2017年に発表され、2019年から納車を開始する予定だったテスラのバッテリー電気式(BEV)大型トラック「セミ」が、発表から5年以上、予定より3年遅れでようやく納車された。
第1号車はアメリカの飲料・食品会社、ペプシコに引き渡され、2022年12月1日にはこれを記念するデリバリーイベントがネバダ州のギガファクトリー(ギガ・ネバダ)で開催され、その様子はユーチューブでも公開されている。
セミ発表からの5年間は、技術の進歩だけでなく、コロナ禍や半導体不足、ウクライナでの戦争によるエネルギー価格の高騰と急激なインフレなど、社会・経済が大きく変わった5年間だ。
テスラ・セミのデリバリーイベントから、注目のBEV大型トラックがこの5年間で変わった事・変わらなかった事をお伝えする。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Tesla, Inc.
発表は5年前
アメリカの電気自動車メーカー・テスラは2022年12月1日、バッテリー電気式(BEV)大型セミトラクタ「セミ」の納車を記念するイベントを開催し、その様子をユーチューブで公開した。
ずいぶん前のことなので少しだけおさらいしておくと、テスラ・セミは5年以上前の2017年11月16日に発表されたBEVトラックだ。なお「セミ」はセミ・トラック(=セミトレーラ連結車)に由来し、英語では「セーマイ」のように発音される。
当時、電気自動車のパイオニアであるテスラが大型トラック(アメリカの重量車区分で最も重い「クラス8」に相当するトラック及びトラクタ)を開発していることは、スパイショットなどから公然の秘密であった。
また、その前年にはテスラのライバルとされるニコラが燃料電池大型トラックとされるコンセプトトラックを発表しており(結果的にこれは詐欺だったのだが……)、大型トラックの代替ドライブトレーンがにわかに注目を集め始めていた。
ただ、フル積載で500kmというセミの航続距離は大方の予想を上回るもので、専門家などからは実現可能性について懐疑的な見方も出た。いっぽう、テスラのイーロン・マスクCEOは当時から、セミはその性能と経済性においてディーゼルエンジンに対抗できる実践的かつ商業的なトラックを目指すとしていた。
3年遅れでようやく納車
発表当初、セミの顧客へのデリバリーは2019年とされていた。しかし、コロナ禍や半導体不足、バッテリー供給の遅れなどを理由に何度も延期され、途中「プロトタイプ」が部分的に公開されたりしながら、予定より実に3年遅れの2022年末になってようやく第1号車がペプシコに納車されたという次第だ。
ペプシコはスナック菓子のフリトレーやソフトドリンクのペプシなどのブランドを持つアメリカの食品会社で、最初の発表時からセミを予約していた企業でもある。12月1日に同社へのデリバリーイベントを行なうことは、ツイッターを買収したマスク氏がツイッター上で明らかにしていた。
そのセミのデリバリーイベントが、ネバダ州にあるテスラのギガファクトリー(ギガ・ネバダ)で開催され、マスク氏いわく「道路上で一番すごいクルマ」(the most badass rig on the road)であるセミが紹介された。
なおギガ・ネバダはもともとテスラとパナソニックが合弁で設立したリチウムイオン電池の製造工場だ。
イベントでマスク氏は大型トラクタを電動化する意義や、セミの効率性や安全性などを語った。
5年前は大型車の電動化で最先端にいたテスラだが、相次ぐ延期でライバル社のBEVトラックが既に道路上で動き始めている。後を追う立場となったテスラが追及するのは大型BEVトラックの経済性だ。もちろんそれは商用車において最も重要な要素でもある。
変わったこと、変わらないこと
相次ぐ延期の間、テスラはセミの問題を見つけるために、自社輸送でセミを使ってきたという。公式サイトによると、航続距離は300~500マイル(483~805km)で、航続距離の違いは搭載するバッテリーによるものだ。
セミの細かいスペックなどはイベントでも語られなかったので、詳細は不明だ(ペプシコなどでの実運用を通じて量産化に向けたさらなる改善を行なうのだろう)。とはいえ、5年前の発表時と比較すると、変わった部分も変わらない部分もある。
変わらない部分で言うと、まずは500マイル(805km)という航続距離だ。5年前は最も現実的ではない部分でもあったが、納車を済ませた実車でもこの航続距離を確保した。テスラは実際に500マイルをフル積載で走行する動画も併せて公開している。
そのためにはバッテリーの性能向上が不可欠で、新型のバッテリーセルによるところも大きいだろう。
自動運転・オートパイロットについてはイベントでは一切言及がなかったが、次世代の乗用車用と同じハードウェアが搭載されるとみられる。
発表時は2台の内1台が小型のデジタルミラー(カメラ)を装備していが、デジタルではない通常のミラーに変わっている。これは新車販売時のアメリカの法規対応のためと思われる。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)のいまの保安基準ではデジタルミラーは使用禁止(装着不可)となっているからだ。
ただし500マイルを走ったテストランの車内映像では、デジタルミラーの映像が左右のLCDに表示されているので、試験は実施している模様で、法規が許せばいつでもデジタル化が可能のようだ。
キャブと総重量、そしてコスト
そのほか、空気抵抗係数(Cd値)の低減を図ったというキャブデザインに大きな変更は見られない。大きく曲がったウィンドシールドから、細いAピラー、サイドガラスへと流れて行くデザインも同じで、運転席はキャブの中央に配置する。
ワイパーは1本のパンタグラフ・アーム式、キャブへ乗り降りするためのドアは運転席より後方にある。
電動モーターは大型車のディーゼルエンジンよりはるかに小さいため、キャブの低床化など車両レイアウトの自由度が高いとされる(逆にバッテリーの分、重量は増える)。セミのモーターは1基当たりサッカーボール大の大きさだという。
とはいえ、大型トラックにボンネットキャブを採用するアメリカでは、キャブオーバー式の日本や欧州とは異なり、キャブ下にエンジンがないため床面はもともと低い。キャブ内を立って歩けるのはBEVの恩恵ではなく、アメリカントラックでは割と普通のことだ。
連結総重量(GCW)は82000ポンド(37.2トン)で、2000ポンド増えている。アメリカではセミトレーラのGCWは80000ポンド(36.3トン)が制限値だが、ゼロ・エミッショントラックに2000ポンド(約900kg)の重量の緩和が認められたためだ。
ちなみに欧州は最大2トンの緩和を認めており、バッテリー重量による積載量の減少を相殺している。
なお、予約は既に終了しているが、発表時の価格は18万ドルとされていた(航続距離500マイルバージョン)。当時の為替レートで約2000万円(円安が進んだ今のレートだと2500万円ほど)で、アメリカントラックとしては高額だった。
ただ最近の急激なインフレを考えると、次の予約からは相応の値上げが必要になるだろう。テスラはセミの車両寿命を通じて、燃料代やメンテナンスコストなどを合計して約20万ドルのコスト節減効果があるとする。商用車は生産財であり、ユーザーのコスト意識は乗用車よりはるかに厳しい。
テスラ・セミのデリバリーイベントより【後編】では、発表時とは大きく変わった駆動方式や、他社との競争を展望する。
投稿 センセーションを巻き起こしたテスラの大型電気トラックはこの5年で何が変わったのか!? テスラ・セミのデリバリーイベントより【前編】 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。