クルマのドアノブに触れた瞬間に「バチッ」とする静電気。誰でも経験があるのではないでしょうか。駐車場で起こる場合は、ドキッとしてちょっと痛いくらいで済みますが、これがスタンドで給油中に起こると、ガソリンに引火する可能性があり、非常に危険です。
これを回避するため、ガソリンスタンドには、静電気除電パッドが装備されていますが、急いでいたりすると面倒で端折ってしまう人もいるようです。静電気除去パッドの効果と、触れずに給油する危険性について、ご紹介します。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:写真AC_ grace7777minori/写真AC_こぬぬこ
写真:Adobe Stock、写真AC
冬は静電気が発生しやすく、逃げにくい
1998年にセルフスタンドが解禁され、多くのガソリンスタンドでユーザー自身が給油できるようになりました。ただこれを機に、給油中の静電気による火災事故が散発することに。給油する際、ユーザーの人体に帯電していた静電気がクルマの給油蓋など金属部に放電し、その火花によって給油口周辺に浮遊するガソリンの蒸発ガスに引火してしまっていたのです。
総務省消防庁の報告書では、2001年からの5年間で、セルフスタンドで人体に帯電した静電気を十分に除去しなかったことによる火災が18件発生。18件の内訳は、給油キャップを開けた際の着火が6件、給油中に着火(再開時、終了後を含む)が12件です。また、火災発生は冬場に集中し、6月から9月の暖かい期間には1件も発生していませんでした。
静電気は、異なる物質が擦れ合うときの摩擦で発生します。冬は、静電気が発生しやすい服を重ね着するので、それだけ静電気が発生しやすく、また、冬は空気が乾燥しているため、空気中や物質表面に付着する、導電性の高い水分量が減るので、人の体に帯電した静電気が逃げにくいのです。
ガソリンは寒い冬でも簡単に引火する
人間の体は静電気を溜め込みやすい性質があります。普通の日常生活でも、例えば、歩いている時は靴の裏と繊維系のカーペットなどが何度も擦れ合いますし、着ている服も擦れ合います。クルマを運転中も、運転操作によって服とシートが擦れ合うなど、人体は知らないうちに静電気を溜め込んでいるのです。
静電気は、導電性の高い金属などに接触すると、一瞬のうちに電気が流れて消失します。静電電圧は、数千ボルトに達することもありますが、帯電している静電気の量が少なく、電流量も少ないので、多少の痛みを感じることはあってもそれほど危険ではありません(一般的な100V供給電源のように電流が供給され続ける場合は、人体に大きな被害を与えて非常に危険です)。
静電電圧が高いとき、金属などとの間隙が狭くなると、接触する前に空気中で絶縁破壊を起こし、空中に火花が飛びます。これが、静電気による放電で、エンジンの点火プラグの火花放電と同じ現象です。この火花が、冒頭で説明したように給油口付近で飛ぶと、周辺のガソリン蒸発ガスに引火して、最悪の場合に発火に至る場合があるのです。
ガソリンは、低温でも蒸発しやすく、点火源を近づけて発火する引火点は、マイナス40度以上です。マイナス以下の寒い冬でも、キャップを開けたガソリン給油口付近には、人間の目には見えませんが、ガソリンの蒸発ガスが数十cm内に浮遊しており、ガソリン蒸発ガスの空気との混合気濃度が可燃限界内であれば、着火する恐れがあるのです。ちなみに、着火する可燃混合気濃度(ガソリン蒸発ガスの体積/混合気の体積)は、1.4%~7.6%です。
静電気除電パッドは、静電気をアースに流す役目
静電気の放電による火花を飛ばないようにするには、帯電した人の体の一部を、膨大な容量を持った電気的に安定したアース(地球)に接続して、一瞬のうちに静電気を逃がせばよく、その役目を果たすのが、静電気パッドです。ドライバーがクルマを運転中に帯電したとしても、ガソリンスタンドで給油の前に、静電気除電パッドに手をタッチすれば、アースに静電気を逃がすことができます。
黒いゴムでできた静電気除電パッドは、内部に炭素系の粒子が練り込まれ、適度な導電性を持たせています。これにより、人体に帯電した静電気を人間が感じないような電流でアースに逃がすことができます。ちなみに、フルサービスのガソリンスタンドの従業員は、電線を織り込むなど静電気をアースに逃がす静電気帯電防止作業服や作業靴を着用しているため、帯電し難く、静電気による放電もしません。
静電気除去パッドに触れる以外にも、クルマから降りたときに地面に手をつく、アースの取れた金属に触るなどすれば、静電気を体から逃がすことができます。
環境問題の観点からもガソリン蒸発ガスの漏れ防止対策が
2000年以降は、消防庁が静電対策を指示したこともあり、給油ノズルの改良や静電気除電パッドの普及が進み、火災事故は減少しています。
最近は、大気汚染の観点から、排気管から放出される排ガス中のHC成分だけでなく、クルマ全体から放出されるガソリン蒸発ガス(HC)を抑える「エバポ(燃料蒸発ガス)規制」が強化されています。対象となるのは、樹脂やゴムで構成される燃料タンクや燃料ホース表面からリークするガソリンの蒸発ガス(HC)、給油時の給油口から放出されるガソリン蒸発ガス(HC)です。
ガソリンの蒸発ガスであるHCは、太陽からの紫外線によって、NOx(窒素酸化物)と反応して、光化学スモッグの原因となり、人の目や呼吸器系に影響して健康被害を引き起こしてしまいます。そのため、火災防止とは別に、エバポ規制対応のため、給油時のガソリン蒸発ガスを抑える様々な対策が進められているのです。ガソリン蒸発ガスを抑制するために、給油インレットパイプ形状の最適化や蒸発ガスを吸引しながら給油できる2重構造の給油ノズルなどが、すでに採用されています。
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静電気を抑える静電気除去パッドの利用と、ガソリン蒸気を外に漏らさない給油インレットパイプ形状や給油ノズルの最適化などで、給油時の火災事故発生の可能性は低下していると思われます。とはいうものの、条件が揃えば発火する可能性はゼロではないので、給油前には確実に静電除電パッドにタッチすることが大切です。
【画像ギャラリー】ガソリンスタンドの静電気除去パッドの効果と、触れずに給油する危険性(7枚)画像ギャラリー投稿 「寒いし面倒だからいいか」は大惨事を招く!! セルフスタンドで静電気除去パッドに触れてずに給油は絶対NGな理由 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。