国鉄・JRの鉄道線から転換されたバス路線「代替バス」72路線のうち、全国で54路線が現在も活躍中だ。鉄道時代からどう変わり、最近はどうなっているのか……実際に利用した上で、現役代替バスの実像に迫ってみた!!
文・写真:中山修一
平野部から山を目指した国鉄士幌線
今回は北海道の十勝地方にあった国鉄士幌線の代替バスに注目してみよう。国鉄士幌線は、帯広から糠平(ぬかびら)〜十勝三股間約78kmを結ぶ、全区間蒸気機関車のちにディーゼルの鉄道線だった。
終点の十勝三股は林業で栄えた町で、最大1,500人以上の人口があった。しかしその後の都市部への人口移動と共に鉄道利用者が減り、100円の利益を上げるために22,500円かかる区間を抱える赤字路線へと変わって行った。
1978年に糠平〜十勝三股間が休止の形でバス代行に変わったが、赤字から抜け出すことはできず1987年3月に全区間が廃止された。
廃止後には代替バスが設定され、当初は十勝バス・北海道拓殖バス・上士幌タクシーが次世代の運行を担った。
糠平〜十勝三股間の代替バスは、もともと沿線人口が非常に少なかったのもあり、2003年9月に廃止されている。
現在の十勝三股には、帯広〜旭川を結ぶ都市間バスが1日上下各1本が通り、専用のバス停と待合所が置かれている。
2つの事業者による士幌線代替バス
士幌線の実質的な代替バスとして現在も運行されているのは、十勝バスの上士幌線・ぬかびら線と、北海道拓殖バスの上士幌線・音上線である。
国鉄線時代の帯広〜糠平に相当する、帯広駅バスターミナル〜十勝バスぬかびら営業所を結ぶのは十勝バスのみで、北海道拓殖バスの便は帯広〜上士幌間で運転されている。
十勝バスぬかびら線としては、十勝バス本社〜帯広駅BT〜ぬかびらスキー場前が全区間で、鉄道時代よりも運行距離が少し長い。
ダイヤを比べてみると?
国鉄士幌線の上士幌・糠平・十勝三股方面の列車が1日6本、帯広方面が5本だったのに対して、十勝バスが上下平日8本ずつで、北海道拓殖バスが上下平日9本ずつ。上士幌より先の糠平を発着する便は上下ともに4本である。
糠平発着の鉄道は5本あったので、バスのほうが便数減だ。ただし上士幌発着は両事業者合わせて17本と、鉄道よりも利便性が格段に上がっている。
時代によって貨幣価値や物価が異なるので比較対照にはならないが、1981年当時の帯広〜糠平間の運賃は860円。十勝バスぬかびら線の帯広駅BT〜ぬかびら営業所間を通しで乗ると1,330円だ。
所要時間では鉄道1時間48分/バス1時間46分とほぼ同じである。末端が勾配区間であるため、鉄道の場合は下り坂となる帯広方面へ向かう列車のほうが少し足が速い。
ちゃんと行けるのか?
鉄道の跡を辿るような形でバスを利用するにあたって、ぬかびらスキー場前行きの本数が少ない関係で、ちょっと事前に時刻表を開いて案を練っておくと安心だ。
約65kmある経路のうち、帯広駅から約10km地点の音更(おとふけ)までは他系統合わせてバスの本数が結構多く、そこから先は便数が減るものの、約40km地点の上士幌までは何回か途中下車が可能だ。
終点の糠平は温泉地でもあり、宿泊施設を中心にした静かな温泉街が広がっている。現地に1泊するなら、帯広駅BT13:45発・十勝バスぬかびら営業所15:31着の便を、どこかでつかまえるのが丁度良いだろう。
国鉄士幌線の元沿線には、鉄道時代を偲ばせる施設や公園・モニュメントなどが多数置かれている。代替バスは概ね線路の近くをトレースする形で走行するので、一度に全部は無理だが途中下車してそういった場所へ立ち寄るのもそこまで難しくはない。
バスの経路上に道の駅が2箇所あるのも魅力的である。一つ目は士幌町にあるピア21しほろ、二つ目は上士幌町の道の駅かみしほろだ。
音更町にも道の駅があるのだが、近年移転した関係で今回のルートに組み込むのはちょっと難しい。
代替バスを利用してみた際に選んだ便は、まず帯広駅BTを12:00に出発する拓殖バス上士幌線だ。これでまず道の駅ピア21しほろへ行くことにした。
平日昼間の便なのもあって帯広駅バスターミナルを出る段階で乗客は10名ほど。ここから北へ向けてバスは走りだす。
帯広市街地をしばらく進み、十勝川にかかる十勝大橋を渡ると、拓殖バス/十勝バス上士幌線のメインルートである国道241号線を通りながら音更町に入る。このエリアは人口が多く、道路沿いには数多くの飲食店や商店が並ぶ。
音更を過ぎたあたりから建物の密集度がだんだん緩くなり、次第に十勝地方らしい広大な農地と牧草地が車窓に広がりはじめる。
ちょうど国鉄士幌線の線路跡と並行する形でバスは淡々と、まっすぐな国道241号線を走る。帯広から45分ほど経ったのち、進行方向左側にマンサード風の屋根が乗る大きな建物が見えてくる。そこが道の駅ピア21しほろだ。
最寄りのバス停には「士幌22号」という道の駅とは関連のない名称が付けられているので、最初ちょっと戸惑うかも。
次のバスは13:46発で1時間ほどの滞在。色とりどりな地元の特産品が所狭しと並ぶ道の駅は訪問するだけでワクワクしてくる場所だ。
ここから約2.5km先に、国鉄士幌線の士幌駅駅舎と貨車等が展示物として整備されている。「士幌」バス停留所が最寄りだ。
1時間後にやって来るのは十勝バスの上士幌交通ターミナル行き。25分程度で上士幌交通ターミナルに到着する。
上士幌交通ターミナルから900mほど離れた場所に、2020年にオープンした道の駅かみしほろが営業している。上士幌には交通公園や日帰り入浴施設などもあり、そちらに立ち寄るのも楽しい。
上士幌滞在は50分少々。次に乗る交通ターミナル15:06発が糠平まで行く便となっていて、こればかりは逃せない。
ぬかびらスキー場前行きバスをつかまえ、上士幌の町を抜けると国道273号線に入り、景色がだんだん山深くなってくる。ちなみに途中の長〜い直線にオービスが1箇所ある。
民家が完全になくなった無人地帯を進んでいくうちに、進行方向左側に士幌線で使われていたコンクリアーチ橋や、1955年に竣工した人造湖・糠平湖の糠平ダムがチラリと見える。
上士幌から約25分ほど経つとバスは再び町に入る。ここがぬかびらの温泉街だ。15:31、十勝バスぬかびら営業所に無事到着した。この日に乗車していたのは3名であった。
終点のぬかびらスキー場前から営業所まで600mくらい、温泉街中ほどの「ぬかびら温泉公園前」バス停までなら約300mなので、もし乗り過ごしても歩いて戻れる。
行くのにバスが要る温泉街
現在の糠平は、公共交通機関を使うならバスかタクシーでないと来られない温泉街の一つになっている。泉質は無色透明で柔らかく大変入りやすい。
糠平には温泉宿を筆頭に、鉄道系/自然系の資料館といった見学スポットが設けられているほか、アーチ橋やトンネルなど鉄道の遺構も点在している。冬場になると隣接するスキー場もオープンする。
1年のうち湖に沈んで見えなくなる期間が長いことから、「幻の橋」と呼ばれる有名なタウシュベツ川橋梁への拠点でもある。橋が顔を出している時に近くまで行くなら、現地のガイドツアーを申し込むのが確実な方法だ。
15:31営業所着のバスで来て、すぐ折り返して帰る場合の便は営業所16:42発だ。1泊して翌朝バスが早朝と夕方しかない!!なんてことはなく、営業所10:13発と、宿のチェックアウト時間に合わせたような丁度良い便が設定されている。
ちなみに、国鉄士幌線の糠平駅は温泉街の端から500mほど離れた場所(今は鉄道資料館になっている)にあり、温泉街の中に営業所と停留所が一つ設けられている現在のほうが利便性は高くなっている。
十勝バスと北海道拓殖バスが運行する国鉄士幌線の代替バスは、途中下車ができる余裕や便の時間設定を加味すると、廃線探訪や観光目的にもなかなか使いやすい好路線と言える。
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