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 世界最大の大型商用車メーカー・ダイムラートラックは、インドで大型・中型トラック「バーラトベンツ」を展開しています。その生産拠点であるオラガダム工場の取材レポート中編では、先進国と同等の品質を実現させた秘訣と、その立地ならではの環境対策を紹介します。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ダイムラー・トラック・アジア、「フルロード」編集部

前編のおさらい

DICV・オラガダム工場(写真:DTA)
DICV・オラガダム工場(写真:DTA)

 バーラトベンツ車を生産しているのは「ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズ(DICV)」という会社です。ダイムラートラックのグループ組織では、我が国の三菱ふそうトラック・バスと同じく、アジア・太平洋事業統括会社ダイムラートラック・アジア(DTA)の子会社になります。

 生産拠点のオラガダム工場は、南インド・チェンナイ郊外の工業団地にあって、4000人以上の従業員が勤務し、操業開始から10年で累計19万台以上のトラック・バスを生産しました。工場は、ドイツや日本と同等の最新設備を整えるだけではなく、高い生産品質を実現していることも特徴です。

高品質の秘訣とは?

鉱山で2万時間運用された「バーラトベンツ2523C」のダンプ。「2万時間」とは、週6日・7時間稼働(インドは一般的に週休1日・労働9時間/日・ほか公休日あり)で換算すると、約9年に及ぶもので、優れた耐久信頼性と品質がうかがえる。シャシーとダンプボディは相当に使いこまれた形跡があり、徹底的に洗車されたキャブも、接触痕や交換による色味差があった
鉱山で2万時間運用された「バーラトベンツ2523C」のダンプ。「2万時間」とは、週6日・7時間稼働(インドは一般的に週休1日・労働9時間/日・ほか公休日あり)で換算すると、約9年に及ぶもので、優れた耐久信頼性と品質がうかがえる。シャシーとダンプボディは相当に使いこまれた形跡があり、徹底的に洗車されたキャブも、接触痕や交換による色味差があった

 バーラトベンツ車は、メルセデス・ベンツや三菱ふそうが開発したキャブ、シャシー、ディーゼルエンジンの技術を基盤としながら、インドなど新興国向け専用モデルとして、DICVで新規に開発されたトラックおよびバスです。

 その開発を担当してきたのが、DTAでトラックキャブおよびシャシーの開発トップを務める新海秀幸バイスプレジデントです。2009年のDICV設立以来、インドや欧米から出向してきたエンジニアと一体となって、現地で開発業務にあたってこられたそうです。

 バーラトベンツ車は、気候・道路・積載など厳しい使用条件に対応したつくりになっていますが、なによりも「ダイムラートラックの全プロジェクトに適用されている『クオリティゲート』を導入したことが最大の特徴」(新海VP)といいます。

 この「クオリティゲート」は、開発プロジェクトのさまざまな作業の段階ごとに明確なクライテリア(評価基準)を設定することで、その段階ごとに得られた成果の確実性・信頼性が高められるというメリットがあるそうです。これは地道な業務上の手法で、筆者のような部外者には肌で感じにくいことですが、開発目標の確実な達成に貢献しているように思われました。

一変していた構内

 筆者は、2013年にもオラガダム工場を見学しましたが、当時とは構内の風景も一変していました。その頃はサバンナを造成したままの土壌が露出していましたが、今回(2022年秋)の再訪では、すっかり緑化されていたのです。

 この緑化では、さまざまな種類の草木6万本を混植し、日陰をつくることで、摂氏40度を超える外気温を緩和する効果があるのですが、混植される草木は、なんと我が国の植生を参考に選定し、適切に組み合わせて植えられているそうです。日本で当然のように生い茂っている草木の恩恵を、インドで気付かされてしまうとは意外なことでした。

 また、広大な敷地には、雨期に得た雨水を蓄える巨大な人工池が造成され、工場用水の85%をまかなうとともに、10%を近隣のサプライヤ工場へも供給しています。

 工業団地が開発されるような土地なので、水利の得られる川も近くにあるのですが、近々世界最大の人口国となるインドだけに、水資源がより重要になっていくことから、自家水利に取り組んでいるわけです。今後は、工場からの排水自体も削減しつつ再利用を進め、2年後には工場用水の全量を、貯水池と排水リサイクルでカバーする方針です。

オラガダム工場のテストコース内に設置された太陽光パネル(写真:DTA)
オラガダム工場のテストコース内に設置された太陽光パネル(写真:DTA)

 そして、赤道が近い低緯度(北緯13度)ゆえ、テストコース内に広大な太陽光パネル施設を設置、自家発電だけで工場の電力の9割をまかなうことができ、やはり2年後には、工場オペレーションでのCO2排出ゼロを達成する予定といいます。

 これは以前紹介した、三菱ふそうのポルトガル・トラマガル工場に次ぐ早い達成ですが、年間を通して強い日光と長い日照が得られる大面積が確保できるという、日本とはまるで異なる立地なればこそでしょう。

 なお、空撮写真の太陽光パネルにはさまれた「DAIMLER」の文字、近くでみたら、コンクリートで書かれていたというか、築かれていたものでした。

テストコースの巨大なDAIMLERの文字は、地上ではこうなっていました
テストコースの巨大なDAIMLERの文字は、地上ではこうなっていました

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