2023年のオートサロンで発表された500台限定のレヴォーグSTI Sport ♯。ベース車から約100万円アップとなる576万円以上の価格ながら受注開始の1月26日に即完売となった。そんな同車のライバルはもはや輸入車となるが、それでもスバル車を選ぶ理由はどこにあるのか、分析した。
本文/大音安弘、写真/ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部、スバル、BMW
■受注初日に限定500台が瞬時に完売!
年始を飾る自動車イベントとして、2023年も大いに盛り上がった東京オートサロン。スバルブースでは、スバルファン待望のSTIコンプリートカー「レヴォーグSTI Sport #」のプロトタイプが初披露され、大きな注目を集めた。
さっそく、市販が公表されたレヴォーグSTI Sport #は、500台限定でベース車の93万5000円高となる576万4000円というプライスタグが掲げられた。受注については、2023年1月26日から期間限定で行われることを公表。
そこで状況を把握すべく、1月中旬に、スバルディーラーに問い合わせたところ、「発表後から、購入希望の問い合わせを受けている」とのことであった。このため、今回も好調なセールスが予想されていたが、そのペースは想像以上。
驚くべきことに、スバル公式サイトで受注開始初日に完売が告知されたのだ。まさに瞬殺。すでに「STI Sport #」が、STIコンプリートカーとして高い信頼と価値を得ていることを実感させたニュースとなった。
■即完売となったSTI人気の秘密とは?
すでに入手ができない状況ではあるが、即完売となった秘密を探っていきたい。今回のモデルは、STIコンプリートカーとして、ふたつの「初」がある。
まずひとつは、レヴォーグの初のコンプリートカーであること。初代では多くの特別仕様車が登場したが、STIコンプリートカーはなく、同車が初設定となる。
そして、もうひとつは、新世代プラットフォーム「SGP」系としても初のコンプリートカーとなること。近年、人気が急上昇しているSTIコンプリートカーだが、最後のモデルは、2020年に投入された「初代WRX S4 STI Sport #」であり、インプレッサ以降の新世代モデルベースのコンプリートカーは初なのだ。
スバルの人気車、しかも大幅な基本性能向上が図られた新世代モデルベースとなれば、ファンの注目と期待が膨らんだのも当然といえよう。
■開発担当はSTIトップガン、初代WRX S4担当の高津益夫氏
同車を手がけたのは、初代WRXシリーズの開発を指揮し、現在はSTIで開発副本部長を務める高津益夫氏だ。第1弾となるWRX S4 STI Sport #を手がけた人物でもある。
それだけに、パワーユニットなどの基本性能はそのままに、STIの知見を最大限活用したSTIコンプリートカーのエントリーとしての役目をしっかりと受け継いでいる。つまり、コスパも重視したクルマ作りが行われていることを意味する。
まずはビジュアルから見ていこう。ボディカラーには、特別設定色となるカタログモデル非設定の「オフショアブルー・メタリック」を含めた全4色を用意。一見、エクステリアはSTIスポーツ同様に思えるが、特別仕様の演出として取り入れたのが、「黒締め」だ。
ヘッドライトベゼル、フロントグリル、フロントバンパースカート、エンブレム類などをブラック化することで、よりボディを引き締まった印象に仕上げている。細かい部分では、チェリーレッドのSTIバッジの縁取りも、専用のラスターブラック仕上げにするこだわりよう。
さらにサイドガラスのモールも上部をブラック化しているが、敢えて下部はメッキ仕上げを残すことで、シャープなガラスラインを強調し、レヴォーグの持つスポーティさを際立たせているという。
内装についても、同様に「黒締め」が図れた。なんとルーフライナーも標準車とは異なるブラック仕上げに。これもコンプリートカーならではの技だ。もちろん、インパネやドアトリムなども同様に黒基調となる。
さらにアクセントカラーは、STI Sport系とは異なり、近年、STIコンプリートカーで使用されているシルバーに変更し、ステッチやシートベルトなどに採用。
そして最大の目玉が、レヴォーグには非設定となるレカロ製フロントシートの標準化だ。これにはレヴォーグファンにも、ぜひ新たなレカロシートを……という高津氏の想いが込められている。
■さまざまなSTI製フレキシブルドローパーツを装着
もちろん、STIコンプリートカーだけにメカニズムにも手を加えている。ただ、エンジンや足回りなどは、ベース車であるSTIスポーツRと同様だ。そこで投入された秘密兵器が、STIの技が詰まったSTIフレキシブルドローパーツたちだ。フロントとリアには、市販品と同じSTIフレキシブルドロースティフナーを装着。
さらにフロントには、専用開発のSTIフレキシブルドロータワーバーを装備しているのが肝となる。これは市販されるフレキシブルタワーバーの特徴的な構造であるピロボール内蔵のジョイント部にスプリングを追加したもの。
これにより、常にタワーバーに負荷を加えることになり、フレキシブルドロースティフナー同様にスタンバイ状態とし、操舵初期の応答遅れをより縮めているという。これによりSGP×フルインナーフレーム構造の新世代プラットフォームによるクルマの動きのよさに、磨きが掛けられているというわけだ。
さらにバネ下の軽量化と、より応答性に優れるタイヤをチョイス。専用アイテムとして、BBS鍛造19インチホイールと225/40R19のミシュランパイロットスポーツ5を装着した。走りのよさに加え、ドレスアップにも磨きが掛けられている。
さらにはSTIのこだわりとして、スポーティな走りを提供すべく、スバルパフォーマンストランスミッションの性能をしっかりと引き出すべく、CVTクーラーの追加。さらにSTIレシピによる隠し味も加えられているというから期待が膨らむばかりだ。
■当然、ライバルは同価格帯となる輸入車モデルに
そんな特別なレヴォーグのライバルはもはや国産車には不在。平成にレガシィでスポーツワゴンブームを巻き起こし、その後も同カテゴリーを大切に育ててきたスバルだけの価値だからだ。
しかし、世界には、まだまだ面白いワゴンは存在する。価格的にも競合しそうなのが、登場間もない「VWゴルフRヴァリアント」と個性派お洒落ワゴンの「BMW MINIクラブマン ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」だ。
VWゴルフRヴァリアントは、大容量ラゲッジを備えたオールラウンドなスポーツワゴン。搭載するエンジンは2L直4ターボと、排気量こそレヴォーグのほうが上だが、ゴルフRヴァリアントは320ps/420Nmと性能では勝る。さらに後輪デフによるトルクベクタリング機構を持つ4WDシステムを備えるのも特徴的だ。
一方、MINIクラブマンは、積載力ではレヴォーグには敵わないが、MINIらしい刺激的な走りが持ち味。エンジンは2L直4ターボで、306ps/450Nmを発揮し、4WDシステムも備える。
この3台のなかで総合的に見れば、刺激度でいえばMINIクラブマンJCWが一番。鋭いコーナリングを楽しめるのはゴルフRヴァリアントで、オールラウンダー的な顔も持ち、その点はレヴォーグとも共通する。
レヴォーグに関しては、STI Sport Rと、STIフレキシブルパーツを装着したレヴォーグSTI Sportでの話がベースとなるが、意のままに操れるクルマとの一体感は一番だろう。それでいて、静粛性や快適性にも優れる。まさに大人の走りのワゴンの魅力が凝縮された味つけとなっていることだろう。
高津氏も、運転の気持ちよさを磨き上げたことを魅力のひとつとして語っている。その真実を知ることができるのは、全国で500名のかぎられたオーナーのみというのは、もったいない話だ。
まだ第2世代のレヴォーグの歴史もこれからというタイミング。それなのに、即完売というのは、あまりにも寂しい現実ではないか。ぜひ「STI Sport #バージョン2」の登場に期待したくなるのは、私だけではないだろう。
【画像ギャラリー】完売となった576万4000円の「レヴォーグSTI Sport ♯」のライバルはVWゴルフRヴァリアントとBMW MINIクラブマンJCW!日完売! やはり選ぶ価値あり!?(29枚)画像ギャラリー
投稿 600万円近くても「レヴォーグSTI スポーツ♯」は即日完売! でもそこまでして選ぶ価値はあったのか? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。