2022年、F1技術レギュレーションが一新されるにあたり、各チームの序列がリセットされ、新たな戦いが見られることが期待された。結果的にトップグループではレッドブルが独走し、フェラーリとメルセデスは大差で敗れることになった。なぜ彼らは大敗したのか。また、中団以下のチームは、なぜ上位争いに挑むチャンスをつかめなかったのか。その背景を、F1ジャーナリスト、サム・コリンズ氏が分析した(全3回)。「第1回フェラーリ:過去最大級のパワートレインの飛躍とリスク」 に続く今回は、メルセデスに焦点を当てた。
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■2021年王者を苦しめた厳しい空力テスト制限
2014年から2021年にF1を完全に支配したメルセデスが、2022年にはつまずき、ひどい低迷に陥った。バルセロナとバーレーンでのプレシーズンテストの時から、W13のデザインが意図したとおりに機能していないことは明らかだった。
ワールドチャンピオンのパフォーマンスが低下する場合、主な原因として考えられるのは、コストキャップと空力テストの制限である。F1チームはレギュレーションで予算制限を設けられており、支出を大幅に削らなければならない。また、CFDと風洞テストの時間は、選手権ランキングが高ければ高いだけ厳しく制限される規定になっているため、メルセデスが許されるテストの機会は10チームの中で最も少なかった。その影響はW13のローンチ仕様にはっきりと表れていた。そして、シーズンがスタートした後も、メルセデスはライバルたちほどのペースでマシン開発を進めていくことができなかった。
6月30日時点のランキングに従って空力テスト制限が見直されるため、前半戦に低迷したメルセデスはシーズン後半には、実施可能なテストの量が増えた。シーズン終盤にパフォーマンスの改善が見えたのはそのためだ。
しかしそれまで厳しい空力テスト制限を受けてきたことにより、メルセデスはW13が抱える問題、つまり“ポーパシング”と呼ばれる空力的振動を完全に解決することはできなかった。2023年型マシンの開発にも取り組まなければならないなかで、次シーズンに大きなしわ寄せが起きない形でこの問題を完全に解決するには、風洞テストの時間が足りなかったのだ。さらに、W13が持つ問題を解決しようとするたびに、新しい問題が浮上して、マシンが期待どおりの反応は見せないという現象がしばしば起きた。
メルセデスは、メカニカルな問題がもたらすタイヤの問題にも苦しめられた。タイヤが長持ちせず、あっという間に傷んでしまい、思うように戦えないことがあった。たとえばアブダビでのルイス・ハミルトンにはその問題が発生している。しかし一方で、タイヤの持ちがとても良く、高いパフォーマンスを発揮できる時もあった。つまり一貫性が全くなかったのだ。
他にもW13には謎の問題があり、チームをシーズン通して苦しめた。それがいったい何なのかについては明かされていないのだが、テクニカルディレクターのマイク・エリオットによると、チームはその問題を把握しながらも修正することができなかったのだという。その問題が原因で、W13のパフォーマンスは非常に不安定になり、時に高い競争力を発揮し、時にペースがないという具合に大きな波があった。
「自分たちがマシンを開発してきた過程を振り返ると、『あの時にミスを犯した』と思う瞬間が昨年のいつなのかを指摘することができる。また、コース上のパフォーマンスと、レースごとにそれが変動する現象は、それがもたらしているのだということも分かっている」とエリオットは言う。
「以前からその誤りには気付いており、問題の修正に取り組んできた。そうしてパフォーマンスが徐々に改善していったのだ。だが、W13では問題を完全に修正することはできない。冬の間に対処することになるだろう」
■パワーユニット面の遅れを取り戻すことは困難か
チームのなかで、その“誤り”については広く議論され、明確になっているという。だが、W13には、解決がはるかに困難と予想される、深刻な問題が存在する。その問題とは、2022年のパワーユニットの信頼性が高すぎたことだ。
F1パワーユニットを担当するメルセデスAMG・ハイパフォーマンス・パワートレインズは、「パワーユニットを一度も故障させることなく両世界選手権を制覇する」という明確なミッションを掲げており、信頼性の面では目標を達成した。メルセデスユーザーのみが、シーズン中のパワーユニット基数制限をクリア、あるいはクリアに近いところまで行き、ウイリアムズ2台、アストンマーティン2台、マクラーレン1台はパワーユニット関連のペナルティを受けずにシーズンを乗り切った。
パフォーマンスレベルも優れていたなら、素晴らしい成果といえただろう。しかしメルセデスのパワーユニット『M13・Eパフォーマンス』は、フェラーリやホンダほどのパフォーマンスを示していなかった。ハイブリッドシステムがストレートエンドの手前でエネルギー切れを起こし(いわゆる“クリッピング”)、マシンの空力ドラッグによってストレートエンドに向かって徐々にスピードが落ちていく。M13はパワーも不足しており、メルセデスPU搭載車はストレートで最も遅いグループであることが多かった。メルセデスPUを搭載したマシンは、ストレートで遅いことから、コーナーでラップタイムを稼ぐためにハイダウンフォース、ハイドラッグ仕様で走る必要があり、それによってストレートでより一層遅くなるという悪循環に陥った。
パワーユニットの開発は2025年末まで凍結されるが、信頼性に関連する変更を行うことは可能だ。つまり、フェラーリやルノー、そしてホンダは、今後も信頼性の面でパワーユニットの改善を進めていく余地があるが、メルセデスは2023年にその部分でできることは極めて限られるということになる。この問題は今後もメルセデス搭載車すべてを苦しめ続けることになるかもしれない。
2022年シーズンの終わりに7度の世界チャンピオン、ルイス・ハミルトンはW13についてこう振り返った。
「ダウンフォースがある程度あることは間違いないけれど、もっと効率的なマシンを作る必要がある。チームの全員が、何が問題なのか、問題がどこにあるのか、僕たちはどこで間違ったのかを正確に把握していると思う。次のマシンを作る時に、同じ特性を備えたマシンにすることは絶対にないだろう。僕は、このマシンには二度と乗るつもりはない。マシンをもらえるように(メルセデスとの)契約項目に盛り込むことができるけれど、そのリストにこのマシンを入れることはないだろうね!」
ハミルトンはF1キャリアのなかで昨年までは毎年1勝以上を挙げていた。W13は彼に一度も勝利をもたらさなかった初めてのマシンだ。