょうど運転席後ろの1階席通路上になっており、1階に備えられた構造物が梯子の代わりになる。まさに人が通る穴「マンホール」だ。

開けると1階に通じている

 これを伝って1階席に降りれば前ドアから脱出可能だ。この穴の存在は知っていても、どうなっているのかは開けてみないとわからないので、その写真を掲載する。イメージとして覚えておいていただきたい。

非常口は乗降扉とは反対側の右にある!

 2階建てバスでなくても日本のバスの非常口は右側にある。ない場合はハンマーが備えられているので窓ガラスを破って脱出する。これは左側に横転した場合に正規のドアが使用できず右側に脱出するしかないからである。

 2階建てバスの場合も同様で、1階・2階ともに右側に非常扉がある。1階はトイレの前にあり、2階席から階段を降りたらすぐに右側から脱出可能だ。もう一つは2階席の後方右側にも非常扉がある。

右側に非常口が2つ

 ただし、この非常扉は2階に位置するので高く、飛び降りるのには少し怖いし、ケガをする恐れもある。もっとも火災で煙にまかれるよりは飛び降りて骨折したほうがいいという考え方もある。とはいえ、ちゃんと非常扉には縄梯子が装備されているので、これを使って安全に地上に降りることは可能だ。

知られざる2つ目の穴!

 そうはいっても宙ぶらりんの縄梯子でうまく降りることができるのは、経験のある人などだろう。バスの構造に詳しい元富士急バスの整備士で、現在はレゾナントシステムズに在籍する技術者がもう一つの秘密を教えてくれた。

縄梯子は不安定なので慣れていないと降りにくい

 前述した2階席から1階席に降りる穴が1つ目だとすると、今回のヒミツの穴も脱出するためのものだ。実は縄梯子が使いにくい場合は、ボディーに互い違いに空いている穴を利用して、そこにつま先をかけて固定ステップとして降りることも可能なのだ。

ボディーの穴につま先を突っ込んで降りると安全だ

 外から見ると確かに不自然な穴がいくつか空いているが、非常扉を開けてみると手すりを使い1歩目の足をかけると誰でも安全に降り立つことができる。

シートは倒さなくてもいい!

 路線バスタイプのバスの非常扉は、シートを前に倒してスペースを作ってから開扉するようになっている。アストロメガは高速車または貸切車として使用されるので、路線バスほどシートピッチは狭くない。

 よって非常扉はシートを倒さずに、この座席の人が座ったままで開けることができる。非常口扉に座った場合は航空機の非常口座席ではないが、事故や火災の場合はスムーズに脱出できるように周囲の交通と状況を的確に判断して操作しよう。

2階非常口は赤いカバーを開けると開扉レバーがある

 ちなみに、行先表示器の記事でも触れたが、富士急系のバスにはレゾナントシステムズのLED表示器が搭載されていて、「緊急事態発生」のメッセージを外部に知らせることができるようになっている。

非常口扉は外側に開くので周囲は二次災害防止に努めたい

 このような表示を見た場合には、通報するのはもちろんだが、場合によっては非常扉が開けられる可能性を考えて、バスの右側を含む周囲を空けておくなどの二次災害防止措置に努めていただきたい。

もちろん使わないのが一番だが……

 非常扉などは使わないに越したことはないし、使う機会が来てほしくはない。しかし世の中に絶対はないし、人災であろうが天災であろうが巡り合わせの悪いときはあるものだ。

赤いカバーを開けると乗用車と同様のドアノブがある

 生涯使うことはない無駄な知識になればそれに越したことはないが、知っておいて損はない知識のはずなので、いざというときにうろたえなくても済むように知識を持っている者が他の命も救うくらいの心の余裕を持ちたいものだ。

投稿 2階建てバスの非常口は「穴」に秘密が? イザというときの緊急脱出方法を徹底取材!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。