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 クラウンがクロスオーバーを含めてサルーンから移行し、レクサスISは次期型がない可能性を含め、セダンモデルが続々と消えていく。インプレッサG4も次期型からなくなり、ますます国産車でのラインナップは縮小していく傾向が顕著に。そこで、今後のセダンの役割を含め、セダンならではの存在意義について深堀りしてみた。

本文/渡辺陽一郎、写真/ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部、トヨタ、日産、ホンダ

■新型クラウンに見る国産セダンの今後

新型クラウンクロスオーバー。今後、エステートにスポーツ、セダンの3モデルが続々登場する

 新型クラウンのボディ形状は、独立したトランクスペースを備えるセダンだが、大径タイヤの装着など外観はSUV風だ。

 この背景には、セダンを基本に進化してきたクラウンの販売不振がある。1990年に当時のクラウンは日本国内だけで1カ月平均1万7300台を登録していた。それが2021年の1カ月平均は1800台だ。先代型クラウンの売れゆきは、1990年の約10%にまで落ち込んでいた。2021年には国内全体の販売台数も、近年の販売不振とコロナ禍の影響で1990年の59%まで縮小している。それでもクラウンの10%という減少ぶりは激しかった。

2018年に登場した先代15代目クラウン。FRサルーンモデルとしては最後のクラウンとなった

 先代クラウンは海外でも売られたが、生産総数の73%は国内で販売していた。その登録台数が1990年の10%では、もはや商品として成り立たない。そこで新型クラウンは、SUVのクラウンクロスオーバーに発展した。SUVであれば、人気のカテゴリーで、海外市場にも積極的に投入できる。売れゆきを伸ばしやすいからだ。

 それでもクラウンクロスオーバーだけでは心配だから、クラウンをシリーズ化することに。今後はクロスオーバーと同じ前輪駆動のプラットフォームを使うクラウンスポーツとエステート、後輪駆動ベースのクラウンセダンも加える。4種類のボディを用意して、海外でも販売すれば、車名を残せるだろう

 ただし、このクラウンのフルモデルチェンジは、ほかのセダンとは違う特別扱いだ。クラウンは初代モデルを1955年に発売した基幹車種だから、トヨタとして廃止は避けたい。そこで「クラウンの車名を残すこと」を最優先させて、売れ筋カテゴリーのSUVに進化させ、合計4種類のボディまで用意して海外でも売る。

■トヨタ以外もセダンは続々廃止に

マークIIの後継車として登場したマークXだったが、2代目モデルが2019年12月に生産終了し、その生涯に幕を閉じた

 それならほかのトヨタのセダンはどうなったのか。クラウンのように売れゆきを下げて廃止されている。コロナ(廃止時はプレミオ)、カリーナ(アリオン)、マークII(マークX)、カローラよりも小さなプラッツ(ベルタ)、ミドルサイズで高級感のあったプログレやブレビスなど、過去にはトヨタのセダンが数多く廃止されている。

 その結果、現時点で選べるトヨタのセダンは、クラウンクロスオーバーをSUVに分類すると、カムリ、カローラのセダンと継続生産型のカローラアクシオ、VIPモデルのセンチュリー、燃料電池車のMIRAIしかない。

2代目フーガ。セドリック/グロリアの系統を受け継いだFRサルーンだったが、すでに生産を終了している

 ほかのメーカーも同様だ。日産はシーマ、フーガ、ティアナ、シルフィ、ラティオなどを廃止して、セダンはスカイラインのみになっている。ホンダもレジェンド、インサイト、シビックセダン、グレイスなどを廃止して、セダンはアコードにかぎられる。三菱は今ではセダンモデルを扱っていない。

 セダンの場合、今後の商品開発についてもいろいろな予想が飛び交う。現行型レクサスISは発売から9年以上を経過して、現行型で最後になるという見方がある。新型インプレッサにはセダンのG4が設定されず、カムリはクラウンに続いてクロスオーバー風になる、という予想だ。

 このような状況だから、新車として売られる小型/普通乗用車に占めるセダンの比率も急減している。小型/普通乗用車で最も多く売られているカテゴリーは、今は約35%を占めるコンパクトカーだ。次は30%近くまで増えたSUV、25%少々のミニバンになる。

 この3つの売れ筋カテゴリーだけで、小型/普通乗用車の約90%を占めるから、セダン/ステーションワゴン/クーペは、すべてを合計しても残りの10%に片付けられてしまう。

■海外でのセダン衰退がSUV偏重の流れに

8代目クラウン。初代セルシオと同じ4LのV8エンジンも搭載していたモデルで、1990年当時は平均で月間1万台以上を売り上げていた

 つまり、クラウンの登録台数が1990年の10%まで下がった衰退ぶりは、日本のセダン市場全体の縮小とも一致する。そしてセダンの売れゆきが下がり、それによって車種が廃止され、ますます販売が低迷する悪循環に陥った。

 この背景には、海外市場におけるセダンの衰退もある。北米でもSUVの人気が高まり、フォードは2018年に、北米市場でセダンの販売から撤退する方針を打ち出した。日本車にとって北米は重要な市場だから、そこでセダンの需要が冷え込むと、商品開発も消極的になってしまう。

 逆にSUVは将来の見通しが明るい。外観のカッコよさと、広い居住空間や荷室を両立させ、しかも電気自動車への対応も容易になるからだ。SUVでは大半の車種の全高が1600mmを上回り、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)にも余裕があるから床下に駆動用の電池を搭載しやすい。アリアやbZ4Xなど、電気自動車にSUVが多いのもそのためだ。

■市場が厳しくてもセダンの魅力自体は健在!

現行型アコード。セダンは低重心、高剛性という特徴を併せ持ち、走行安定性と乗り心地の面で優れた性能をもたらしているのがメリットだ

 ただし、セダンを取り巻く市場環境が厳しくても、その魅力まで薄れたわけではない。セダンはSUVやミニバンに比べて全高が低く、大半の車種は1500mm以下だ。天井が低いから立体駐車場を利用しやすく、走行中の空気抵抗も少なく抑えられ、ボディの後方が長いために空気の流れを整えやすい。天井が低いから重心も下がる。

 また、セダンではボディの後部に居住空間から分離されたトランクスペースが備わるから、後輪が路上を転がる時に発生するノイズが乗員に伝わりにくい。走行音も小さく抑えられる。後席とトランクスペースの間には、SUVやミニバンと違って骨格が配置されているから、セダンはボディ剛性も高めやすい。

 以上のようにセダンの特徴は、低重心、高剛性、低騒音にある。特に低重心と高剛性は、走行安定性と乗り心地に優れたメリットをもたらす。

 このふたつの要素を「走りの高性能」「運転の楽しさ」などに結びつけると、今は共感を得にくいが、「安心と快適」に置き換えるとユーザーニーズも高まる。特に最近関心を集めている衝突被害軽減ブレーキは安心感を向上させ、運転支援機能は快適性を高めるメカニズムでもあるからだ。

 そして欧州では、日本に比べて高速走行の機会が圧倒的に多い。安心感を高める走行安定性は、最も重要な性能に位置づけられる。快適性もドライバーの疲労を抑えることで、事故を防ぐ安心感に結びつく。

 そのために2000年頃までの欧州車は、重心の高いSUVには消極的だった。今は北米市場でクルマを売るうえでSUVが不可欠のカテゴリーになり、走りの技術も進化したから欧州メーカーも手がけるが、今でもセダンのラインナップを充実させている。特にメルセデスベンツ、BMW、アウディといった欧州のプレミアムブランドではセダンの品ぞろえが豊富だ。

輸入車のDセグサルーンカテゴリーで堅調な販売を続けるメルセデスベンツCクラスセダン。BMW3シリーズとともに同カテゴリーでのベンチマークとなっている

 そして日本車のセダンが次々と廃止されるなかで、メルセデスベンツCクラスやEクラス、BMW3シリーズなどは安定的に販売されている。これはSUVが増えた今でも、セダンというカテゴリーが魅力を失わず、「安心と快適」を重視するユーザーから支持されていることを示している。

ベストカー編集部製作の次期型マツダ6セダンの予想CG。現行のFFサルーンから後輪駆動となる上級FRサルーンとして生まれ変わる

 以上の経緯を考えると、セダンを諦めるのはまだ早い。これから発売されるクラウンセダン、CX-60と共通のプラットフォームを使った後輪駆動ベースのマツダ6セダンなど、入念に作り込んでセダンならではの「安心と快適」を改めてアピールすべきだ。

【画像ギャラリー】国産セダンは地盤沈下しているジャンルだが、存在意義はあり!(17枚)画像ギャラリー

投稿 続々消失……伝統カテゴリー国産セダンの今後はどうなる!? 唯一生き残りそうなのはクラウンセダンのみか?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。