オートスポーツwebでは、2022年シーズンも世界各地のさまざまなモータースポーツ情報をお届けしてまいりました。今回は2022年編集後記ということで、各カテゴリーの担当スタッフが選んだ個人的名レース&名シーンをご紹介いたします。今回はスーパーGT GT300クラス編です。
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■第3戦鈴鹿 勝つときって案外あっさりしたもの
こんにちは。編集部ヒラノです。今季のGT300ベスト3戦を挙げるとなると、まあ当然挙がってくるであろうのは第8戦もてぎ。書き手としては、あれだけ展開に振り回された&ドラマチックだった週末はなかなかありません。ただ他の若手編集部員も挙げると思うので、ここは若手に譲っておきましょう。
で、今季個人的に挙げておきたいのは第3戦鈴鹿。レース展開としてはそこまでドラマチックではなかったとは思うのですが、印象には残っています。
いちおうGT300担当を自称しているので、もう何年(ひょっとすると十何年?)もGT300のことは追い続けていますが、まあ今のGT300って勝つのは本当に大変なんですよ。ドライバーの皆さんと話をしていると、よく聞こえてくるのが「1勝したらその年は言うことナシ」「表彰台立てたら御の字」みたいな話。
当然みんなチャンピオンを目指して戦っていますが、実力が揃ったGT300ではそれくらい上位に来るのは大変なんです。昔みたいに、図抜けたポテンシャルがあるクルマ──今風に言えばチートマシン(?)──が出現するのは難しい状況で、そのコースに対してタイヤ、クルマ、戦略がすべて合致しないと上位にはいけません。しかも勝つためには、さらにプラスアルファの何かがないと勝てないときが多いです。
ご存知のとおり、BMW Team Studie × CSLは今季BMW M社の50周年を祝って大いに体制を強化してきましたが、チームはそれまでも強力な体制でスーパーGTに参戦していました(特に2016年まで)。しかしなかなか優勝までは届かず、最上位は2位。今季も超充実の体制を組んでいましたが、ミシュランの1年目ということもあり、さすがに今季は届かないだろうと思っていたんです。
ところがこの第3戦では、予選2番手を獲得すると、ポールポジションだったTANAX GAINER GT-Rがまさかの再車検不合格に。決勝重視だったはずのStudie BMW M4がポールポジションとなると、決勝でもトップを譲らず優勝。詳しくはこちらの記事をご覧いただきたいのですが、「拍子抜けしているところもあります。安堵感もあるし、想像していたものとはまったく違った初優勝でした」と鈴木康昭監督が語るとおり、予想だにしていなかった優勝でした。
本来、チームはシーズン後半戦に向けてミシュランの開発を進め、後半戦で勝負をかけるつもりだったはず。ところが、この週末の鈴鹿にミシュランがバッチリ合った。それ故の優勝でした。本来、BMWワークスドライバーのアウグスト・ファーフス選手がいるときに優勝を狙っていたはずが、そうではないというのも予想外だったはず。
モータースポーツは本当に緻密で、特に今のGT300はそう簡単にいかないレース。勝つコツが分かっていても勝てない。でも勝つときは本当にあっさり。これまでのチームの苦労も見ていただけに、そんなモータースポーツの不思議さ、GT300の不思議さを痛感したのがこのレースでした。(編集部ヒラノ)
■2022スーパーGT第3戦鈴鹿のまとめページはこちら
■第5戦鈴鹿:強豪チーム“5年ぶり”の勝利
コンペティションが激しいGT300クラスの2022年ベストレースを挙げることはなかなか難しいのですが、ゴトー的にはグッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也)が優勝を飾った第5戦鈴鹿が印象に残っています。
2011年、2014年、2017年にチャンピオンを獲得しているGOODSMILE RACING & Team UKYOは、2012年から谷口/片岡コンビで参戦を続け、いまやGT300の顔とも言えるチームになっています。実力派ドライバー+世界中で実績十分のメルセデスAMG GT3+ヨコハマタイヤという体制も万全ですが、ここ数年は勝利がありませんでした。
そして最大のチャンスとなった第4戦富士では、レース前半から首位に立つと、2番手に25秒差の独走態勢でひさびさの勝利へと突き進んでいました。しかし、77周目に突然タイヤトラブルに見舞われてしまい、勝利を逃してしまいました。
そんな失意のレースに続いて行われた第5戦鈴鹿では、予選5番手という「予想外」な好位置を獲得したグッドスマイル 初音ミク AMG。鈴鹿初の450kmというレース距離で行われた決勝でも、早めのタイミングでピット作業を完了すると、ダブルスティントを担当した片岡の頑張りにより、さらに上位へとポジションを上げてきます。
42周目に2回目のピットインを行ったグッドスマイル 初音ミク AMG。早め早めの作戦で谷口にドライバーを交代して「貯金を作ってくれた」片岡への感謝を胸に秘めながら谷口は周回を続け、見事トップチェッカーをうけました。長距離レースでの走りだけではなく、タイヤトラブルに見舞われた第4戦と同じ“早め”のピット作戦を採ったことにもチームの強さを感じました。
レース後には谷口も「今回勝てると思っていなかったので嬉しい誤算」と言っていましたが、実はチームとして結果を残すことができていない鈴鹿での勝利は、チームのみならず、ファンのみなさんにとっても“嬉しい誤算”だったのではないでしょうか。(編集部ゴトー)
■2022スーパーGT第5戦鈴鹿のまとめページはこちら
■第8戦もてぎ:誰も予想できない結末
若手編集部員のうち、年齢は若くない方のカワノです。この企画をやると決まったときから「第8戦もてぎしか思いつかない!」となっていたので、ヒラノ先輩のご厚意に甘えて第8戦を振り返りたいと思います。大会前もポイント表を作ったりもしましたが、個人的にはリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rと、リアライズを2.5ポイント差で追うSUBARU BRZ R&D SPORTの直接対決が繰り広げられると思っていました。
SUBARU BRZ R&D SPORTは2020年第7戦にポール獲得、2021年はフロントロウ2番手とモビリティリゾートもてぎでは予選から速さを見せてきただけに、このレースでもポールポジション候補の筆頭と考えていました。ただ、予選でSUBARU BRZ R&D SPORTがまさかのクラッシュ。一方ポールポジションはARTA NSX GT3の木村偉織が獲得と、土曜日からドラマチックな展開が盛りだくさんでした。
ただ、決勝はそれ以上でした。3コーナーのマルチクラッシュ、セーフティカー中のクラッシュ、リアライズのホイールが外れるアクシデント。そしてヨコハマタイヤを履いたJLOCの2台の好走による、シリーズタイトルの行末の移り変わり。軽々しくは使いたくない『大波乱』という言葉に相応しい一戦だったと思います。決勝中のアクシデントについてはこちらの記事をご覧いただければ幸いです。
ファイナルラップまでタイトル争いの行方がわからない状況となり、結果的にJLOCの2台のランボルギーニの走りがタイトル争いを決する大きな鍵となりました。JLOCはリアライズと同じヨコハマタイヤでしたが、まるで同じヨコハマタイヤのリアライズのタイトル獲得を後押しするかのように、ブリヂストン勢の埼玉トヨペットGB GR Supra GT、ダンロップ勢のTANAX GAINER GT-Rをかわしていく姿は、タイヤコンペティションの激しいスーパーGTらしさを感じる場面だったと思います。
また、タイトル争いに注目が集まった第8戦もてぎですが、ARTA NSX GT3のポール・トゥ・ウインも印象深いです。ベテラン武藤英紀&新人木村と、ドライバーを一新して2022年に臨んだARTA NSX GT3でしたが、第7戦オートポリスまではトラブルやアクシデントが続き、そのポテンシャルを発揮できずにいました。ただ最終戦では強く、そして(レース終盤はあまり公式映像に映らないほど)速かったです。最終戦でGT300初勝利を飾った木村、そして55号車は2023年のスーパーGTへは参戦しませんが、またあの走りを見てみたいと感じさせる走りでした。
2023年シーズンのスーパーGTは4月15〜16日に岡山国際サーキットで開幕を迎えます。いったいどんなシーズンとなるでしょうか。きっと、また誰も予想できない結末と感動が待ち受けていると信じています。(編集部カワノ)