12月7〜8日に鈴鹿サーキットで行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同/ルーキーテスト。多くの新人ドライバーがテストに参加したが、なかでも関係者からの注目を集めていたのは、20歳のレッドブルジュニアドライバー、リアム・ローソンだった。
過去2シーズン、スーパーフォーミュラと車格の近いFIA F2選手権を経験していることもあり、ミドルフォーミュラからのステップアップ組とは一線を画す存在とも言える。
今回のMUGENはローソンの15号車1台のみのテスト参加となったが、2021&2022年に野尻智紀とともにタイトルを獲得した一瀬俊浩エンジニアも現場に帯同していた。チャンピオンエンジニアである一瀬氏に、若きルーキーはどう映ったのだろう。テスト2日目の昼、3セッションを終えた段階で話を聞いた。
■器用で細かく、“日本人的”?
運転スタイルが近いのはアレックス・パロウ
エアロパッケージの変更が想定される2023シーズンを前にした今回のテストでは、 既報のとおりMUGENはローソンの習熟を目的として1台のみを鈴鹿に送り込んだ。
とはいえ、貴重なテストの機会である。MUGENは合わせて、ローソンを担当するトラックエンジニアに新人を抜擢、シーズン中には難しい“現場経験”を積ませる場として活用し、今季野尻を担当した一瀬エンジニアと、笹原右京を担当した小池智彦エンジニアがバックアップする体制を採った。具体的には小池エンジニアはトラックエンジニアをサポートし、一瀬エンジニアは主に車両に起きていることを正確に把握するポジションに就いていた。
まず、ローソンの全体的な印象について一瀬エンジニアに聞くと、「3セッション走った感じだと、かなり器用なタイプですかね」と語る。
FIA F2を上位で戦ってからのスーパーフォーミュラ・ドライブという面では、2016年にGP2王者となり、翌年にTEAM MUGENから参戦したピエール・ガスリーと似た経歴でもある。
「(ガスリーに)近い印象はありますね。2年くらいF2に乗っていて、前提としてビッグフォーミュラのクルマの動かし方は分かっています。たとえば激しくスライドさせたりするとダウンフォースが抜ける、タイヤもヒートしてしまう、というのは理解している。(SFは)エンジンがターボなので難しい部分もあるとは思いますが、そういう部分はかなりレベルの高いところからスタートできていますね」
また一瀬氏は、ローソンの『コメント力』も高く評価している。
「僕ら、かなりいろいろなことを試していて、普段野尻さんにするようなセットアップをひとつずつやってみて、ドライバーからどんなフィードバックが出てくるかを試している部分もあるのですが、(野尻と)同じコメントも出てきたりして、結構細かいところまで気づいてくれるな、という印象です」
「ただもちろん『ブラインドテスト』ではなく、ちゃんと『こう変えたから、多分こうなるよ』というのは伝えています。そうすると(その状態での走行後に)『ここはこうなったけど、この部分はちょっと違う印象だ』というのを聞かせてくれます。まだ6時間しか乗っていませんが、もう普通にレースを戦えるかな、というくらいのフィードバック量はあります」
今回のテストでは、ローソンの好みに合わせセットアップを仕上げていくプロセスを踏んでいるわけではないため「難しい」と前置きしつつも、一瀬氏は「(対応できる)幅が広いので、おそらく今年の1号車と15号車、どちらのセットも乗れそうですね」という。
「それもちょっと僕は試してみて、どちらも乗れるので幅は広いですが……好みとしては、1号車寄りかなと思います。(ターンインの)初期は安定した方向を好みますが、ミッド(コーナリング中盤)はとにかく曲がっていないと嫌、というタイプですね」
「パッと思いついた印象だけで言うと、一番似ているのはオンボード映像で見た(アレックス・)パロウ選手の運転に近い印象がありますね」
まだ20歳と若いが、パーソナリティの面も「かなり真面目といいますか……かなり細かいところまで理解してから乗ってくれるような感じですね」と一瀬氏。いわゆる奔放でフランクといった“外国人ドライバーのイメージ”とは、異なるキャラクターのようだ。
現時点では来季参戦体制に関する発表はホンダからもチームからもないが、ローソンへの期待感は高い。
「もし(来年)乗ってもらえるのだとしたら、かなり“期待・大”かなと思いますね」と語る一瀬氏に、3年連続タイトルを目指す野尻と選手権を争う存在となりそうか、と問うと「なると思います」と力強く答えた。
初日を終え、首の痛みを訴えていたローソン。一瀬氏への取材後に行われたセッション4では、ロングランを中心としたメニューでレースを想定したフィジカル面の負荷なども確認していたようで、2023シーズンに向けた準備を万端に整えているように見えた。