テレビ朝日のSDGsの番組の美術セットから出る廃材をアートとしてよみがえらせる取り組み「art to ART Project」とのコラボ企画として、スタジオ収録で使用した「パンチカーペット」といわれる床材をフラワーカバーへと生まれ変わらせたアーティストの吉澤ハナさん。
黒電話や電子レンジなど、使わなくなった家電と植物を組み合わせてアートを作る吉澤さんが考える、廃材の魅力とは。
-小さい頃はどんなお子さんでしたか?
好奇心の強い子でした。テレビのリモコンの中ってどうなってるんだろうとか、炊飯器ってどうして蒸気が出るんだろうとか、気になってドライバーで解体したりして。
-その頃から絵を描いたり工作をしたりしていたのでしょうか?
そうですね。表現することが、ご飯を食べる、睡眠をとるのと同じくらい生活の一部でした。
家に木材や紙、粘土、ブロック、絵の具がたくさんあったんです。綺麗な資材じゃないんですよ。お菓子の空き箱とか、食べたプリンの容器とか、身の回りのものを親がどっさり用意してくれていて、その日の気分で引っ張り出して、絵を描いたり工作をしたりしてました。
3人姉妹なんですけど、みんなで遊ぶというより物を作ったり本読んだり、手を動かすほうが好きでしたね。
-学校は美術系というわけではなく?
はい。小学校は家の近くで、中学校も学区内。高校は制服がかわいいっていう理由で商業高校に(笑)。そのあと美容系の専門学校に行きました。ネイルとかメイクとかヘアとか色々選べるんですけど、途中で辞めてしまって。
-その間も家では作品を作っていたんですか?
専門学校に通いはじめた頃は手を動かしていなかったです。ちょうどこの頃、生きづらさを抱えていた時期で、学校に通うことが難しくなっていました。
子どもの頃って自我が薄くて、世界との境界線がぼやーとしていたんですけど、成長したら逆にいろんなものがはっきり見えてきちゃって。
具体的には外に出るのがしんどくなったり、大勢の人のなかに入るのが苦しくなったり。電車に乗るのも、閉鎖的なコンパクトな空間に閉じ込められるのがダメになってしまって。
-作るのが好きだったはずなのに、気持ち的にきつかったんですね。そこから作品が世間の目に留まるのは、どんな流れだったんでしょう。
高校卒業と同時に家を出て一人暮らしをしていたので、紙や画材を買うお金もありませんでした。でも、なけなしのお金で白と黒の2色の絵の具を買って、たまに窓から見える月の絵を描いていました。それが10代の終わりくらい。
20代に入った頃にSNSが流行りだしたので、描いていた絵をTwitterで投稿してみたんです。そうしているうちに「ギャラリーで展示しませんか?」と声をかけていただいたり、取り扱い作家として登録していただいたり、個展やアートフェアに出展するようになりました。
-2015年頃から作品作りに力を入れていったんですね。廃材を使った作品もこの頃からでしょうか。
そうですね。最初は絵を描いていたんですけど、廃材は小さい頃から好きだったので、廃材を集めてグルーピングした作品を作りはじめました。
最近はSDGsという観点がありますけど、私のなかではそういう注目の仕方ではなかったんですよ。リサイクルアートというより、好きだから素材として使うっていう、シンプルな気持ちでした。
-吉澤さんは廃材のどんなところに惹かれるんですか?
廃材って過去をまとっていると思うんです。破れたボール、使わなくなったピアノ、壊れた電話機、そういう廃材を見るたび、こんなふうに使われてたのかな、こういう場面があったんじゃないかなといろんな想像を掻き立てられる。そこに自分の思い出はなくても、過去を象徴しているなと思って。そこがテーマのひとつになっています。
-廃材に限らず、過去から現在に至るまで、素材や手法も多岐にわたっているなという印象があります。
幅を狭めたくないなという気持ちがあるんです。
一時期、デザインの制作会社を立ち上げるために作家活動をお休みしていたんですけど、活動を再開させたときに、一回自分の視野を広げようと思ったんです。それが兵庫六甲ミーツ・アートに参加する少し前のこと。陶芸をしたり結晶を作り出したり、やれそうなことは全部試しました。ボツになった作品もたくさんありますけど、その経験によって引き出しがぐんと増えたので、今の制作に生きているなと思います。
-現在大阪・今里のJITSUZAISEIで開催されている「SCRAP and MASQUERADE」では、廃材とガラス、ふたつの作品群がありますね。
それぞれに作品としてアウトプットされるまでの思考プロセスの違いがあって、二部構成の展示になっているんです。ガラスの作品は、モチーフそのものにメッセージを込めています。自分の伝えたいテーマや思想が明確にあって、たとえばガラスと蚕を一緒に展示することで、蚕というモチーフに意味を持たせたり。これが「滅びの晩餐」を含めた、これまでの過去作品の作り方です。
そして廃材を使ったこれからの新作は、モチーフ自体に意味を置くのではなく、廃材と呼ばれる素材を使うこと自体に意味を持たせた作品になります。
つまりモチーフから素材にアプローチが変わったんです。今までにやったことのないやり方なので、私にとっては大きな変化でした。この変化を今回の個展では活動の節目として見ていただきたかったので二部構成にしています。
-なにか心境の変化はあったんでしょうか。
10年くらい活動を続けてきて、しんどいことのほうが多かったんですよ。表現には答えがないですし、内省して、自分と対話して、を続けるのはすごく孤独で。美大を出ていないこともコンプレックスで、“コンテンポラリー”の領域じゃないと自分は表現してはダメなのかなと葛藤して、モチーフにしっかりメッセージをのせよう、意味をつけようってガチガチに固めて作っていた時期もありました。
でも、この廃材の新作を作ってからは弾けたというか、一周まわって楽しく作れたらいいやって思えるようになったんです。自分のなかから素直に出たものを作って、誰かがそれに価値を感じてくれたり、いいなと思ってくれたりしたらそれが一番いいことじゃないって。
-現在テレビ朝日の「art to ART」の取り組みにも参加いただいて、使用済みのパンチカーペットで作品を作っていただきました。
床に引く素材で、けっこうしっかりした生地なんですよね。ペイントするだけだと「吉澤ハナ」として作る作品としては違うなと思って、フラワーカバーを作りました。切って、端を縫い合わせて筒状にして、500mlのペットボトルの上からスポッと被せる。ペットボトルに花を挿したら花瓶になるよっていう作品です。
-じゅうたんの質感にピンクの色合い、そして植物の緑が絶妙に合いますね。
過去の象徴である廃材と、未来の象徴である植物を組み合わせることで、明日を生きるヒントというか、言葉にできない生きるための力を感じてもらえたらと思っているので、絶対に植物を使う必要があったんです。
-廃材と同じく植物が大事なんですね。
そうですね。人の手で作られた人工物と自然に対比を感じるので、そこを交わらせたいという思いがありますね。
小さい頃から石や、鉱物などの動かない自然物が好きで、廃材同様よく絵や立体物のモチーフになっていました。
-カラーリングはどうやって決めたんでしょう。
色はその日のインスピレーションで決めています。塗ってから切り抜くので、ひとつのパンチカーペットから生まれたフラワーカバーは兄弟(笑)。
また、素材をいただいてから色を考えるので、シリーズみたいに作っていけたらおもしろいかなと思っています。
-今後の作家活動は?
空間演出がやりたいので、今後はもっと作品量を増やしてインスタレーションをやっていきたいというのがあります。電話をはじめ、廃材として使う家電は一つひとつが小さいので、まずはある程度の空間をしっかり埋められる作品量を作って、空間を活かした展示ができたらと思っています。
-引き続き廃材は使っていくわけですね。
そうですね。今回の展示では白一色ですが、カラフルな作品もこれから出していきたいと思っています。またその時々の状況や環境によって違う手法も試すと思います。今は、常に等身大を見せていきたいです。
吉澤ハナ
よしざわ・はな|1988年、滋賀県生まれ、京都府在住。2015年から個展やアートフェアなどを中心に精力的に活動を行う。2018年に月刊『アートコレクターズ』4月号「驚きの新人・必見の若手 いま出逢える230人」に選出。2022年、兵庫六甲ミーツ・アート 芸術祭「Unknown Asia 2022 レビュアー賞」入選。現在大阪・今里のギャラリーJITSUZAISEIにて個展「SCRAP and MASQUERADE」を開催中。会期は2023年1月8日(日)〜2023年2月12日(日)、火・水休。
https://www.jitsuzaisei.com/