昨季2022年シーズンのF1における“数字”を軸にアレコレ考えていく『2022年F1数字考』の第2回。今回はドライバーの通算勝利数と通算ポールポジション獲得回数の動向に目を向け、そこから話を展開していこう。2022年シーズンの数字、というよりは、2022年シーズンまでの数字、という色合いが濃くはなるが、この2大記録トップの数字が2022年はどちらも動かなかったわけで、それはけっこう歴史的な出来事であった。
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F1世界選手権におけるドライバーの通算勝利数と通算ポールポジション獲得回数、いずれも現役のルイス・ハミルトン(メルセデス)がトップに立っていることに説明の要はないだろう。あらためて両部門のトップ10をまとめると、以下のようになる(2022年シーズン終了時点。一部の数字には異説等存在する場合もある)。
■F1通算勝利数トップ10
1位 ルイス・ハミルトン 103勝
2位 ミハエル・シューマッハー 91勝
3位 セバスチャン・ベッテル 53勝
4位 アラン・プロスト 51勝
5位 アイルトン・セナ 41勝
6位 マックス・フェルスタッペン 35勝
7位 フェルナンド・アロンソ 32勝
8位 ナイジェル・マンセル 31勝
9位 ジャッキー・スチュワート 27勝
10位 ジム・クラーク 25勝
10位 ニキ・ラウダ 25勝
■F1通算ポールポジション獲得回数トップ10
1位 ルイス・ハミルトン 103回
2位 ミハエル・シューマッハー 68回
3位 アイルトン・セナ 65回
4位 セバスチャン・ベッテル 57回
5位 ジム・クラーク 33回
5位 アラン・プロスト 33回
7位 ナイジェル・マンセル 32回
8位 ニコ・ロズベルグ 30回
9位 ファン・マヌエル・ファンジオ 29回
10位 ミカ・ハッキネン 26回
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13位 フェルナンド・アロンソ 22回
14位 バルテリ・ボッタス 20回
14位 マックス・フェルスタッペン 20回
勝利数の方には今季2023年も現役を続行する者がトップ10に3人含まれているが、ポール数の方にはハミルトンしかいない。そこでポール数に関しては参考記録として、『トップ10圏外ながら通算20回以上で2023年も現役』の3人を付記している(現時点で20回以上は16人)。
2022年、通算勝利数のランキングを一気に駆け上がっていったのがマックス・フェルスタッペン(レッドブル)である。2021年シーズン終了時点では通算20勝、歴代16位タイだったのに、1年で15勝を加算、並み居る先達たちをごぼう抜きにして歴代6位までジャンプアップした。この快進撃、2023年も続くのだろうか? 勝ちまくるなら、今季中に歴代3位まで浮上することも不可能ではない。
通算勝利数、通算ポール数ともトップのハミルトンは、2021年シーズン終了時点で両部門とも103という数字であった。そして2022年、彼はF1参戦16年目にして初めて、勝利もポールも得られなかった。いずれも“初停滞”である。偶然とはいえ、ふたつの数字が並んでいた状態で『デビュー年から毎年1勝以上』と『デビュー年から毎年ポール1回以上』が途切れたことには、記録というものの不思議さも感じる。
さて、この『デビュー年から毎年1勝以上』と『デビュー年から毎年ポール1回以上』は、いずれもハミルトンの15が最高記録。彼ほど最初からトップレベルで長く走り続けている存在はいない、ということの証左であり、両記録が途切れた2022年にしてもトップレベルの争いには参加していた(と思う)ので、つくづく、凄いお人である。
この両記録、『デビュー年から』という制限を取っ払うと、少し様相が変わる。ポールの方はハミルトンの15年連続が単独の歴代最高で不変だが、勝利数の方の15年連続にはミハエル・シューマッハーが並ぶことになるのだ。
シューマッハーはF1参戦2年目の1992年から“第1次引退”をする2006年まで15年連続で毎年1勝以上を記録。ここでピンとくる人も多いだろう、彼のF1デビューは1991年で、この年は後半6戦にしか出走していない。つまり、『デビュー年から』というくくりをつけた場合に、シューマッハーはちょっとかわいそう、との見方が成立する。
6戦出場というのは、スポット参戦というレベルではなく、フル参戦にも遠い。なんとも中途半端な数だ。シューマッハーにはこの記録(デビュー年から、の条件がついた場合の連続シーズン勝利記録)に関しては運がなかった、というところだろうか。
ともに15年連続優勝を記録したふたりだが、シューマッハーは1992、1993、2005年の3シーズンが1勝のみ。キャリア初期はさておくとして、2005年は記録継続の大ピンチだった。2005年唯一の勝利は、当時のミシュランタイヤ勢が実質的に決勝を棄権し、ブリヂストン(BS)勢3チーム6台のみで争われたアメリカGP(インディ・ロードコース)でのものだ。フェラーリの僚友ルーベンス・バリチェロ以外にシューマッハーと競える存在はいなかった。
BS勢が大苦戦した2005年、シューマッハーは毎年1勝以上を継続するほとんど唯一のチャンスをアメリカGPで確実にものにしたのである(バリチェロとの際どい攻防のシーンもありつつ)。
■見てみたかった同チームで走るハミルトンとベッテル。揺らぐ“ポールポジションの概念”
ハミルトンの15年連続毎年1勝以上のうち、1勝のみだったのは2013年だけ。マクラーレンを出てメルセデスに移籍した初年度で、7月末のハンガリーGPでシーズンただひとつとなる勝ち星をあげている。ただ、19戦中の10戦目には勝っていたわけで、その前に僚友ニコ・ロズベルグが2勝していたこともあり、それほどのピンチ感はなかった。
2013年以上に危なかったのは2009年だろう。ブラウンGPが前半戦を圧倒した年で、出遅れたマクラーレンにはシーズン0勝かも? という懸念があった。結果的にハミルトンは2勝しているので、のちのちの視点で見るとピンチ感は薄いものの、2013年より危なかったように思える。
ちなみに2009年も1勝目は7月末のハンガリーGPだった(17戦中の10戦目)。全敗の可能性が肥大化するかもしれなかった可能性を2度までも消した舞台であるハンガロリンク、ハミルトン得意中の得意コースといって間違いないだろう。
なお、昨シーズン限りで引退したベッテルも、ハミルトンと同じ2007年デビュー(ベッテルは開幕戦からの出場ではなかったが)。同じ年にデビューしたふたりが勝利数の歴代1位と3位というのは、強烈過ぎる現実だ。
2007〜2021年の15シーズン、全289戦においてハミルトンとベッテルのいずれかひとりは少なくとも決勝に出走しており、156戦でどちらかが勝った。コンビによる期間勝率は54%である(2022年も統計に含めると311戦156勝で勝率.502)。
ハミルトンとベッテル。一度は同じチームで走る姿も見てみたかった。
少し話がブッ飛んでいき過ぎたので、このあたりで軌道修正しよう。通算ポール数のトップ10を眺めてみると、その顔ぶれが勝利数とは微妙に違うところにいろんな読みや解釈ができておもしろい。
ただ、こちらもトップはハミルトンであり、2位がシューマッハーというのも同じ、そしてベッテル、セナ、プロストが3〜5位(5位タイを含む)にいることは共通している。大昔とのレース数の違いを考慮する必要はあるにしても、この5人、記録面では究極の5傑といえそうだ。また、ジム・クラーク(1963&1965年王者)がポール数で今も歴代5位タイにいることは流石としかいいようがない。
2022年のフェルスタッペンはポール数に関してはウナギ登り、とはいえなかった。シャルル・ルクレール(フェラーリ)が9回のポール獲得で昨季の最多、フェルスタッペンは7回である。日本GP前の時点では9対4だったくらいで、フェラーリとレッドブルのマシン特性の違いのようなものも感じられるところだ。
それにしても昨季のフェラーリF1-75、タイトルを獲れなかったのはともかくとしても、レッドブルRB18に対して勝利数4対17で惨敗するほどの差があるマシンではなかったと思うが……(敗因は語るべくもない?)。
ところで最近、ポールポジションというものの概念が揺らいでいるような気がする。そのせいで、シーズン別や通算の獲得回数にも「諸説あります」(異説等存在する場合もある)の状態が生じつつあるのが実情だ。
ポールポジションとは、もちろん“1番グリッド”という場所を示す言葉である。ただ、私見ではあるが、予選1位、予選の勝者、という意味合いも含まれている(いた)と思うのだ。
エンジン/パワーユニット(PU)交換等に伴うグリッドダウンというルールが悪影響をもたらしている。予選1位になった者が最初からポールポジション(1番グリッド)に就く権利を有していないことがあり、さらにはそういった場合に途中で意図的に予選をやめるケース等もあったりするから事態は深刻だ。
そして2021年に始まったスプリント予選(2022年からはスプリント)の存在も、この問題のややこしさに拍車をかけている(記録上のポールポジションの概念は2022年に変更され、原則的にノックアウト予選の1位、つまりスプリントのポールポジションが該当、ということになったが)。
そんな昨今ゆえ、誰もがシンプルに予選最速を目指していた時代のアイルトン・セナ65回、現在は歴代3位に過ぎない数字が光り輝き続けているのだろう。
少々記憶がアヤフヤだが、F1の予選がおかしくなり始めたのは21世紀初頭、シングルカークオリファイ採用期からであったと思う。決勝スタート燃料を積んで予選を走る、という状況が生まれ(ノックアウト予選移行後もレース中の給油が禁止されるまでしばらく残ったはず)、ポールポジションは単なる一里塚となり始めてしまった。そこにグリッドダウン規定やスプリントが続々と追い打ちをかけ……。
もちろん、最も価値ある勝利は決勝レースでのそれだ。でも、崇高にして気高い1ラップ最速の美学もF1には必要だった。でも、それはもはや崩壊したのである。
セナを超えたふたり、シューマッハーの時代のうちに予選が(上記したように)おかしくなり始め、ハミルトンの時代になると、もうセナの65回と純粋に何かを比較することは不可能になっていた。ハミルトンがセナの65回に並んだとき(2017年カナダGP)、セナのヘルメットを贈られた際の彼の喜びようが感動的だっただけに、現代の“ポール事情”がなおさら残念に思われてならない。
……と、しみじみしていても仕方ない。さあ、今季2023年は通算勝利数と通算ポール数、ともに『103』で止まっていた頂点の数字が再び動き出すのだろうか、大いに注目したい。“2冠王”ハミルトンとしては数字を大きく動かし、通算記録面のライジングスターであるフェルスタッペンとの差を(特に勝利数に関して)少しでも広げておきたいところだ(ハミルトン本人はあまり意識していないかもしれないけれど)。