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 12月20日に開通60周年を迎えた首都高速道路。かつて渋滞地獄と言われた東京の動脈は、ほぼ完成の域に達した。いったいこれからの首都高はどう変わるのか。首都高と同い年の清水草一氏に、今後の料金や老朽化対策について聞いてみた!

文/清水草一、写真/清水草一、首都高速道路(株)、Adobestock(トビラ写真=paylessimages@Adobestock)

■現在の新規計画は「新大宮上尾道路」のみ

1962年12月20日、京橋~芝浦間の開通から首都高の歴史は始まった(銀座の掘割区間)

 2022年12月20日、首都高は開通60周年を迎えた。今から約60年前の1962年12月20日、京橋―芝浦間4.5キロが首都高最初の開通区間として営業を始めたのだ。首都高研究家を自称する私も、偶然だが1962年生まれ。私にとって首都高は同窓生であり、カーライフの同志である。

 この60年間、首都高はジェットコースターのように歩んで来た。東京オリンピックを目指した突貫工事に始まり、70年代には大渋滞時代へ。渋滞はバブル期にピークに達したが、その後は日本経済の低迷を追い風(?)に、ネットワークの充実によって徐々に渋滞が緩和され、現在に至っている。05年には民営化という大変革を経験し、経営が効率化された。

 私の青年時代、首都高は「地獄のような道路」というのが世間一般のイメージだったが、現在は大きく変わった。C2の全線開通により、特に都心部の渋滞は劇的に改善された。今や首都高は、大都会のど真ん中を走る快適なワインディングロードだ。時間帯や方向によって例外もあるが、東京23区内の移動は、平均すれば鉄道よりも首都高の利用が最速だ。これは、巨大都市としては世界的に見ても稀有な状況。都市高速を持つ東京の強みである。

 首都高研究家である私は、かつてさまざまな渋滞解消策を提案してきたが、現状にはほとんど満足している。首都高のネットワーク整備はおおむね終了しており、新規に建設が決まっているのは、埼玉大宮線の延長部である新大宮上尾道路(与野〜上尾南)8.0キロのみ。その先の延長計画もあるが、その他には新規路線の計画はない。第二湾岸道路や、晴海線のC1接続といった「構想」は存在するが、あくまで構想だ。首都高の成長期は終わったのだ。今後は円熟期に入る。

■3号線の改修は類を見ない難工事に

日本橋の上に建設中のC1(都心環状線)

 円熟期最大の課題は、老朽化対策である。この、東京の物流の背骨であり、快適なワインディングロードでもある首都高を、どうやって維持し、次世代に繋げるか?

 首都高の更新計画は、2014年に一旦決定している。5か所計8.5キロが大規模更新(造り直し)、その他計55キロが大規模修繕を受けることになり、順次着手されている。

 最初に造り直し工事が始まった1号羽田線東品川桟橋付近(1.9キロ)は、隣接地に迂回路が確保できたため、4車線を維持したまま工事が進んでいる。多くのドライバーは、造り直しが行われていることに気づいていないかもしれない。

 しかし、続く1号羽田線高速大師橋(0.3キロ)の架け替え工事は、2023年5月下旬から2週間、1号羽田線を通行止めにして行われる。現在の橋桁を取り外し、完成した橋桁をポンとはめるという荒業だ。

 C1日本橋付近の地下化が決定しているのはご存じだろう。新たな地下ルートの開通は2035年、現在の高架橋の撤去完了は2040年の予定だ。予定通りに進んだとしても、気の長い話である。これに合わせ、首都高とは別会社が料金無料で提供しているKK線(京橋-汐留間約2キロ)は廃止され、遊歩道になる。

 一方、3号渋谷線池尻―三軒茶屋間(1.5キロ)は、迂回路を建設する余地がなく、いまだに地下の基礎部の補強工事中だ。この区間は、大師橋のように完成した橋脚を隣に置いておくこともできないので、通行止めにして造り直すにしても年単位になる。しかし、東名高速に直結するこの区間を、長期間通行止めにするのは現実的ではない。どうやって迂回路を確保するか? 東京外環が開通してからの着手になるのか(開通すればだが)? いずれにせよ世界でも類を見ない、アクロバット的な難工事になるだろう。

■首都高は世界産業遺産に登録申請すべき!

建設当時の浜崎橋ジャンクション。下が1号羽田線、その上に架けられようとしているのが2号目黒線

 そして、2022年12月21日。60周年の翌日に、追加の更新計画がとりまとめられた。羽田トンネルと荒川湾岸橋の2か所をはじめとして、延長は22キロ。追加で3000億円の費用が必要と試算されている。

 造り直しは新規建設よりも大幅に費用がかさむ。現在は修繕で済む箇所も、いつかは造り直す必要が生じる。最終的には、そっくり造り直さなくてはならないはずだ。

 今のところ、首都高を含む高速道路は、2065年に料金徴収を終え、無料化されることになっているが、首都高を存続させるためには、無料化は永遠にないと考えざるをえない。そうでなければ高速道路は、老朽化とともに廃止するしかない。日本に大金山が発見されて、税収がバカバカ増えるようなことがない限り。現在の料金水準がおおむね維持されるのなら、首都高は永遠に有料道路でかまわないし、事実上、それ以外の選択肢はないだろう。

 われわれ利用者にとって、近々訪れるであろう最大の変革は、ETC専用化(2030年度から)と、時間帯別料金制の拡大(未決定)だ。現在は深夜割引があるのみだが、いずれはピーク時割増を導入して、混雑の平準化を図るべきだ。現状、夕方ピーク時の首都高は、利用しても時間短縮どころか増大してしまうケースが多い。そういう時間帯の料金を高くして、交通の流入を制限するのが合理的だ。

 いずれにせよ、現在の首都高はネットワークとして完成しており、これ以上の改善は難しい。現状が維持できれば十分ではないだろうか。

 そもそも首都高は、世界初の都市高速。いずれは世界産業遺産に登録申請すべきだ。この遺産を、次世代にどうやって受け継ぐか。それが最大の課題なのである。

【画像ギャラリー】映画「ソラリス」にも登場。首都高は日本が誇る歴史遺産だ!(4枚)画像ギャラリー

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