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5ナンバー維持&e-POWERで勝負!! トヨタ元営業マンからみた日産新型セレナの驚きと不安

 2022年は国内ミニバン御三家が相次いでフルモデルチェンジを行った。そして、昨年(2022年)11月には待望の日産「新型セレナ」が5ナンバーサイズを維持し、登場した。

 ライバル車を販売してきたトヨタ元営業マンが日産「新型セレナ」の実力について分析する。新型セレナへの驚きと不安要素とは一体なにか? 

文/佐々木亘、写真/NISSAN、TOYOTA、奥隅圭之、ベストカーWeb編集部

■5ナンバーサイズ維持の意味は大きい! ミドルサイズミニバンで唯一無二の存在に

2022年にフルモデルチェンジを行ったトヨタヴォクシー

 ノア・ヴォクシー、ステップワゴンとミニバンの売れ筋モデルが、フルモデルチェンジを行った2022年。そのトリを飾る様に年末にさしかかる11月28日、セレナがフルモデルチェンジを発表した。

 直近(2022年11月)の乗用車ブランド通称名別順位では、11位にステップワゴン(5327台)、13位にノア(5080台)、14位にヴォクシー(4954台)と、各車の実力は拮抗しているように見える。しかし、全体的にはノア・ヴォクシーの勢いは強く、トヨタ独り勝ちになっているのが、ミドルサイズミニバン市場だ。

 発表も販売実績も大きく先行したノア・ヴォクシーに、新型セレナは対抗できるのか。元トヨタディーラー営業マンの筆者が、新型セレナの実力を分析していく。

標準系のセレナは5ナンバーサイズに収まる。ボディサイズは全長4690mm×全幅1695mm×全高1870mm、ホイールベース2870mm

 ライバルが新型プラットフォームに変わる中、セレナは先代からプラットフォームをキャリーオーバーした。この副産物か、ノア・ヴォクシーとステップワゴンが全モデル3ナンバー化したのに対し、セレナの標準車は5ナンバーサイズを維持できている。

 これまで5ナンバーサイズミニバンとして戦ってきた各車。ミドルサイズのミニバンだからこそ、「1695mm」という全幅にこだわらなければならなかった側面があるはずだ。

 既存ユーザーの中には、5ナンバー枠に収まるから、ノア・ヴォクシー、ステップワゴン、そしてセレナを選んできた人がいる。

 現行型ノア・ヴォクシーの全幅は1730mm、ステップワゴンはさらに広く1750mmだ。セレナは標準車で1695mmを守り、ハイウェイスターでも1715mmとライバルよりも全幅が狭い。

 全幅の違いは、最大で5cm強。これを「わずか」と見る声も多いが、今使っているクルマよりも車両幅が左右それぞれ2cm~3cm広くなるクルマを検討するときに、駐車スペースの制限や乗り降りのしやすさを考えてNGが出ることも、このカテゴリーではよくあることだ。全幅におけるわずか数センチの差。だが、それがセレナを選ぶ大きな理由になり得るだろう。

■数字の競争はもうやめた? 中身で勝負するセレナの覚悟が価格から見える

セレナは、高速道路の運転をアシストするプロパイロット1.0や、360度セーフティアシスト(全方位運転支援システム)を全車標準設定

 新型セレナの車両本体価格は、ノア・ヴォクシーを少し意識はしているものの、表面的な数字にこだわっていないのが良い。ノアの最廉価グレードが267万円なのに対し、セレナは276万8700円と少し高めだ。

 しかし、セレナは全車にプロパイロット1.0を標準装備した。ノア・ヴォクシーに同様の機能を付ける場合、トヨタチームメイトのアドバンストドライブが必要となる。

 すると、前述した車両本体価格の差は埋まり、セレナ側におつりがくる。そもそもノアの最廉価Xグレードには、トヨタチームメイトがメーカーオプション設定されていないから、比較の土俵にすら乗れないのが、最大の問題なのだが。

 日産の緻密な市場調査を、新型セレナの価格や装備から感じ取ることができた。30代ファミリーの圧倒的な支持を背景に、数字よりも中身にこだわった姿勢は評価できる。

 新型セレナのように、中身にこだわり、数字では語れない魅力を持ったクルマは販売現場で重宝されるだろう。しっかりと説明すれば、ユーザーに分かってもらえるポイントの多いクルマほど、売りの力を増大させるものだ。

■税制面でも有利! 1.4Lのe-POWERがカテゴリーの主役となる

 セレナの人気に火をつけたe-POWERは新型になって大幅にブラッシュアップされた。音や振動の軽減がより重要になるミニバンでは、トヨタ第5世代THSよりも、BEVに近い動きをするe-POWERの方が、有利な面は多いと思う。

 また、HEVモデルの排気量にも注目したい。ノア・ヴォクシーは1.8L、ステップワゴンは2.0LのHEVとなっている。対するセレナはe-POWERに1.4Lエンジンを搭載した。

 ここで変わるのが、毎年支払う自動車税種別割だ。自家用乗用車の標準税率で、ノア・ヴォクシーとステップワゴンのHEVは3万6000円なのに対し、セレナe-POWERは3万500円と安く済む。

 ライバルよりも小さなエンジンを搭載しながら、同程度の走行性能が保てるなら、経済性を重視する30代ファミリーが選ぶのは断然セレナだ。走行性能はこれから公道試乗ができるようになれば明らかになる。

 筆者の経験からも、税負担の重い自動車において税の優位性は、販売にも良い影響を与えることが多い。

■惜しいところもいくつか目立つがセレナはライバル車の脅威になるのか?

ノア・ヴォクシーの3列目シートは、レバーを引くと持ち上がり、サイドウインドウ側へ押し込むと自動的にロックされるため、格納操作が簡単

 完璧に見えるセレナだが、ウィークポイントもいくつかある。特に、3列目シートの格納場所(高さ)や格納方法には、少し難があるだろう。

 ライバルのノア・ヴォクシーも跳ね上げ式だが、跳ね上げた状態でロックされるように改善された。しかしセレナは、まだストラップで固定する方式を採用しており、固定に手間がかかる。

 さらに跳ね上げの位置が低いため、3列目を格納した際のラゲッジスペースが、広くなったように感じにくい。荷室の使い勝手は、ノア・ヴォクシーが一枚上手だろう。

先進的なデザインのタッチパネル式オートエアコン。ただ、ブラインドタッチが難しく、使い勝手はイマイチ

 さらに、スイッチ式のシフトボタンの上に付いている、静電容量方式のタッチパネルの採用には、少し疑問が残る。温度調整の部分などにはアナログなダイヤル式を残しているが、内気循環、風量調整、デフロスターを使用する際には、静電式スイッチを使う。

 静電スイッチの問題点は、操作箇所を完全目視しなければならないところ。本質的に使いやすいとは言えず、先進性を表面に出しすぎた部分ではないかと筆者には感じられた。

 それでも、目の行き届いたカップホルダーやテーブル等、使い手に大きく配慮したユーティリティはさすがの一言。給油口をキャップレスにするこだわりには、もはや感服だ。

 セレナがライバルに対して見劣りする部分はほとんどない。本命のe-POWERが発売される2023年春から、セレナの躍進が始まるはずだ。ノア・ヴォクシーがいかにして今の勢いを保つのか、2023年のトヨタ・日産、各販売店の動きに注目していきたい。

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