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 2018年に運行が開始されたJR三江線の代替バス。島根県と広島県を結ぶ鉄道路線を継いだ……ということは県境を跨ぐ区間が存在する。この三江線代替バス、全国的にも珍しい鉄道の後任と県境越え両方の要素を持つ一般路線バスでもあるのだ。

文・写真:中山修一

バス停なのに「駅」だって?

備北交通 赤名線で使われている日野ブルーリボンシティハイブリッド
備北交通 赤名線で使われている日野ブルーリボンシティハイブリッド

 飯南町生活路線バスで山道を登り、島根県の内陸奥深くの「赤名駅」バス停まで到達した。駅が付くのだから、ここも鉄道廃線跡なのか? と想像したくなるものの、赤名に鉄道が通ったことは一度もない。

 この赤名駅は元々国鉄/JRの中・長距離バス路線の停留所で、国鉄では自社運行バスを自動車線と称し、切符類の販売窓口などの設備があるバスの発着ポイントを駅として扱っていた。「赤名駅」と呼ばれているのはその名残である。

 2000年代の初め頃にJRバスは廃止となっており、三次〜赤名駅までの区間が現在の備北交通に引き継がれ、赤名線の名称で運行している。

 備北交通赤名線=JRバスの代替バスであるのに加え、2018年以降は三江線代替バスの一部にも組み込まれている。肩書きを二つ持った路線というのもなかなか珍しい。

「赤名」トラップに気をつけろ!!

 元国鉄/JRの赤名駅、後を継いだ備北交通の停留所名としては駅を付けない「赤名」で、飯南町生活路線バスでは「赤名駅」と称する。同一の場所ながらバス事業者によって呼び方が異なるのだ。

 ちょっとややこしいのが、元国鉄/JR赤名駅から30mくらい離れた場所に「赤名」という、飯南町生活路線バスの停留所がある点だ。

「赤名」と名のつく停留所が2箇所!?
「赤名」と名のつく停留所が2箇所!?

 三次まで向かう備北交通のバスは「赤名」から出発するのだからと、文字情報だけを頼りに飯南町生活路線バスの「赤名」停留所で待ってしまうと…

 …乗るはずだったバスのテールランプを目の前で見送るハメになる。どこまでも仕掛けてくる強敵揃いだ。

JR三江線随一の珍駅・宇都井

 備北交通の赤名線から話は逸れるが、三江線を話題にする上で欠かせないのが、三江線を代表するランドマークだった宇都井(うづい)駅だ。

 背の高いコンクリ橋の上にプラットホームが置かれ、横付けされた116段を数える階段塔を上り下りして利用するスタイルから「天空の駅」とも呼ばれた。

現役当時の三江線宇都井駅
現役当時の三江線宇都井駅

 三江線跡をトレースするなら宇都井駅に立ち寄りたい!! そう考えるのはごく自然かもしれない。

 まことに残念ながら、2022年12月現在、宇都井駅を通る町営バスはあるにせよ、三江線代替路線の枠からは外されている。

 バスを乗り継いで宇都井駅跡へ行けるか確認してみると、平日の場合、現地着まではできても三次や石見川本に戻る(進む)ことができず、途中で100%詰んでしまう結果が出た。

 唯一、土曜日だけは三次駅前からバスでの往復が何とか可能で、9:09に出発して16:28に三次駅前まで戻ってくるコースが作れる。総所要時間7時間超・本題の宇都井駅跡付近に滞在できる限界時間は16分である。

代替路線群初の大型路線車

 話を備北交通赤名線に戻そう。元国鉄/JRの赤名駅・備北交通での「赤名」停留所には、自動車線時代に建てられた駅舎が待合室としてそのまま使われている。

 昔の鉄道駅でよく見かけた、カラフルなプラスチック製の丸っこいベンチや切符売り場窓口が今も残っており、トイレも利用可能であった。

 出発の2分ほど前、構内ロータリーを大きく旋回して、三次駅前経由であることを併せて表示した「三好中央病院」行きのバスが入線してきた。

赤名は赤名線の始発停留所になっている
赤名は赤名線の始発停留所になっている

 中型路線車→マイクロ→マイクロ→マイクロ→小型路線車と乗り継いできて、三江線代替バスでは初の大型路線車、しかもハイブリッドだ。

 ちなみに、前回紹介した三次方面へ向かうもう一方の備北交通 作木線には小型バス(ポンチョ)が頻繁に入るようだ。代替路線バス群の中で、大型路線車は赤名線が唯一かも知れない。

 赤名線では交通系ICカードが使える。運転手さんのトイレ休憩をはさみ、時刻通りの14:30に赤名停留所を発車、右へ曲がり国道54号線を南下し始める。赤名出発の時点で他の利用者はいなかった。

トンネルの中が県境!!

 緩やかな上り坂の国道を進むにつれて勾配がきつくなっていく。古くから交通の要であると同時に難所と謳われた「赤名峠」の区間に差し掛かるためだ。

 当日の赤名停留所周辺の気温は2度C。バスに乗車してすぐ雨がぱらつき出したが、勾配を上るにつれて綿花のような雪に変わった。

 赤名から4.5kmほど進んだ標高約550mの頂上付近には、全長およそ600mの赤名トンネルが通っている。

 島根県と広島県の県境はこのトンネルの中に位置している。バスがトンネルに入って少し進んだ先が県境越えの目安と思えば丁度良い。

 広島県に入りトンネルを抜けると下り坂へと転じ、三次の町近くまでずっと続く。途中で赤名行きの便とすれ違った。同じハイブリッド大型路線車が使われており、どうやら赤名線の定番車種らしい。

 ハイブリッド仕様の路線バスと言えば、漠然と街中の平坦な道を走る印象が深いせいか、峠道でも構わず淡々と進む姿に新鮮味を感じてしまった。

枝分かれして、また一つに

 赤名から14kmくらい進んだ先に、国道54号線と県道62号線が交わる丁字路「作木わかれ」がある。

 ここで備北交通赤名線と作木線が合流し、道の駅グリーンロード大和で枝分かれした代替バスの経路が再び一つに戻る。

 約25km地点に到達する頃には400m近い高低差を降り、ほぼ平坦な道へと変わる。国道54号線から国道375号線にバスが経路を移すと三次の町に入る。

 町の中心部を通るように進んでいき、進行方向右側に三江線のガーダー橋跡を臨みつつ、町中を貫く馬洗川に架かる巴橋を渡ると、15:18に代替バスとしての終点、三次駅前に到着する。

 バスの終点は三次中央病院なので、備北交通 赤名線としては通し乗車ではなく途中下車するかたちだ。所要時間約48分、後払い方式で運賃は1,040円だ。

三次駅では路線バスや高速バス、JR線への乗り換えができる
三次駅では路線バスや高速バス、JR線への乗り換えができる

 この日は天候が良くなかったせいか、赤名〜三次駅前間で他の利用者は結局ゼロのままだった。

【バス路線の基本データ】
備北交通 赤名線 赤名→三次駅前(三次中央病院行き)
・跨ぐ県:島根県→広島県
・移動距離:約30km
・所要時間:約46分
・運賃:1,040円
・停留所の数:48箇所
・島根県内の区間距離:約4.8km
・島根県内の停留所の数:8カ所

達成感は折り紙付き?

 島根県の江津からバスを乗り継ぐこと6回、2日かけて広島県の三次駅前まで向かう三江線代替バスの旅。

 今回は数ある行き方の中でも、どの路線でも最終バスを残せる比較的安全性の高いルート(それでも詰むリスクが残る)を選択したつもりだったが、天候不良も影響して、噛んでも噛みきれないほどの歯応えを痛感させられた。

 フラっと行って出たとこ勝負で乗り通すには、人並外れたカンと運の持ち主でない限り「どうなっても知らんぞ」としか言えそうにない。

 ただし、事前に入念な計画を立てれば、観光や廃線跡巡りを楽しみながら、ちゃんと行けることが確認できた。激しく難しい分、無事ゴールできたときの達成感は絶大だ。

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