ロータスカーズはこのほど、2ドア2シーターのハイパーEV、エヴァイヤに「フィッティパルディ」仕様を設定すると発表した。8台が限定生産される予定だが、実は発表の時点で完売しているという。
このエヴァイヤ・フィッティパルディはレース界のレジェンドである元F1ドライバー、エマーソン・フィッティパルディとチーム・ロータスがF1でドライバー&コンストラクターのダブルチャンピオンシップを獲得してから、50周年記念の限定車だ。
エヴァイヤのパワートレーンにはモーターを4個搭載。合計2039psのパワーと173.8kgmのトルクを誇る。
ロータスカーズによると、2039psのパワーは量産車として世界最強とのことで、強力なモーターのパワーは4輪に送られ、0~100km/h加速3秒以下、0~300km/h加速9秒以下、最高速350km/h(リミッター作動)というパフォーマンスが可能だとか。
このハイパーEVがスーパーカー好きたちにはどのように映るのかを西川淳氏が見立てた。
文/西川 淳、写真/ロータス
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■フェラーリやポルシェに並ぶブランドたるロータス
ロータスというと、我々世代(昭和40年代生まれ)にとっては『サーキットの狼』のヨーロッパスペシャルだろうし、JPSカラーのF1マシーン“ウィングカー”にも大いにときめいたものだった。
ゆえにブランドとしての刷り込みはかなり上等な部類のほうで、今でもロータスと聞くと少なからず胸が躍る。実際、私は今1960年代のエランを所有もしているし……。それはさておき。
ロータス創始者のコーリン・チャップマンはエンジニアとしてはもちろん、ビジネスマンとしても傑出した人物だった。言い換えればレーシングカーとロードカーの両方で成功した人だ。
産業の黎明期を除くと、実はそういう両刀の人物は意外に多くない。現代ではジャンパオロ・ダラーラが数少ない両分野(技術と商売)での成功者だろうか。
何を言いたいかというと、ロータスはフェラーリやポルシェと並んで評価されていいブランドだということだ。スポーツカーとレーシングカーのマニュファクチュラーとしての歴史と伝統には大いに敬意を表したい。
■ロータスからまさかのハイパーEV「エヴァイヤ」登場
もっともそんな風に思っている私でさえ、ロータス製EVスーパーカー、「エヴァイヤ」の登場には大いに驚かされた。
ロータスには(スーパーカーブームのイメージはあっても)スーパーカーイメージはなかったからだ。否、その昔、エスプリというすごくかっこいいウェッジシェイプのミドシップカーがあったけれど、逆に言うとそれだけだった。
しかもロータスには常に“アフォーダブル”=求めやすい、といういい意味で“手軽なクルマ”というイメージがつきまとっている。
だから、EVとはいえ2000psオーバーで2億円超の限定ロータス(世界130台)、と言われても正直まるでピンとこなかった。思い入れが特に強い日本のロータス好き、クルマ好きの間でも同じような感覚ではなかっただろうか。
エヴァイヤのジャパンプレミアもスーパーカー仲間の間で話題になることはさほどなかった。
この手の限定スーパーカーデビューの場合、披露する前から購入希望者がついてほとんど売り切れ同然というのがフツウだが、エヴァイヤには日本発表後もなかなか日本人の買い手は現れなかったらしい。その後どうなったかは知らないけれど。
中国資本となって、電動ラクシャリーブランドとしてロータスが再出発するための、それはあくまでもド派手なノロシだ。技術力をアピールしつつ注目を集めるという役割をエヴァイヤは果たそうとしただけ。
そういう意味では昔ながらのロータスファンにとっても、そしてブランド性(=物語性)を大事にする日本のスーパーカーファンにも、エヴァイヤはそもそもさほど響かない存在だったのかも。
それよりも、そのスタイルをそっくりダウンサイズし、常識的なエンジンを積み込んだエミーラのほうがブッ刺さる!(ロータスにとってもそのほうが大事。そのためのノロシなんだし)。
■スーパーカーファンの「エヴァイヤ」への反応は?
では、ロータスというブランドを外して、2000ps以上を公言する高額な電動ハイパーカーについてスーパーカーファンはどう思っているのだろうか。昨今、リマックやピニンファリーナといったニューブランドがエンジンカーを凌駕するスペックのハイパーカーで話題をさらっている現状をどう考えているのだろう?
何か新しいカテゴリーが誕生するたびに賛成派と反対派に分かれていつも同じような議論になるわけだが、そもそも論でいうと、スーパーカーとは“クルマを超えた”存在なのであって、人とは違うクルマを持ちたい、誰もが羨むクルマに乗りたいというピュアな欲求に応える存在である。
ハッキリ言って人類に不可欠な存在かというとまるで逆で、ほとんど無駄。無駄だからこそ大枚を投じる個人的な価値が生じるのであって、それが文明に対する文化というものだろう。
そう考えると2000psを標榜する電動ハイパーカーなんていう存在は今のところ、クラシックなキャブレタースーパーカー並みに実用性に乏しく、また凄まじい加速スペックなんぞ公道ではまるで意味がない。
つまり究極の無駄だからこそ、特別なクルマを欲しいと思う層にとっては見栄を張る道具として最高、立派にスーパーカーたりえるというわけだ。
■スーパーカーファンはスペックよりもストーリーを重視
ただし、何も2000psや2億円というスペックが偉いわけじゃない。BEVが得意とする超加速も、はたまたエンジン車が得意な最高速も、実際にそういった億単位のハイパーカーを買う層にとってはメインディッシュについてくるマッシュポテトか、せいぜい美味い前菜くらいでしかない。
それよりも大事なことは物語、つまりはブランド性だ。
ブガッティなど歴史あるブランドが強いのはそれがあるからだし、伝統はなくとも創始者に語るべきストーリーがあって信念を貫き通すだけのカリスマ性と結果さえあれば、オラチオ・パガーニやクリスチャン・フォン・ケーニグセグのように大成功を収めることができる。
逆にどんなにカッコよくて性能がすごいハイパーカーを作ったとしても、見たことも聞いたこともないポッと出の名前で、ポテンシャルカスタマーの心に刺さるストーリーがそこになければほとんど見向きもされない。
この10年間、いろんな新興勢力の名前が飛び出してきたけれど、パガーニやケーニグセグの次を担う存在として認められたブランドは今のところない。資金だけを集めてドロンパという輩も少なくないのだ。
クルマは確かに乗ってナンボ、商品性がモノをいうプロダクトではあるけれど、乗る前にどれだけ人の心を盛り上げることができるかどうかを問われるという点で、単なる工業製品でないことは確かなのだ。
結論。スーパーカーの世界において2000psの高価なハイパー電動モデルは大いにあり。けれどもそこには常に納得のいくストーリーが必要だと思う。
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