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 日本の自動車メディア業界において評論家陣の高齢化は激しい。しかし、高齢者には高齢者の武器がある。それは経験であり、知見である。

 当連載では、2022年いよいよ還暦を迎えたベテラン評論家の清水草一が、その波乱の生涯において経験してきた、クルマにまつわるあれやこれやを解説。おっさんが、これからの時代のカーマニアたちに知識を伝授する!

文/清水草一
写真/フォッケウルフ

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■タイヤチェーン再注目の時!

 雪道の必需品と言えばスタッドレスタイヤだが、近年、タイヤチェーンを見直す動きがある。

 数年前から毎年のように、大雪の国道などで大規模な立ち往生が発生している。実際、雪道で駆動輪が進行方向の深い凹みにはまると、スタッドレスタイヤでも脱出できなくなってしまう。

スタッドレスタイヤは「スタッド」のないタイヤ、つまりスタッド=鋲が付いたスパイクタイヤとは異なる雪道用のタイヤということだ
スタッドレスタイヤは「スタッド」のないタイヤ、つまりスタッド=鋲が付いたスパイクタイヤとは異なる雪道用のタイヤということだ

 2018年には、国交省が一部の国道で、スタッドレスタイヤでもダメな「チェーン装着義務規制」を開始した。つまり現在は、チェーン装着車以外は通行禁止になる道路が存在するわけだ(少ないですが)。

 2017年にJAFが行った「雪道での登坂テスト」では、ノーマルタイヤ、スタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤ、タイヤチェーン(ゴムタイプ)、オートソック、スプレーチェーンでそれぞれテストを行い、スタッドレスタイヤだけが、平坦路から発進して勾配20パーセントの圧雪路を上ることができた(テスト車はFFの日産ノート)。

 つまり、タイヤチェーンよりもスタッドレスタイヤのほうが性能的に上だったわけだが、勾配9パーセントのアイスバーンを登れたのは、スタッドレスタイヤにタイヤチェーンを装着した場合だけ。タイヤチェーンがあれば、スタッドレスタイヤ装着車の雪道走破性能を、さらに高められるわけだ。

 最近はオールシーズンタイヤが人気になりつつあるが、「アイスバーンは不可」となっている。オールシーズンタイヤは、そのままで雪道も走行可能ではあるが、本物の雪国に向かう場合は、是非ともタイヤチェーンを携行すべきだろう。そんなわけで今注目のカー用品は、タイヤチェーンなのだ!

■今から40年くらい前の雪道事情は?

「でも、タイヤチェーンなんて使ったことないよ」

 そういうユーザーが多いはず。おっさんの出番である。

 1980年代まではスタッドレスタイヤなんて一般的じゃなかったので、太平洋側のドライバーはスキーに向かう時、サマータイヤ+タイヤチェーン携行で出発し、雪道になったところでチェーン装着。ユーミンを聴きながらスキー場へGO! というのがアタリマエだった。映画『私をスキーに連れてって』世代ですので。

 ちなみに、1980年代まで、雪国のドライバーは、冬はスパイクタイヤ(金属のピンを埋め込んだスノータイヤ)を使用していたが、そのままで舗装路を走るとアスファルトが削られ、盛大に粉塵が発生。大都市を中心に健康被害も生じたため、1990年からスパイクタイヤの使用が厳しく規制されるようになった。スタッドレスタイヤの普及は、そこから一気に始まったのです。

 1980年代というと、今から30年以上前だ。その時代を知っているのは、50代後半より上。タイヤチェーンをバリバリ巻いた経験があるのはおっさんだけ(?)なのだ! おっさんにまかせろ!

スキー場では、『私をスキーに連れてって』を地でやっていた(笑)
スキー場では、『私をスキーに連れてって』を地でやっていた(笑)

 で、タイヤチェーンってどうだったのか!?

 ズバリ、無敵だった。

 当時はまだスタッドレスタイヤがほとんど普及していなかったので、雪道は常にスパイクタイヤやタイヤチェーンで表面をガリガリ削られており、アイスバーンやミラーバーンなんてものはなかった。だから、ノーマルタイヤ+タイヤチェーンで登れなかった坂はないっ!

 スキー場の最後の急勾配だけは苦戦したが、その時はトランクに同乗者を載せて後輪に荷重をかけるというワザがあった。当時はまだFF車が珍しく、多くのクルマがトランク付きのFRだったのだ! 厳密には道交法違反でしたが、当時はそんなことに目くじらを立てる者はいなかった。

■いろいろあるチェーンの選び方

 ところで、タイヤチェーンにもいろいろある。大きく分けると金属チェーン、ゴム(非金属)チェーン、オートソック(80年代には存在せず)だ。では、当時私が使ったタイヤチェーンたちは、タイプ別にどんな印象だったか?

●ぶっとい鎖(ど鉄!)のはしご型タイヤチェーン
 1980年代には最もポピュラーなタイプだったが、はしご型だけに乗り心地は「ドカドカドカドカ!」「ガラガラガラ!」と最悪で、雪が消えている部分を走る時は速度を落とし、ひたすら耐えるしかなかった。雪道なら我慢できたが、はしご型なので横方向のグリップは弱かった。

 また、ぶっとい安価な鎖を使っているのでとても重く、装着にも苦労した。安いからって手を出さないほうがいい! と言っても、現在、乗用車用は絶滅寸前なので大丈夫でしょう。

●高性能亀甲型金属製タイヤチェーン
 細くて強度の高い亀甲型の鎖をタイヤに巻くタイプ。細い上に縦方向の鎖部分もあるので乗り心地は断然よく、舗装路でも耐えられた。横方向のグリップも文句なし。細い鎖を使っているので軽くてかさばらず、装着も断然ラク。オススメ!

●ゴムチェーン
 各種あるが、最大の欠点はかさばること。個人的には、当時新開発だったスイス生まれの最先端非金属チェーン「イエティ・スノーネット」を購入・使用したが、なぜか片側を途中で落として行方不明にしてしまい、泣いたことがある。高かったのに……。ちなみに片方だけで無事目的地(岩手県・安比高原)に到着。そこで初めて片方なくなっていることに気づきました。思い出しても無念。

 ということで、1980年代の経験では、「高性能亀甲型金属製タイヤチェーンがベスト!」という結論に至りました。かく言うおっさんも、30年以上タイヤチェーンを使っていないので偉そうなことは言えませんが、スタッドレスタイヤの補完として携行するなら、今でもこれがベストと言えるのではないでしょうか?

写真は高性能亀甲型金属製タイヤチェーンを巻いてスキーに出撃した1980年代の筆者(愛車は日産サンタナ)
写真は高性能亀甲型金属製タイヤチェーンを巻いてスキーに出撃した1980年代の筆者(愛車は日産サンタナ)

 その後登場した「オートソック」は、前述のJAF「雪道登坂テスト」で、ゴムチェーンやスタッドレスタイヤと同等の性能を発揮していたので、オールシーズンタイヤの補完用としてイケそうだ。ただしオートソックは、ドライ路面を100キロくらい走行すると寿命が終わるので、あくまで緊急用ということで!

 最後に、おっさんからのアドバイスをひとつ。

「タイヤチェーンは、自宅で装着の練習をしておこう!」

 1980年代は、チェーン装着は男の見せ場だった。女子どもを車内でヌクヌクさせたまま、素早く装着することで尊敬を勝ち得ることができたのだ。今は時代が変っているんでしょうけど、現場で焦らないよう、練習しておいて損はない! 健闘を祈る!

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投稿 2月も大雪に注意! いま再注目のタイヤチェーンってどうなのよ!?【〈新連載〉 おっさんに訊け!】自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。