オートスポーツwebでは、2022年シーズンも世界各地のさまざまなモータースポーツ情報をお届けしてまいりました。今回は2022年編集後記ということで、各カテゴリーの担当スタッフが選んだ個人的名レース&名シーンをご紹介いたします。今回はスーパーGT GT500クラス編です。
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■第3戦鈴鹿 CRAFTSPORTS MOTUL Zの復活劇
全8戦で争われた2022年シーズン。GT500クラスでは5月に開催された第3戦鈴鹿での3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zの復活劇が印象に残っています。
第2戦富士で高星明誠の乗る3号車が大クラッシュに見舞われてから約3週間後。モノコックを残してバラバラになった3号車は復活を果たし、第3戦が行われる鈴鹿サーキットに現れました。搬入日にはメーカーや参戦クラスを問わず、大勢の関係者がその姿を一目見ようとピットレーンに集っていた光景が思い出されます。
モノコック、エンジン交換を経て、いわばぶっつけ本番で迎えた一戦だっただけに、第3戦は3号車にとって厳しいレースになるだろうと思っていました。ただ、そんな予想は的外れだったと予選で思い知らされます。
予選Q1では千代勝正が一番時計を叩き出すと、続く予選Q2では高星は1分44秒425を叩き出し一時トップにおどり出ました。高星の名前がタイミングモニターのトップに表示された瞬間、あまりの復活劇に「綺麗すぎだ」とすら思いました。『大クラッシュからの復活のポールポジション獲得』というは、物語としてあまりに綺麗すぎると。
ただ、ポールポジションを獲得したのはご存知のとおり19号車WedsSport ADVAN GR Supraでした。国本雄資にとってはキャリア初のGT500ポールポジションということで、19号車陣営にとっても忘れ難い予選となったと思います。3号車は最終的に3番グリッドからのスタートとなりました。GT500は3メーカー15台がガチンコ勝負を繰り広げます。だからこそ、ポールポジションや優勝は本当に価値のあるものなのだと改めて感じた瞬間でもあり、3号車の決勝での逆転優勝へ向けた期待も高まる1日となりました。
決勝のオープニングラップは、まさに一瞬たりとも目が離せない展開となりました。ミシュランタイヤの発動性の良さを存分と活かした3号車は1〜2コーナーで37号車KeePer TOM’S GR Supraをかわすと、130R手前で19号車を攻略しトップに浮上しました。300kmのレースは至るところでアクシデントやトラブルが見られましたが、3号車はその後も完璧と言えるレース運びで今季初優勝を獲得。さらに千代、高星にとってはGT500初勝利。また、2022年から参戦するニッサンZ GT500にとっての初優勝となり、ニッサンファンが大いに湧く結果となりました。
スーパーGT GT500クラスでは毎戦ドラマチックな展開が繰り広げられますが、復活劇という点ではこの第3戦が記憶、そして記録に刻まれる一戦となったと思います。また、この勝利は千代と高星の活躍はもちろんですが、約3週間で3号車を復活させたNDDP RACING、そしてメンテナンスを手掛けるニスモのメカニックをはじめとするスタッフの皆さんの懸命な努力の結果でもあると思います。(編集部カワノ)
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■第6戦SUGO 雨のなか繰り広げられたスーパーGTならではのタイヤ競争
どのレースも見応え十分でレース内容が濃いのがスーパーGTのストロングポイントですが、2022年シーズンの8戦も本当に面白いレースが多かったですよね。今年は鈴鹿サーキットでのF1を始め、WEC富士やラリージャパンなどいろいろ取材できる機会に恵まれましたが、今年は特に、シーズンを通してレース後に一番、頭と身体がぐったりしたのがスーパーGTでした(苦笑)。
そのなかでベストを挙げるのは、やっぱり難しいですね……ニッサンの新型Z導入でデビュー戦で勝てなかった第1戦岡山、3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zの大クラッシュで報道スタンスを問われた第2戦富士、その3号車が復活優勝した第3戦鈴鹿に、宮田莉朋とサッシャ・フェネストラズの最年少コンビ優勝となった第4戦富士、予選最後尾の12号車カルソニック IMPUL Zのテール・トゥ・ウインとなった第5戦鈴鹿に、雨で戦略が入り乱れた第6戦SUGO、練習走行でクラッシュでボンネットがカーボン地のまま優勝を遂げた17号車Astemo NSX-GTが印象的だった第7戦オートポリスに、実質三つ巴状態のチャンピオン争いとなった第8戦もてぎ……ホントに、いいレースが多かった2022年のGT500クラスでしたね。
そのなかで個人的に1戦を挙げるとするなら、第5戦の鈴鹿か、第6戦SUGOか──。今年から導入されたレース距離450kmは戦略の幅が広まり、ドライバーのダブルスティント、タイヤ無交換など、見どころが大きく増えましたし、今年多かったFCY(フルコースイエロー)前後のアクシデントが多かったのもこの第5戦で、いろいろ今季を象徴していたように思えます。それでもやはり、どちらかというと好みの問題で(笑)第6戦SUGOをベストに挙げさせて頂きます。
ひさびさのウエットレースで、F1のグルーブドタイヤのようなミシュランのニューウエットタイヤがダンプコンディションで炸裂したのが印象的で、スーパーGTの醍醐味であるタイヤコンペティションの激しさを象徴していました。ブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップを含めて、GT500のドライタイヤは本当に僅差の勝負となってきていて、今年の予選Q1のタイム差は1秒以内に10〜12台と、フォーミュラレースのような戦いになっています。
ですが、ウエットタイヤはまだまだ各社のストロングポイント、そしてウィークポイントがバラけていて、そこまで違うのかと驚くくらい、雨量や路面温度でパフォーマンスが変わったのが新鮮でした。雨のレースではドライバーの技量もいろいろ見えますし、混乱したレースではチームカラーも反映されます。SUGO戦では、23号車MOTUL AUTECH Zと3号車のニスモ同士のトップ争いで、ピット戦略のタイミングで明暗がわかれたのも、とても印象的でした。2023年もまた、タイヤ競争が本当に楽しみです。(編集部ミズノ)
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■第7戦オートポリス ホンダ陣営の実質的な今季初勝利
GT300に続いてGT500の2022年ベストレースを選ぶことになったわけですが、こちらもかなり悩ましいですね……。今年は新型Zの登場などで、特に印象に残るレースが多かった気がします。もちろんTEAM IMPULが27年ぶりのチャンピオンを決めた最終戦もてぎも印象深いですが、個人的には第7戦オートポリスを推したいです。
2022年はベース車両を2代目NSXの最終モデル“タイプS”に変更したホンダ陣営ですが、優勝を飾ったのは第2戦(ハーフポイント)のARTA NSX-GTのみと苦戦を強いられていました。スペック2エンジンを投入した第6戦でも雨に翻弄され優勝争いに絡めないまま、チャンピオン争いの天王山となる第7戦を迎えました。
迎えた初日の専有走行でRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT、STANLEY NSX-GTがワン・ツーでセッションを終えましたが、終盤にAstemo NSX-GTがクラッシュを喫してしまいます。そして、このときには誰もAstemo NSX-GTがレースウイークの主役になるとは思わなかったはず。
Astemo NSX-GTは午後の予選に向けてマシン修復を行い、フロントボンネットはカーボン地のまま、アライメントのチェックをすることもできずにQ1に挑むと、松下信治がQ1突破を果たし、Q2でも塚越広大が4番手タイムを記録しました。
翌日の決勝でもピット作戦でトップに浮上したAstemo NSX-GTは見事に逆転優勝を飾り、タイトル戦線へと急浮上してくることになります。ファンの投票によって選ばれるJ SPORTSベストパフォーマンス賞も受賞し、レース後には田坂泰啓エンジニアも「マシンを直した甲斐がありました」と笑顔をみせていました。
この第7戦はAstemo REAL RACINGにとって、まさに「チームがひとつなった週末(松下)」だったと思います。ちなみにこれは個人的な感想ですが、カーボンボンネットのまま優勝を飾ったAstemo NSX-GTも、某頭文字Dっぽくてカッコよかったですね。そのことも含めて印象に残っています。(編集部ゴトー)