もっと詳しく

ポルシェの新しいハイフライヤー。新型ポルシェ911 GT3 RSは、エアロダイナミクスにこだわっている。どんな感じか?それをシルバーストーンのレーストラックで確かめた。

アンドレアス プリューニンガー(Andreas Preuninger)は策士だ。ポルシェのGT部門のボスが、ここシルバーストーンサーキットで最新の991のトップモデルを披露しようとしたのは、決して意図がないわけではない。なぜなら、まさにマクラーレンが4年前に初めて「マクラーレン セナ」を走らせた場所だからだ。アビーコーナーとコプスコーナーを、頭ではダメだとわかっていても全開で走ったとき、ロードカーで初めて本当のダウンフォースを体験した。しかし、数日後、その衝撃で首が痛くなったことを想い起す。

そして、それこそが、ここシルバーストーンサーキットで新型「ポルシェ911 GT3 RS」のテストが実現し、実証するはずのものなのだ。そしてプリューニンガーは、テスト前夜に、「この子は、スリックタイヤを履いたカップ911よりもコーナーが速い」と、言葉を濁すことなく語っていた。

中央のラジエターから出た温風は、鼻の穴を通って左右に放出される。

新型「RS」は、完全にダウンフォース重視の設計になっている。クルマ全体が空力に特化しているのだ。高回転型ボクサーは、先代ですでに限界に達していたから、それしかなかったのだ。ハイブリッド化も、軽量化も、「992」のベースが大きく広いので、あまり意味がない。

本物のレーシングカーのように

だから、もっと速く、もっといいクルマにするためには、サスペンションとエアロしかなかったのだ。しかし、ただ大きなウィングを付けて、車高を下げて、ホイール幅を広げて、それで終わりではない。シャーシはこれまでにないほど加工され、改良された。さらに、多くの「GT3 RS」ユーザーの要望に応え、本物のレーシングカーのような調整オプションも追加した。

ポルシェ911(992)GT3 RS

「GT3 RS」は、さらに妥協を許さない存在になった!「992」プラットフォームを公道走行可能な究極のサーキットツールとするために、ポルシェはそのバッグの奥深くに手を入れ、これまで以上にモータースポーツ車両を指向している。
最も重要な技術的変化は、冷却コンセプトだ。新型「GT3 RS」では、従来の3つのラジエターに代わり、車体前方に斜めに配置された中央のラジエターが採用されている。この部品は、レーシング兄弟の「911 RSR」や「911 GT3 R」にも採用されている。
この過激な措置にはデメリットもあり、公道認可を受けた最も過激な「992」には、もはやブーツ(フロントのトランク)がないのだ。
しかし、特にメリットがデメリットを明らかに上回っているため、トランクルームの不足はトラックツールとしては許容範囲内だ。サイドのスペースが広くなった分、フロントには無段階に調整可能なウィングエレメントを装着することができた。これは巨大なリアウィングを考えると、必要不可欠な要素である。
こうして「GT3 RS」は、200km/hで409kg、285km/hで860kgのダウンフォースを発生させることができる。エアロダイナミクス的には、ポルシェは初めて市販車にDRS(Drag Reduction System=空気抵抗低減システム)を装備した。ステアリングホイールのボタン操作で、XXLサイズのウィングの上部を油圧で平らにすることができ、急ブレーキ用のエアブレーキ機能も備えている。
視覚的にも、ナンバープレートのない「GT3 RS」は、24時間レースのスターティンググリッドにいても違和感はない。ロードカーでは類を見ない特大サイズのリアウィングをはじめ、ホイールアーチのくぼみなどが視覚的なハイライトとなっている。
「GT4 RS」ですでに分かっていることを、ポルシェは「GT3 RS」で極限まで高めている。フロントとリアのホイールアーチの両方には、「911 GT1」を彷彿させる凹みが設けられてあり、ホイールアーチ内の空気圧を確実に減少させるようになっているのだ。サイドブレードは、空気を効果的に車体側面へ誘導する。
この空力パーツのために、ポルシェは「GT3 RS」のために新しいドアを設計しなければならなかった。カーボン製で8~9kgの軽量化を実現したという。ドアハンドルは折り畳み式から、グリップハンドルになった。
また、外装色に「アイスグレーメタリック」を新たに設定し、写真車両はレッドアルマイトの鍛造ホイールを装着している。無論、あまり目立たない色で注文することも可能だ。
リアには、「GT3」や「GT4 RS」でおなじみのエモーショナルな4.0リッター6気筒ボクサーエンジンを搭載し、ポルシェは再び改良を加えた。エアインテークの改良とカムシャフトのシャープ化(プレウニンガーによれば、6000rpmからはっきりとわかる)により、GT3 RSはGT3より15psアップの525馬力を発揮するようになった。
また、先代同様、最新のRS世代はPDK専用モデルも用意されている。1,450kgの「GT3 RS」は、短いギア比のおかげで、100km/hまで3.2秒、200km/hまで10.6秒で加速することができる。最高速度は296km/hとなっている。
ステアリングホイールのロータリースイッチにより、「トラックモード」では後軸のクロスアクスルロックを調整でき、さらに前後軸の圧縮・伸縮ダンパーを個別に調整することも可能だ。また、各タイヤのタイヤ温度も初めて個別に記録・表示されるようになった。
GT3 RSのステアリングホイールは、4つのロータリーコントロールとDRSボタンで構成され、まるでレーシングカーのようなデザインだ。「991.2 GT3 RS」で非常に人気の高かったヴァイザッハパッケージ(50%以上の受注率)をオプションで注文すれば、なおさらだ。
新型「GT3 RS」は現在、ベース価格229,517ユーロ(約3,300万円)で注文可能で、「GT3」に対してほぼ正確に5万ユーロ(約700万円)のプレミアムとなっている。「GT3 RS」は限定台数がないとはいえ、手に入れるのは難しいだろう。
ポルシェはまたしてもやってくれた。新型「GT3 RS」には、最高級のモータースポーツ技術が搭載されている。DRS、フルアジャスタブルサスペンションなど、この価格帯では他では手に入らないものばかりだ。そして、ポルシェがいまだに4.0リッター自然吸気エンジンにこだわっているのは、その表れなのだ。

今回のテストのおこなわれたシルバーストーンサーキットの日程は、走行時間も天候も十分とは言えなかった。残念ながら、期待された空力ショーは少し失敗し、結局ハーフドライのラップは3回だけだった。いずれにせよ、春のスーパーテストまでには、ドライの状態で「GT3 RS」とそのシステムをよりよく理解できるようにしたいと思う。とにかく体験したことは、すぐにでも紹介する。その前に、興味のある方のために、「RS」特集の簡単な解説を。

一見すると、すべてが通常の911と同じように見えるが、ステアリングホイールには歯車があり、DRSボタンも付いている。

そして、重さから入る。「GT3 RS」は通常の「GT3(1435kg)」より15kg重く、1,450kgは最軽量バージョン、つまり「ヴァイザッハパッケージ」を装着した場合の値となる。スタビライザー、カップリングロッド、ケージ、カーボン製ドアハンドル、マグネシウム製ホイールを装備し、「RS」を15kg軽量化することができる。このプラスアルファがなければ、「RS」は「GT3」よりもさらに30kg重く、先代の「991.II」よりも25kgも重いのだ。

F1のセンスで: リアウィングにDRSを搭載

それはともかくとして、着眼点が違う。ダウンフォース、ダウンフォース、さらにダウンフォース。そして、そこですぐに目につくのが、怪しげなリアウィングだ。「911」史上初、ルーフより高いテールウィングを採用。全体がカーボン製であるだけでなく、DRS(Drag Reduction System=空気抵抗低減システム)により、上翼パネルを油圧で34度調整できる。いわばアクティブエアロダイナミクス(時速100kmから、スロットル95パーセントで)、エアブレーキ機能付きである。

XXLサイズのウィングはルーフより高く、アッパーウィングは油圧で調整可能だ。

しかし、運転中に動かせるのはそれだけではない。フロントエプロンの下には、リアウィングと平行に作動するアクティブフラップが追加されている。しかし、これを実現するためには、クルマの他の部分に多くの手を加えなければならなかった。例えば、従来の3つのラジエターから、斜めに配置された大型のセンターラジエターを車体前部に設置するレイアウトに変更。「RSR」や「GT3 R」のレーシングカーと同じように。

内部も外部も洗練されたソリューション

サイドブレードは、空気を特に外側に向ける。フロント部のホイールアーチベンチレーションは、従来通りウィングに設けられた開口部を経由して行われる。伝説の「911 GT1」と同様に、フロントホイールの後ろにドローインを設け、ホイールアーチの動圧を低減している。吸気口の後ろにあるサイドブレードは、空気を確実に車体側面へ誘導する。そのため、ドアも当然カーボン製で、本物のドアハンドルが付いたものを新たに作る必要があった。

隠し味: 空力的に最適化されたサイドウインカーは、サイドブレードに取り付けられている。

そして、もうひとつの見どころは、センターラジエターからの温風が、フロントボンネットの巨大なルーバーを介して流れ出ることだ。ルーフのフィンは空気を外側に導き、リアでの吸気温度をより低くすることができる。暖かい外気温で20馬力程度を発揮するはずだ。リアサイドパネルの開口部は、空力向上のためのみに使用し、プロセスエアを取り込まないようにしている。

新型「GT3 RS」は「GT3」比で29mmもワイド化したため、ウィッシュボーンは同時にエアロリンク(ドロップ型プロファイル)となった。その結果、先代(991.2)の2倍、現行911 GT3の3倍のダウンフォース、285km/h時に860kgを誇る。「マクラーレン セナ」は800kgしか出せなかった・・・。

【車両データ】

モデル ポルシェ911 GT3 RS
エンジン 水平対向6気筒エンジン、リア縦置き
排気量 3996cc
最高出力 525PS
最大トルク 465Nm
駆動方式 後輪駆動、7速デュアルクラッチ
0-100km/h/0-200km/h加速 3.2秒/10.6秒
最高速度 296km/h
全長/全幅/全高 4572/1900/1322mm
乾燥重量 1,450kg
テスト時平均燃費 7.4km/ℓ
CO2排出量 305g/km
価格 230,112ユーロ(約3,300万円)

シャーシは?ボールジョイント、新しいスプリングレートとダンパーのセッティング。さらにワイドなホイールとタイヤ、275と335、カップ2標準、カップ2 Rとピレリ・トロフェオRSがオプションで用意されている。「GT3」と同様にドライビングモードコントロールによる設定: ノーマル、スポーツ、トラック。しかし、ここに来て、ステアリングホイールのダイヤルが3つも増えている。フロントとリアの伸縮ダンピングを調整するもの、リアアクスルクロスロックのスラストロックとリバウンドロックの値を調整するもの、マルチステージトラクションコントロールとしてESC/TCを調整するものだ。ステアリングホイールの左側には、アクティブウィングを手動で操作するためのDRSボタンがもう一つ付いている。

ディフューザーはGT3から、アンダーボディは初めて完全にカバーされ、エキゾーストサウンドは最高だ。

その仕組みはどうなっているのか、レベル4はレベル0と比べてロック効果にどんな違いがあるのか、トラクションはレベル2までなのかオフなのか – 残念ながら、ここシルバーストーンサーキットではまだそれを知ることはできなかった。このテーマは厄介で、時間と多くの周回が必要だ。確かなことは。エアロダイナミクスは確かに顕著に現れている。数少ない半乾きの周回で、現時点ではそれがわかったくらいだ。

アスファルトの上の野獣

この「GT3 RS」が「911」の中で最も爆発的な車であることは、走り出した瞬間から明らかだ。スロットル、そのシャーシとエアロの構成はまさに狂気の沙汰だ。文字通り、「野獣」だ。シルバーストーンサーキットの数少ないドライ路面でのターンインと減速は、そんなイメージだ。横方向と縦方向の加速度を結びつけ、記憶という名のメモリーチップに名誉を与えるにふさわしい印象を残す、あの感覚だ。今回はフルに走らせることができなかったのが残念だ。でも、きっとまた「RS」に出会えるはず。そしてまた・・・。

結論:
「GT3 RS」は、能力、技術的な繊細さ、そして何よりもエアロダイナミクスにおいて、成長を遂げた。まだ新型「GT3 RS」を限界まで試したわけではないが、すでにひとつだけはっきりしていることがある。このポルシェの魅力は、何ができるかというだけでなく、どのようにそれを実現するかということだ。

Text: Guido Naumann
Photo: Porsche AG