誰も予想していなかった電撃人事により、トヨタ自動車社長の座を後継へ譲ることとなった豊田章男氏。一人のクルマ好き「モリゾウ」としても活躍してきた豊田社長のおよそ14年のキャリアの中から、心に刺さる名言を集めてみた!
文/ベストカーWeb編集部、写真/トヨタ自動車、ベストカーWeb編集部
■リーマンショック後のどん底からのスタート
■就任会見では「嵐の中の船出」
「昨年後半以降、世界の自動車産業は大きな困難に直面しております。当社に関しましては、昨年度は4,610億円の営業赤字となりました。また、今期についても昨年度を上回る赤字を見込んでおり、私ども、この新しいチームは、まさに『嵐の中の船出』であると感じております」
(解説/2009年6月25日、新社長に就任した会見でのひと言。リーマンショックにより世界経済が失速し、どん底からのスタートを切ったが、この会見で早くも「もっといいクルマを作ろうよ」という「ブレない軸」を語り、以降この軸を貫き通した)
■米国公聴会「クルマが壊れることは自分が傷つくよう」
「私は創業者の孫であり、トヨタ車はすべて私の名を冠しています。 私にとって、クルマが壊れているときは、まるで自分も同じように傷ついているようなものです。 トヨタのクルマが安全であること、お客様に安心してお乗りいただけることを誰よりも願っています」
(解説/2010年2月24日、大規模リコールによる米国公聴会でのスピーチの一節。創業家の一員として、トヨタ車の品質に異議が唱えられた現実に心を痛めていた)
■ニュル24時間レースにも果敢に挑戦「道がクルマを作る」
「道がクルマを作り、クルマを鍛え、そして人を鍛える。(中略)もっともっといいクルマを作っていきますから、楽しみに待っていてください」
(解説/2014年3月に公開されたニュルブルクリンク24時間レース参戦動画より。ドライビングスキルやクルマの評価軸を学ぶため、豊田社長は以前からニュルブルクリンクを走ってきたが、大企業のトップが24時間レースに参戦するというニュースは驚きを持って迎えられた)
■決算発表で「私は数値を言いません」
「(数値目標を掲げると)ワンイシューでわっと行ってしまう。私が仮に数値というものを出した瞬間に『それを達成すればいいでしょ』ということになると、次の世代にタスキを渡すときに、刈り取りばかりで耕やす部分や種を撒いた部分がない状態になる危険性があるため、私は数値をいいません」
(解説/苦難の時を経て、2兆2921億円の営業利益を出した2014年3月期決算の時の動画インタビューから。「なぜ台数や収益を目標にしないのか」と問われたときの回答)
■世界一ではなく町一番のクルマ屋になる
■組織改革「サーキットレースからラリーに走り方を変える」
「競争のルール、ライバルが変わる中で、トヨタの舵取りのやり方も変えなければならないとの思いから、従来は4月に実施する役員体制の変更を前出しし、私と6人の副社長を中心とするマネジメントチームを編成いたしました。(中略)いわば、サーキットレースからラリーに走り方を変えるという発想です。
ラリーでは、ドライバーとコドライバーが連携しながら、変化にとんだ実際の道をいかに速く走るかを競います。ドライバーは、コーナーの先が見えていなくても、コドライバーが読み上げるペースノートを信じて全開でアタックします。コドライバーは、これまでの経験や専門性を活かし、『ドライバー目線』で状況を判断し、ナビゲートします。お互いに“命を預けあう”信頼関係がなければ務まらないものです」
(解説/大胆な組織改革を行った2018年3月期の決算会見での言葉。それまでは「トヨタという巨大企業のドライバーズシートに一人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに、お決まりのコースを速く走らせようとサーキットレースをしていた気がする」と語り、成功体験を持つ巨大企業を変えることの難しさを吐露した)
■スープラ復活「トヨタだけが中古車だった」
「ポルシェ。メルセデス。アウディ、フォルクスワーゲン、GMといった他メーカーは2~3年後に世に出すプロトタイプで(ニュルブルクリンクを)走っていました。我々トヨタだけが(すでに生産を終えたスープラという)中古車で走っていたのです。今、やっと旧友に会うことができました」
(解説/2019年1月デトロイトで17年ぶりの復活を遂げたスポーツカー「GRスープラ」を発表した際のメッセージ)
■東京モーターショーでは「ガソリン臭いクルマが好き!」
「僕はね、ガソリン臭くてね、燃費が悪くてね、音がいっぱいでる、野性味あふれたクルマが好きですね。『CASE』とか言ってんですよ立場上。『燃費も大切ですよね、騒音はだめですよね』と言っていますが、心の底ではね、クルマってそういうものなんですよ。古い人間ですけど」
(解説/2019年の東京モーターショーで行われたトークショーでの質疑応答に応えて。世界中のクルマ好きの心をわしづかみにした情熱的なひと言)
■メディアにも苦言「情報によって人を傷つけることもできる」
「要は『言論の自由』という名のもとに、何をやっても批判されるということだと思います。最近のメディアを見ておりますと『何がニュースか? は自分たちが決める』という傲慢さを感じずにはいられません。
『一億総ジャーナリスト』と言われるくらい誰もが情報を発信できる時代です。情報によって人を傷つけることもできれば、元気にすることもできると思います。大切なことは、『その情報を伝えることによって、何を実現したいのか』ということだと思います。もっと言いますと『どんな世の中をつくりたいか』ということです」
(解説/2020年6月の株主総会で株主からの質問に答えて。先期の決算で5000億円の黒字見込みを発表しながら、マスコミが利益8割減を見出しとして報じたことに対して苦言を呈した)
■コロナ禍で「世界一よりも町一番を目指す」
「世界は、これまでにないスピードと大きさで、変化しております。今、起きている変化は、自由主義やグローバル化など、私たちがこれまで常識としてきたことにさえ、疑問を投げかけるものです。
こうした変化にさらされる中で、私自身、想いを強くしたことがあります。それは、『町いちばんの会社』を目指すという考え方がこれまで以上に大切になるのではないか、ということです。『グローバル』や『世界一』ではなく、『町いちばん』。私たちがお世話になっている町で、いちばん信頼され、いちばん愛される会社を目指す。お世話になっている町の人々の笑顔のために仕事をするという考え方です」
(解説/2021年に開催された株主総会でのスピーチ。多くの人がコロナ禍に苦しむ中、自分の足元を見つめる目線が大切だとアピールした)
■ウクライナ危機「誇りを持ってクルマ屋といえる人を育てる」
「今後、私たちの作るものや提供するサービスも変わっていくと思いますが、私は、『クルマ屋』にしか作れないモビリティの未来があると信じております。トヨタの『思想』と『技』をしっかりと伝承し、『あなたは、何屋さんですか?』と聞かれたとき、『夢』と『自信』と『誇り』をもって、『私はクルマ屋です』と答えられる人財を育てることが、私のミッションだと思っております」
(解説/ウクライナ危機により世界の分断が懸念される中で開かれた2022年株主総会でのスピーチ。改めて「クルマ屋」であることの大切さをとき、後継者にも同じ志を持つ人を抜擢すると説いた)
今後はトヨタ自動車の会長となり、佐藤恒治新社長のサポートをするという豊田章男社長。まだまだ大暴れてしていただくことを期待したい!
【豊田章男プロフィール】
1956年5月3日生まれ。父は豊田章一郎、祖父は豊田喜一郎。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、バブソン大学経営大学院修了(MBA)。1984年にトヨタ自動車に入社し、ニューユナイテッドモーターマニュファクチャリング株式会社出向、Gazoo事業部主査、アジア本部本部長、豪亜中近東本部本部長、中国本部本部長などを経て、2009年より同社取締役社長。2023年4月1日を以て同社代表取締役会長に就任予定。
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