ニコラ・コーポレーションは間もなく量産を開始する燃料電池大型トラック「トレFCEV」を、カリフォルニア州の助成金を受けるのに必要なHVIPプログラムに申請した。連邦政府の税控除と合わせると、トラック一台あたり最大で32万8000ドル(4300万円)という巨額のインセンティブを受けられるとしている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Nikola Corporation
今年前半にもFCEVトラックを量産へ
アメリカ・アリゾナ州フェニックスに本社を置くニコラ・コーポレーションは、2015年の創業以来、「テスラのライバル」とされてきたゼロ・エミッション商用車のメーカーだ。ただ、テスラ・セミの相次ぐ遅れもあって、大型トラックの変革を常にリードしてきたのはニコラだった。
イタリアの大手トラックメーカー・イヴェコと提携し、同社の大型トラック「Sウェイ」プラットフォームをベースとする「ニコラ・トレ」シリーズは、バッテリー電気式(BEV)トラックを2022年3月から量産開始しており、燃料電池(FCEV)トラックも2023年の後半に量産化と納車を開始する。
また、その後は長距離輸送用のスリーパーキャブを採用し、900マイル(約1450km)の航続距離を誇るFCEV「ニコラ・ツー」の発売も予定している。
2022年12月22日にはカリフォルニア州の大気資源局(CARB)から、ゼロ・エミッション・パワートレーンに関する行政命令(ZEP-EO)を受けた。これは「トレFCEV」がCARBの「ハイブリッド&ゼロ・エミッション商用車の購入事業者に対する助成金プロジェクト」(HVIP)プログラムを受けるために必要なプロセスとなる。
ニコラはトレFCEVをHVIPプログラムの認定車両に申請している。同プログラムによるインセンティブ(助成金)は、基本額だけでトラック一台あたり24万ドル(約3170万円)に上る。
長距離を走る大型商用車ではBEVよりFCEVのほうが優れた点が多いとされるが、インフラ整備や車両価格の高さが普及に向けた障害となっており、行政当局が巨額の助成金により脱炭素に踏み出す事業者を後押ししている。
ゼロエミッション輸送の商用化に向けて巨額の補助
CARBのZEP-EOはカリフォルニア州の排出ガス基準に適合したゼロエミッションパワートレーンであることを証明するもの。これはHVIPへの申請の要件でもあり、HVIPプログラムは同州における先進的な商用車の総保有コスト低減を補助し、その商用化を進めることを目的としている。
ゼロエミッション商用車の普及に関する同様のインセンティブの中でもHVIPはユニークかつ強力なもので、先着順(早い者勝ち)の補助金だ。保有しているディーゼル車の廃車等も求められない。
州内の事業者は2023年にトレFCEVを購入しHVIPを適用すると、基本額でトラック一台当たり24万ドル、ドレージ用だと27万ドルが助成される。もしカリフォルニア州の恵まれない地域に指定されている、保有台数が10台未満の事業者のドレージ用トラックの場合、最大で28万8000ドルとなる。
ちなみにアメリカのドレージ輸送は港湾をベースに大型トラクタでコンテナを輸送する仕事で、走行距離は地場と長距離輸送の中間となる。
世界有数のハブ港であるロサンゼルス港を有するカリフォルニア州ではドレージ輸送によるCO2排出量が多く、その脱炭素化が課題となっているため、助成額でも優遇されているようだ。
HVIPに加えて連邦政府のインフレ軽減法により2023年にはニコラ・トレBEVとトレFCEVの購入者は4万ドルのクリーン商用車税控除を受けることができるので、FCEVトラック一台あたり最大で32万8000ドルを行政が負担するという計算だ。
日本円に換算すると約4300万円という金額で、公費による負担分だけで同クラスのディーゼル車が複数台買えてしまうという、巨額の助成金である。なお、HVIPはドレージ用に50台分、ノンドレージ用に30台分が確保されているとのこと。
助成金込みで競争力を確保
ニコラの社長兼CEOのマイケル・ローシェラー氏は、プレスリリースの中で次のようにコメントしている。
「ニコラはカリフォルニア州でのトレFCEVの発売に向けて、大切な一歩を踏み出しました。私たちのゼロエミッション・パワートレーンのもう一つのオプションである燃料電池にとって、同州は最重要市場になります。受注はすでに開始しており、お客様へのデリバリーは、量産開始後の2023年後半を予定しています。
HVIPの基金と合わせることで、トレFCEVが総保有コストにおいて競争力を持つことを期待しています。また、私たちはこのトラックのための水素燃料とインフラも開発しており、ディーラーネットワークを通じてサービスを提供します。
多くの期待を集めたこの車両のロールアウトを通じて、カリフォルニアのトラックユーザーが『トレ』プラットフォームに慣れると共に、全米のディーラーで販売するトレBEVに親しむことにも期待しています。トレBEVはFCEVと同様、ドライバー中心の設計と先進技術を採用しています」。
最大航続距離が500マイル(約805km)のトレFCEVは、市販のゼロエミッション大型トラック(トラクタ)としては最も長い航続距離を持つトラックの一つとなる。同じ航続距離をBEVで実現したとしても、バッテリー重量がかさむため積載重量ではFCEVが有利だ。
ニコラの充填ステーションを使うと充填時間は20分未満となり、運行上はディーゼルから水素へのシームレスな移行が期待でき、この点も充電時間の確保のために運行計画を見直す必要があるBEVに対する利点となっている。
もちろんFCEVの普及にはインフラの整備が不可欠で、ニコラは公共の水素充填インフラネットワークの整備も進めていく。
なお、1年前にHVIP認定を受けたニコラ・トレBEVは最大航続距離が330マイル(約530km)で、カリフォルニア州での助成金は一台あたり12万ドル(ドレージは15万ドル)だったので、FCEVでその額はほぼ2倍になった。
高額の助成金込みでコスト競争力を持つということは、逆に言えば公費負担がなければ競争力を持たないということでもある。大型商用車ではメリットの多いFCEVだが、車両価格の高さは普及に向けた壁になりそうだ。
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