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 各F1チームがシーズンに2回、F1昇格を狙うドライバーを金曜プラクティスで起用しなければならないという規則が2022年に導入された。その目的は、テストの機会が非常に限られる状況のなかで、若手ドライバーにF1マシンに乗るチャンスを与えることだ。

 当連載では、F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏が、FP1ドライバーとして選ばれたドライバーひとりひとりのここまでのパフォーマンスを評価し、将来性を探る。今回はアストンマーティンで走ったフェリペ・ドルゴヴィッチに焦点を当てた。
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 現在22歳のフェリペ・ドルゴヴィッチは、2022年FIA F2のチャンピオンでありながら、F1レギュラーシートへの明確な道筋ができていない。彼のようなドライバーにF1のフィールドで力を示す機会を与えるという意味で、FP1若手ドライバー規則には大きな意味があるといえるだろう。

 2020年にF2ランキング2位のカラム・アイロットが、ドルゴヴィッチを絶賛したことがあった。フェラーリ・ドライバー・アカデミーの一員だったアイロットは、ドルゴヴィッチがF1チームの若手ドライバー育成プログラムに所属していないことに驚きを示し、F1チームは彼を選ぶべきだと主張したのだ。

 アイロットの評価が正しいことは、ドルゴヴィッチのリザルトを見れば明らかだ。彼は2018年のユーロフォーミュラ・オープンで16戦中14勝を挙げ、残りの2戦では2位に入った。これほどの圧勝でタイトルを獲る例はめったにない。

 しかし、F2に参戦した2020年シーズンが終わった段階でも、彼と契約するF1チームはなかった。F2ルーキーシーズンのこの年、MPモータースポーツで3回優勝。翌2021年には、タイトルを目標にユニ・ヴィルトゥオーシ・レーシングに移籍したがうまくいかず、2022年にMPに戻ることになった。

 2022年、ドルゴヴィッチは素晴らしいシーズンを送った。サウジアラビアのフィーチャーレースで優勝。スペインでは両レースを制し、モナコのフィーチャーレースで勝利を収めた。前半戦の好成績によってチャンピオンシップで大量のリードを築いたドルゴヴィッチは、そのリードを最後まで維持してタイトルを獲った。

フェリペ・ドルゴヴィッチ(MPモータースポーツ)
2022年FIA F2第13戦モンツァ レース1 今シーズンのタイトルを獲得したフェリペ・ドルゴヴィッチ(MPモータースポーツ)

 純粋な速さと非常に印象的なレーステクニックを持っているうえに、経験を積んでいったことで、ドルゴヴィッチはタイトル争いにおいて、誰にも近づく隙を与えなかった。シーズンを通して、フィーチャーレースでポイントを獲得できなかったのは1戦のみ。そうして彼はシーズン3戦を残して、タイトルを確定させた。

 さらにドルゴヴィッチは、ついにF1チームとの契約にこぎ着けることができた。2023年のF1レースシートをつかむことはできなかったものの、アストンマーティンと育成ドライバー契約を結ぶことに合意したのだ。

フェリペ・ドルゴヴィッチがアストンマーティンでF1初テスト
フェリペ・ドルゴヴィッチがアストンマーティンでF1初テスト

 この段階で、ドルゴヴィッチはF1マシンに一度も乗ったことがなかった。アストンマーティンは、FP1ライセンス取得のため、シルバーストンで2021年型マシンでのテストを実施、ドルゴヴィッチがウエットコンディションのなかで周回数を重ねて条件を満たした後、アブダビでのFP1と同地での若手ドライバーテストに彼を乗せると発表した。

「若いドライバーがF1マシンに初めて乗るのを見るのはいいものだ。フェリペはこの機会を最大限に生かした」とチーム代表マイク・クラックは、シルバーストンテストについて語った。

「彼は知的なドライバーで、エンジニアリングチームとうまく連携してしっかり仕事をした。彼のプロフェッショナリズム、パフォーマンス、フィードバックのすべてに良い印象を持った」

 ドルゴヴィッチはアブダビで初めて2022年型マシンに乗り、F1公式セッションデビューを果たした。タイムシート上は最下位だったが、この時FP1で走った他のルーキーたちとは異なり、ドルゴヴィッチはドライコンディションで初めてF1カーに乗ったということを考えれば、なかなかのパフォーマンスだったといえよう。

フェリペ・ドルゴヴィッチ(アストンマーティン)
2022年F1第22戦アブダビGP フェリペ・ドルゴヴィッチ(アストンマーティン)

 アストンマーティンが新しく立ち上げたドライバー育成プログラムの最初のメンバーとなり、リザーブドライバーも務めるドルゴヴィッチは、2023年にはさらにテストの機会を与えられ、レギュラードライバーであるフェルナンド・アロンソから多くのことを学ぶだろう。当分レースシートが空くことはないものの、ようやくF1チームとのつながりを持てたという意味で、F1デビューに一歩近づいたことは間違いない。