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 かつて注文から1~2か月で納車されていたクルマが、1年たっても2年たっても納車されない…人気車についてはオーダーストップという事態にもなっている、国内新車市場の超長納期化。トヨタは(月間販売ランキング上位車が多いこともあ)特にこの問題が切実になっていたが…年末、トヨタ販売店に行くと「年始から納期が短くなりそうです」という声が複数聞かれた。マジか。ついにか。日本自動車界だけでなく世界経済情勢を背景にして進んでいる新型車の超長納期化に、ついに光明が見えてきた……か……??

文/ベストカーWeb編集部、遠藤徹、画像/TOYOTA

■「納得」というよりも「諦め」

「すでにオーダーをいただいているお客さまには、現状の(「おおまかな納期さえ伝えられない」という)長納期化についてはご理解をいただいている印象ですが、この理解というのは、納得というよりも、仕方がない、諦めに近い雰囲気となっております」

 上記は2022年11月18日に実施されたトヨタの労使懇談会で登場したフレーズである。全トヨタ販労連を代表して参加した菅野朋之委員長代行が、全国のトヨタ販売店でいままさに起こっている状況を説明した。

トヨタ元町工場の組立生産ライン。完成車ラインは半導体の部品ひとつが入ってこないだけで止まる。そこで従事する膨大な工数が止まることになり、すさまじいロスが起こる

 世界的な半導体不足や新型コロナ感染症の流行による部品流通の不安定化により、2021年の中頃から、新型車の超長納期化が深刻化している。この影響は全メーカーに及んでいるが、その中でも特に「人気車」と呼ばれるモデルに顕著であり(需給バランスが偏ることで長納期化はさらに進むため)、月間販売ランキングで上位を占めるクルマが多いトヨタは、必然的に強い影響を受けることになった。

 かつては店舗在庫が平均240台であったが、コロナ禍で一時6台程度まで減少したというから、その状況の切迫具合がよくわかる。

 上述のとおりトヨタはこの超長納期化を全社的な問題と捉えており、「(長納期化軽減のための)打てる手はすべて打つ」(トヨタ幹部談)と言っているとおり、部品調達や販売現場での調整だけでなく、流通や製造、開発現場に至るまで、まさに全社一丸となってさまざまな対策を講じてきた。

 具体的には、

「設計を変えてほかの半導体を使う。他のメーカーのものを使う。中期的には、構造そのものを変えるといった何段階かの対応をやる。それにより、(半導体を)入手しやすくする。もしくは、入手しにくいものを減らしていく」(トヨタ自動車前田昌彦副社長/『トヨタイムズ』「【全社緊急課題】長納期をトヨタ労使が徹底議論」より)

 といった具合。

 このほかダイハツ用の運搬用キャリアカーを使ったり、中古車用のヤードを併用するこで流通ロスを減らすなど、最上流から現場まで徹底した対策を講じてきた。

 特に期待したいのが、今年(2023年)初頭の新型車(おそらく新型プリウス)から順次導入されるという「J-SLIM(Japan Sales Logistics Integrated Management)」というシステム。これまで何十年も続いてきたトヨタの需給の仕組みを大きく変える新システムで、発注を入れるとそのクルマがいつ組み立てられ、工場を出て、販売店に到着するかが細かく可視化されるとのこと。これまで販売店には新型車の納期は3カ月先までしか示せなかったが、販売現場やユーザーに「その先」まで知らせることができるようになるという(この新システムについては追加で取材します。期待大)。

部品調達だけでなく流通の調整も進んでおり、なんとダイハツ車のキャリアを使ったり、中古車のモータープールの活用まで実施されているという

 こうした改善に加えて、(需給バランスの最適化のため)国外向けの部品や完成車両を国内向けに振り向けることで、納期の短期化を進めるとのこと。

 こうした動きがじわじわと現場の販売店に伝わっており、年末から年始にかけてSNSを中心に「トヨタ車の納期がかなり短くなるらしい」という話が出てきた。具体的には、これまで「半年程度」、「1年以上」と言われていたモデルが、「3カ月くらいで」、「半年以内には」となっているとのこと。

 本件について、実際に新型車ディーラーでどのような話題になっているか、2022年12月中旬~下旬にかけて、流通ジャーナリストの遠藤徹氏にレポートしてもらった。

■増産して早まるって本当? 最新のトヨタ納期調査

(ここから執筆は遠藤徹氏)

 2022年12月中旬、トヨタ本体から首都圏を中心としたトヨタ系ディーラーに届いた通達によると、2023年1~3月は前年同期に比べて増産、増配に踏み切るようだ。また商用車系モデルのハイエースを中心に海外向け車両を国内に振り向けることで、納期の2~3ヶ月程度の短縮化を図るべく準備をすすめている。

 トヨタが12月中旬に明らかにしたところによると、2023年1月のグローバル生産台数計画は70万台程度で、うち国内約20万台、海外約50万台としている。同月の稼働停止は全14工場28ライン中2工場2ラインで、トヨタ自動車の田原工場第1ライン6日間、日野羽村工場の第1ライン9日間。田原工場の第1ラインはランドクルーザープラド、レクサスGX、4ランナー、羽村工場の第1ラインはランドクルーザープラドの組み立てを行っている。つまり1月の稼働は両2工場の2ライン以外は稼働停止を行わず、正常化するといえる。

 また、物流の整備を加速することや新システム(編集部注/これが「J-SLIM」か)を導入して(これまで直近しか明示できなかった)納期を2年先まで可能な限り明らかにして、キャンセルの改善につなげる施策も実施する。

 これまでは1週間ごとに扱いモデルの納期をWeb経由で販売店へ伝える方式だったが、これで販売店側が分かるのは「おおよその納期」までであり、あまり明確にできなかったが、新しい仕組みが多くの車種で採用されれば、少なくとも注文時に納期を示せない、注文後に納期が大きく伸びる、といったケースは減少することになる。

2023年5~6月のフルモデルチェンジを予定しているアルファード/ヴェルファイア。すでにトヨタ販売店ではオーダーストップ(受注停止)となっており、「新モデルの受注可能性が出た段階で連絡します」といった案内を出しているそう。中古車も入ったらすぐ売れてしまうとのこと

 トヨタ系販売店で、2022年12月中旬現在明らかになっている主要車種の状況は、以下のとおり。

【オーダーストップで納期が不明】
カローラクロス、ハリアー、RAV4、ランドクルーザー300、ランドクルーザープラド、アルファード。

【2023年中にフルモデルチェンジするため現行型のオーダーを制限している車両】
プリウス(今冬)、プリウスPHEV(3月)、アルファード(5~6月)、C-HR(6月)、ランドクルーザープラド(8月)。

【同年中にマイナーチェンジ、一部改良が予想されるため新規オーダーを調整している車両】
カローラクロス、ハリアー、RAV4、クラウン(追加モデル設定)、ヤリス、ルーミー、ライズ等。

 上述のとおり、大半の人気量販モデルがなんらかの改良を予定しており、なるべく早い時期に従来モデルのバックオーダーを解消しないとまずいといった事情もある。

 納車待ちをしているユーザーは「当該モデルの改良が近い」という情報が明らかになると、キャンセルして新型に切り替えるというケースが発生し、通達コストがかかる上にトラブルになりかねない。国内向け仕様への増配と納期の可視化、流通の整備は、トヨタがいま出来る精一杯の販売戦略といえる。

■「常識」を上書きしつつも、まず販売店に行ってみては

 上述のとおり、2022年12月中旬現在、オーダーストップになっている車種はアルファード、カローラクロス、RAV4、ハリアー、ランドクルーザー300、ランドクルーザープラドなどで、今後はそれぞれのモデルチェンジの時期に合わせてオーダー受付を順次再開する見通しである(多くは改良後の新型を案内されるはずなので、改良がかなり先の車種はやはりまだ相応の時間がかかりそう)。

 受注を受け付けてはいるが、納期が異常に長いノア/ヴォクシー、クラウン、シエンタなどは、2023年初め以降、徐々に短縮に向かうが、こちらも車種によってバラつきがある。

 ハイブリッドモデルなど半導体を多く使う車種はガソリンNA車に比べると多少回復が遅れる可能性がある。

2021年6月に発表発売となったランドクルーザー300。超長納期化の象徴的な車種となってしまった。現在も受注ストップ中。2023年内にオーダーの受付だけでも回復する可能性は…「ある」と遠藤氏。ただし早くて年末とのこと

「長納期化によるオーダーストップ」の象徴のようなモデルとなったランドクルーザー300については、1年前にオーダーストップとなった時点では納期が「4年」と伝えられた。したがってオーダーの受付を再開するのは、早くてあと1年以上先になると思われる。

 トヨタ関係者に取材すると、各部門で長納期解消に全力を尽くしており、上記のとおり徐々に回復傾向にある。

 とはいえ魔法のほうにある日を境に一気に、以前のように「どのモデルのどのグレードも注文から1~2か月で納車」というような状況に戻ることは、どうもこの先いつまでたってもなさそう。

 半導体を中心としたサプライヤーからの部品供給は(開発設計の時点から見直したとしても)、平準化まで数年を要するし、新型コロナ感染症の蔓延は(国内だけでなく中国を含めて)弱毒化されたといっても再拡大し、警戒が必要になっている。トヨタが増産、増配に踏み切るのは、可能なかぎりやりくりして、なんとか当面の課題に対処するといったことのようだ。本件についてはメーカー側の努力を見守りつつ、ユーザー側にも(「新型車は契約から早くても3カ月~半年、長ければ1年くらい納期がかかるもの」という)常識の上書きが必要となってくる時期なのかもしれない。

 ただそのいっぽうで、上述のとおり徐々に納期が短く、かつ「分かりやすく」なってきているのも事実。狙っている車種がある場合は、(納期が長くて諦めるくらいなら)実際に販売店へ行って見積もりをとってみることをお薦めしたい。案外すぐに手に入るモデルがあるかもしれない。

なにげに大人気でオーダーストップとなっているカローラクロスのハイブリッド仕様。2023年内にマイチェン予定だそうです

■「納期さえ短縮できれば」首都圏トヨタ店営業関係者

 販売店にとっては成約しても納車しないと収益にならないので、死活問題だ。当面は既納ユーザーの場合を中心に成約した時点でクラウンクラスなら100万円、小型車以下だと30万円の前金をいただいている。下取り車がある場合は納車が間に合わない場合は、安く車検を受けてもらうようにしている。増産、増配によって納期が短くなるのを大いに期待している。昨年、一昨年に比べて新車自体の売れ行きはよくなってきているので、納期さえ短縮できればすべての問題が解消すると考えている。

【画像ギャラリー】ランクル、アルファード、カローラクロス…長納期化の象徴のようなクルマと工場画像(6枚)画像ギャラリー

投稿 トヨタの…納期が…回復しつつある…?? 「打てる手は全部打つ」年始からトヨタのガチ本気とユーザー側の常識の上書き自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。