全日本ロードレース選手権で、毎戦のように激しい展開が繰り広げられた2022年のST1000クラス。タイトル争いは、前年度王者の渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)と國峰啄磨(TOHO Racing)が同ポイントで、最終戦鈴鹿までもつれ込んだ。惜しくもランキング2位となったが、ST1000ルーキーながらも躍進を見せた國峰の強さに迫った。
國峰は2012年から全日本ロードに参戦しており、2017年から2021年まではST600クラスに参戦していた。ST600初参戦はコースレコードを叩き出し、表彰台を獲得するなどの活躍を見せ、いきなりタイトル争いを繰り広げた。しかし、その年は惜しくもランキング2位で終えており、以降もタイトル争いに加わるなど強さを見せた。
「なぜかわからないですが、気付くと移籍した1年目が一番いいというのがあります。意識は特にしていないですが、対応能力は他と比べたら高いのかなと思いますね」と國峰。自信があまり持てないタイプだというが、國峰は2022年から1000ccマシンへとスイッチした際にもバイクへの適応能力を発揮する。
ST600で5年間戦ってきた國峰は、これまでにも何度か1000ccに乗る機会があったが、今までの常識が「通用しないイメージ」があり、しっかり切り替えることが必要だった。
「(ST1000は)すごくレベルが高くて難しいクラスだなという印象がすごくあるので、今一番レベルの高いクラスだと思います。やっぱり(渡辺)一馬さんや高橋裕紀さんがいるので、そこがキーだなとは思います」とふたりのST1000チャンピオンも意識していた。
「マシンとダンロップタイヤのマッチはすごく良いと思いますが、(市販車に近いST1000は)JSB1000よりかは弱いタイヤや車体で、どう速く走るかというのを極めていくこととすごく繊細な動作が必要です。参戦1年目の僕はまだまだ足りていないところが多く、苦戦しています」とこのクラスの特徴や対応力を語った。
そんななか、同チームからJSB1000クラスに参戦している清成龍一が怪我で欠場したことで、國峰は第2戦鈴鹿2&4、第3戦オートポリス2&4でJSB1000に代役参戦することに。1000ccのバイクを操るにあたり、腕上がりの症状に悩まされていたが、リッターバイクに慣れたことでその症状はなくなった。
さらに、タイヤはダンロップからブリヂストンを使用することになり、タイヤの剛性感が全く違うため、「メリハリが大事で苦戦していた」とも語っていた。それでも、代役の4レース全て完走を果たして、ポイントも獲得しマシンやタイヤにも慣れていった。
「全日本ロードのレギュレーション上でゼッケン3番に乗り、ましてや清成さんというビッグネームの代役で注目されると思うので、その名に恥じない走りをしないといけないためプレッシャーは正直感じていました」
いざレースが始まると楽しみを感じながら走れていたようだが、「チームの中にはアドバイザーで来てもらってる玉田誠さんや、清成さんも一緒にいて、どっちもやっぱりライダーとしてのレベルや内容もしっかり求められてはいました」と続ける。
「タイヤも清成さんが使ってるもの(グレード)と違いましたが、そのなかでも玉田さんと清成さんの要求するパフォーマンスをクリアしないと結構厳しく言われていて、楽しい反面、怖いというか頑張らないといけないなというのは少しありました」
ベテランライダーふたりに見守られつつも鍛えあげられ、培った実力はその後のST1000クラスで大きく活きることになる。JSB1000クラスでの代役は今年一番の成長だったと語る國峰は、第4戦SUGOの予選ではフロントロウのスタートから、決勝ではスポット参戦の埜口遥希(SDG Motor Sports RT HARC-PRO.)との激しい一騎打ちに競り勝ち、クラス初優勝を成し遂げる。その時のことを次のように語った。
「JSB1000に乗ることによって自分のレベルが上げられました。いろんなクラスを経験した人がいるクラスなので、一緒に走ることによって、自分の中でいろいろ引き出しができたことがSUGO戦に繋がったのかなと思います」と國峰。
その強さの背景には、ST1000、JSB1000、鈴鹿8耐とほぼ毎月のように1000ccバイクでレース経験を積んだことも影響しているようだ。
第8戦鈴鹿の最終戦では渡辺一馬と同ポイントでチャンピオンを争い、決勝では一時トップに立つ場面も。高橋裕紀が加わり、激闘が繰り広げられた三つ巴の優勝争いではあと一歩及ばず、2位表彰台を獲得してランキング2位で終えた。悔しさが残るシーズンとなったが、「長く応援してくれている家族やファンの人たちもたくさんいるので、恩返しにはやっぱりチャンピオン獲得だと思うので、その結果をしっかり獲ることが一番の目標です」と語っていた。
しかし、「一度海外の経験がありますが、結果を残せずに出戻りになってしまいました。今MotoGPに行ってる選手と一緒に走った時代もあり、それを見ると悔しさもあるので、しっかり結果を出して世界に行けるような強いライダーになりたいというのが一番です」と将来を見据えた目標も持っている。
國峰は2014年にはスペイン選手権のMoto3クラスへの参戦経験も持っている。ここ数年は全日本ロードで強さを見せている國峰だが、海外でのレース経験を持っているからこそ、再び海外で戦いたいという強い意志がある。その強い思いを胸に、そして2022年シーズンの悔しさをバネに國峰はこれからもさらなる活躍を見せてくれるだろう。