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 累計発行部数5500万部を超える伝説のクルママンガ『頭文字D』。クルマ好きの若者たちはこれを読み、古き良きスポーツカーに昂り、峠へと繰り出した。2020年には新装版も発売され、連載終了からおよそ10年が経過しようとしている現在でもその熱は冷めやらず、当時のクルマたちは中古車市場においても高い人気を誇る。

 本稿では、同作に登場した人気車をピックアップし、連載当時は詳しく語られなかった、各車の仕様(グレードやボディカラー)、カスタマイズ、チューニングの変遷などを紹介していく。第一回は、主人公、藤原拓海の愛車であるスプリンタートレノ(AE86型)の前編をお届けしよう。

文/安藤修也
マンガ/しげの秀一


■グレードは初期型のGT-アペックス

 ”ハチロク”といえば、言わずと知れた主人公・藤原拓海が操るコンパクトなスポーツハッチバック。リトラクタブルヘッドライトと固定式ヘッドライトというフロントのデザイン違いを持つ、スプリンタートレノとカローラレビンの兄弟車のAE86型のことである。ボディは3ドアハッチバックのほか、2ドアクーペの設定もあり、回頭性の良さや類まれなるバランスのよさで、スポーツカーファンから人気を博したモデルだ。

 藤原拓海の愛車だが、連載スタート時はまだ父親である文太の所有。つまり家のクルマだった。グレードは初期型の「GT-APEX(アペックス)」で、ボディカラーは「ハイテックツートン」と呼ばれる、ホワイトとブラックの上下で区切られたツートーンカラー。現在の中古車市場を見ると、流通物件のほとんどがこのツートーンカラーになっている。

 初登場時したのは、Vol.1「ハチロク買おーぜ」だが、しっかりその姿を読者の前に現したのは、Vol.3「究極のとうふ屋ドリフト」における、高橋啓介操るRX-7(FD3S型)とのバトルシーンである。ただし、ドライバーが拓海であることは明かされていない。またこの時、(トビラページを除けば)初めてボディ横に「藤原とうふ店(自家用)」というあの文字も確認できる。

 ホイールについては、このファーストバトルの走行中は、ホイールカバーを外した、いわゆる”てっちん”ホイールのようにも見えた。しかし、後に停車した際の姿を見ると、定番「RSワタナベ」のエイトスポーク風アルミホイールだと確認できる。また、バンパー左右にフォグランプが装着されているのも特徴で、あるトビラページでは「CIBIE」の刻印のようなものも見られる。

 マフラーは、純正にしてはテールパイプの口径が大きめに感じられる。また、いくつかバトルを重ねていくうちと、走行中の排気音が効果音として起こされており、「プアアァァァーッ」、「カァアアアーーッ」などと表現されていることから、きっと社外のチューニングマフラーに変えているのだと推察される。

■文太の運転する姿が思い浮かぶアイテム

 外観の細かなところでは、タイヤの後方に泥除けの板、つまりマッドガードが装着されている。さらによく見ると、ドアには雨よけのドアバイザーも付けられている。これはきっと、文太のチョイスに違いない。雨中の走行時に、窓を開けてタバコを吸う文太の姿が目に浮かぶではないか。

 連載スタート時の同車のインテリアは、パッと見ほぼノーマルのようだ。ステアリングを「NARDI(ナルディ)」風のモデルに変えている程度で、あとはドリンクホルダーをつけているくらい。このドリンクホルダーに水の入った紙コップを入れて、拓海は腕を磨いてきたわけだが、これを真似て、自分の愛車で水入り紙コップを試した(そして水をこぼした)ファンも多かったことだろう。

 足まわりに関しては、Vol.22「拓海の全開ドライブ」で中里毅のスカイラインGT-R(R32型)と対決するにあたり、バトル前に文太がセッティングを変更している。文太曰く「アクセルオンでドアンダー」な味つけで、以前より全開で走れる時間が長くなったという。拓海もスタートしてすぐ、「踏んでもクルマが乱れない……今までよりもワンテンポ早く踏める…?」と気づき、結果的にはこれが勝利に貢献することになった。

 クルマの最重要部となるエンジンに関しては、この作品の初期ではバトル毎に各車のスペックのようなものが表示されていたのだが、ハチロクに関しては、「4A-GEU改(文太スペシャル)」などと表示されるくらいで、それ以上細かいことは不明。「150馬力くらい」と記載されたこともあるが、それほど大きな改良が施されていたとは思えない。なにせ文太は、拓海の技術の幅を広げるためにハチロクのセッティングを決めており、「考えて試行錯誤させる」のに大パワーは必要ないからだ。

■エンジン載せ替えという大変革!

 しかし、ストーリーの進行とともに、文太は拓海がある程度育ってきたことを実感してエンジン載せ替えを決意(エンジン的には寿命が近かったこともある)。「パワー出るからあちこち補強して、タイヤもインチアップするから足まわりも大幅にいじる」と文太がいろいろ考慮していた矢先、Vol.107「さよなら大好きなハチロク」で、拓海は須藤京一のランエボIIIに敗れると同時に、エンジンを大破(クランクシャフトとコンロッドをつなぐピンが折れ、コンロッドがブロックを突き破り大穴が開いた状態に)させてしまう。

 結果、予定通りエンジン載せ替えが敢行されるわけだが、搭載されたのはなんとレース用のドライサンプエンジン。排気量は1.6Lの自然吸気型、AE101から採用された5バルブヘッドの新型がベースになっていて、金を出して欲しいと言ってもすぐに手に入るような代物ではなく、文太がツテを辿って入手した代物だ。

 エンジン換装後、文太がテスト走行を繰り返したところ、身体を支えきれないほどの横Gが発生するくらい速度域が高くなったことが判明。そのため、まずはバケットシートを装着したほか、エンジンパワーに合わせて、足まわりやブレーキ、ボディまでバランスよく強化された。

 初走行した拓海は「前よかハンドル重くなった。クラッチも」と発言。ただエンジンは1万1000回転まで回る超高回転型ということで、かなり回さないとパワーを絞り出せないため、当初は拓海もその素性がわからず扱いに手を焼いていた。同じくハチロクに乗る秋山渉が助手席試乗した際にそこを見抜き、以後、タコメーター(回転系)と水温計、油温計を装着することになる。

 そして、慣れるまで悪戦苦闘しながらも、拓海は須藤京一のランエボIIIとのリベンジマッチに勝利するまでになる───(後編へ続く)。

■掲載巻と最新刊情報


頭文字D(1) (ヤングマガジンコミックス)
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MFゴースト(15) (ヤングマガジンコミックス)
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