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4モーターの1900psハイパーEV、ピニンファリーナ バッティスタはスーパーカー好きにも刺さるのか!?

 アウトモビリ・ピニンファリーナが2022年7月にハイパーEVモデル、バッティスタの生産を開始した。アウトモビリ・ピニンファリーナはイタリアのデザイン工房、ピニンファリーナの親会社でインドの大手自動車メーカー、マヒンドラ&マヒンドラが立ち上げた新ブランドとなる。

 その最初の市販車がバッティスタ。バッティスタでは「カルマ」、「プーラ」、「エネルジカ」、「フュリオサ」、「カラッテレ」という5種類のドライブモードに異なる運転特性を設定していて、このうちフュリオサモードでは、4個のモーターが合計で驚異の最高出力1900hp、最大トルク240.6kgmを引き出すのだ。

 この規格外のハイパーEVは果たしてスーパーカー好きにも刺さるのか否か、西川淳氏に分析してもらった。

文/西川 淳、写真/アウトモビリ・ピニンファリーナ

【画像ギャラリー】アウトモビリ・ピニンファリーナのカロッツェリアと職人の手で産み出されるハイパーEV「バッティスタ」(10枚)画像ギャラリー


■ピニンファリーナのブランド力は依然強力

アウトモビリ・ピニンファリーナが2022年7月に生産を開始したハイパーEV「バッティスタ」。ブランドの創始者であるバッティスタ・“ピニン”・ファリーナの名を冠する意欲作だ

 刺さるのか? と問われたなら、いちファンとしても、そしてスーパーカー評論家としても、刺さる! とこたえるほかない。少なくともピニンファリーナという名前だけは……。

 ただし、億円以上の電動スーパーカーに関していえば、日本のスーパーカーファンは世界に比べてかなりマニアックでコンサバ、ストーリー性を重んずる人が多いため、ちょっと厳しいのではないか。

 電動スーパーカーにはまだ歴史がなく、そもそもBEVへのアレルギーもクルマ好きには強くあったりするので、どちらかというと世界のニューリッチに刺さると言ったほうがいいだろう。似たようなハイパーEVではロータスエヴァイヤを思い出すといい。日本では結局、売れなかったようだ。

 ピニンファリーナというブランド名とバッティスタという車名にかぎっていえば、日本のファンにも刺さりまくる。何しろいまだに「フェラーリのデザインを昔のようにピニンファリーナに戻せばいい」という人が多いくらい、その名前の認知度は高く、ブランド力は強い。

 ことはそれほど簡単な話ではないけれど、それを知っている筆者にしたところで、あの独特な書体(スクリプトフォント系)のエンブレムをつけた跳ね馬がいまだに大好物だし、あのエンブレムがないことを寂しく思ったりすることもある。

■バッティスタは「ピニンファリーナ違い」?

 ピニンファリーナは今どうなっているかというと、立派に機能していることは確か。インドのマヒンドラ傘下となり、トリノ郊外グルリアスコのカロッツェリアも健在だ。

 ただし、バッティスタを製造するアウトモビリ・ピニンファリーナは別会社でドイツに本拠を置く。元F1パイロットのニック・ハイドフェルド氏が設計段階から深くコミットしたことでも有名だ。

 ロータスと同様に認知度の高いブランドネームであり、クルマ好きの好物であることは間違いないのだが、最新の立ち位置に至る物語に多くの日本人ファンはあまり納得しないのではないか。

 ロータスは中国の資本だったし、ピニンファリーナはインドだ。これが、ボルボやランドローバー程度の話ならまったく問題ないのだけれど、ロータスエヴァイヤもこのピニンファリーナバッティスタも数億円のハイパーカーである。

 日本のクルマ好きリッチが手を出したいと思わせる物語性(例えば価値や評価の源泉)には少々欠けるように思う。

 ロータスの場合は、過去にそこまで高価なモデルを作ったという歴史がない。ピニンファリーナにしてもフェラーリあってこそで、単独でその手のハイエンドカーを売った歴史がない。そこが物語性を重視する日本のファンにはイマイチ刺さらない。

■新興ハイパーカーブランドとしてのピニンファリーナ

パガーニやケーニグセグ同様、海外のスーパーセレブは食指を動かすか?

 ところが、世界に目を向けてみれば、新しい価値に飛びつく新しい層は必ずいる。過去にもパガーニやケーニグセグといった超高価なニューブランドを評価して育て上げてきたのは海外の金持ちたちだった。

 今では日本人もそれなりにパガーニやケーニグセグを評価しているから、今後、海外での評価が高まれば日本人でも欲しいと思うスーパーリッチが出てくるかもしれない。

 そういえば最近、中東あたりの新興勢力(デヴィルやWモータース)が日本に上陸したというから、数年遅れてムーブメントが届く可能性は高い。開拓者精神にあふれた人の登場には期待したい。

 実際、海外の若いスーパーカーファンのなかには、我々世代の日本人ほど内燃機関にはこだわらない層が増えつつあるらしい。実際の加速パフォーマンスやスペック、さらにアップグレードの容易さから、高級スマホのように便利で高性能な電動スーパーカーへの評価も高まっているという。

 もちろん、そういうところを見越して、有名ブランドはスポーツカーやSUVの電動化を推し進めているので、早晩、日本市場においても似たような状況が生まれてくるようにも思う。

■歴史的な風洞施設から誕生した最新スーパーカー

 ピニンファリーナはイタリア自動車界の名門である。今からちょうど50年前に実物サイズで風洞実験可能な施設をイタリアで初めて整えた。そこから最初に生まれたのがフェラーリBB(ベルリネッタボクサー)であるというのは有名なハナシ。

 バッティスタはその50周年を自ら祝うようにして、歴史的な風洞施設から誕生した最新のスーパーカーである。

 4モーターを独自に制御する1900psのハイパーカー。0→100km/h加速は2秒以内とF1マシンに匹敵する。そう聞いただけで乗ってみたくなるスーパーカー好きは多いはず(エヴァイヤもそうだったけれど)。

 それはそうとして、ロータスではイマイチだった反応がピニンファリーナならば少しはポジティブに変わるかどうか。それは一重に、今のクルマ好きがピニンファリーナにどのようなイメージを抱いているかにかかっていると思う。

■日本から買い手は現れるのか?

 何にせよ数億円レベルの購買欲を刺激するためには、その背景に強固なブランド力とそれを支える物語が必要なことは確かで、ピニンファリーナの立ち位置は今のところ微妙だ。ロータスよりは幾分強いとは思うけれど。

 ただし、世の中にはこの手のハイパーカーをすべて揃えたいという超リッチなコレクターもいる。彼らがまず買って、その姿を日本の公道でも披露してくれたなら? そして、そのサービス体制に不安がないとわかれば? 積極的に欲しいと思う人もそれなりに出てくることだろう。

 日本で最初の客になる。そんなチャンスもなかなかない。もっともそれはそれでブランドがこの先も続いてこそ。ひとつの賭けだ。

 20年前にパガーニが成功すると思った人はほとんどいなかった。消えていったブランドはそれこそ数え切れないくらいある。ピニンファリーナという名前はロータスと同様に、そうやすやすとは消えないと思うけれど……。

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