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1972年にアントニオ猪木さんによって創設され、今年2023年に51周年を迎える新日本プロレス。

1月4日に開催された大会『WRESTLE KINGDOM 17 in 東京ドーム』では、新たなガイドラインのもと、会場での“声出し応援”が可能になった。

この新しいガイドラインは、選手名のコール、決めゼリフ、ブーイングなど、従来のプロレス観戦で想定されるほとんどの発声が可能となり、1.4東京ドーム大会から適用された。

2020年は新型コロナウイルスの影響で多くの大会が中止になり、6月に無観客からはじめ、7月に有観客を再開。そこから2年半が経ち、これまで声出し無しなら100%収容、声出しありなら50%収容で大会を開催できるところまで戻ってきていた。

◆“声”の戻った東京ドーム

そんな新たなスタートを切った1.4東京ドーム大会は、2022年10月1日に亡くなった猪木さんの追悼大会と銘打たれ、それぞれのレスラーが“闘魂”を胸にリングで熱い闘いを繰り広げた。

この2年半、選手がどんなに素晴らしい技を決めても、拍手で称えることしかできなかったのがコロナ禍におけるプロレス応援スタイル。

それが抜け切れていないのか、いきなり今大会から「声出しOK」と言われても最初のうちはこれまでと変わらない反応の観客が多かったように思える。

しかしそれも大会が進むにつれ、観客にもレスラーたちの“闘魂”が伝わったのか、少しずつ漏れだす声や拍手以外の反応も増えていった。

そして最終第9試合、リングにはいまや団体の顔とも言える存在となったオカダ・カズチカが挑戦者として登場した。

この日のオカダは白いガウンに黒いパンツ、首には赤いタオルを巻くという、誰が見ても猪木さんを意識したとわかる格好でリングイン。

IWGP世界ヘビー級王座の懸かったこの試合でも、猪木さんを彷彿させる技・延髄切りが見られたり、鬼の形相で相手に立ち向かう姿勢には、まさしく“燃える闘魂”の一端を感じさせた。

試合はオカダ・カズチカが渾身の必殺技レインメーカーを決め、粘る王者ジェイ・ホワイトから3カウントを奪取。見事2度目の世界ヘビー戴冠を果たす。

◆オカダ・カズチカが見せた“涙”の理由

試合後、激闘を制したオカダがリング上でまず語ったことは、“ファンへの感謝”だった。

「熱い声援、本当にありがとうございました! 声援の力がすごいパワーになりました。そして、新日本プロレス50周年、1年間本当にありがとうございました」

ここでオカダは涙ぐむ。それは念願の王者に返り咲いた喜びだけではなく、さまざまな想いが込められた涙だ。

2022年の東京ドーム大会、そのときもIWGP世界ヘビー級王者となったオカダだが、試合後のマイクパフォーマンスでは複雑な胸中を吐露していた。

「俺、やっぱり声援のある中で試合がしたい。もう無観客に戻りたくないし、しっかりみんなの前で闘っていきます!」

ファンの声がある中で闘いたい。その想いを人一倍抱えていたオカダだからこそ、声出し可能になった大舞台での試合は意義のあるものになっていた。

それは今回の試合中にもあらわれる。幾度となく猛攻を浴び、劣勢に立たされていたオカダ。しかし大技をくらうたび、倒れるたびにどこからともなく「オカダー!」という声援が聞こえてくる。

その声は確実にリングで闘う選手のもとに届き、試合が進むにつれてオカダへ声援を送るファンも1人、また1人と増えていった。

試合自体はひとつ前に行われたウィル・オスプレイvsケニー・オメガのほうが会場をどよめかせていたかもしれない。しかし、オカダvsジェイの試合のほうが会場一体となってオカダの背中を押しているように感じられた。

「これだけお客さんが入って、試合ができて本当によかったです。そして猪木さん、僕たちの闘いは届きましたか?

まだ50周年に来ただけなんで、猪木さんが作った新日本プロレスを、闘魂をどんどん受け継いで、100年、200年、新日本プロレスが続くようにまだまだ盛り上げていきます!」

今度は猪木さんへの想い、そして猪木さんが立ち上げた新日本プロレスへの想いを口にする。それはこの1年間、新日本プロレス50周年を背負ったオカダだからこそ言えた言葉だった。

「これからはじまる51周年、こんなもんじゃないですよ。50周年を越えて、もっともっと素晴らしい新日本プロレスを皆さんにお届けします。そして天国の猪木さんにもお届けします!

皆さんが応援してくれる限り、新日本プロレスを愛してくれる限り、まだまだ新日本プロレスは続いていきます。

そして、この俺がIWGP世界ヘビー級チャンピオンでいる限り、51周年の新日本プロレスに、カネの雨が降るぞ!」

力強く、自身の決め台詞で締めくくった今大会。

鳴りやまない拍手を受けながらオカダが花道を後にしていると、王者は突然立ち止まって再びマイクをつかむ。

「…猪木さんの追悼興行なのに、このまま終われないでしょう。せっかく声が出せるのに、このまま終われないでしょう!

やりますか皆さん、猪木さんに届けましょう!

猪木さん、新日本プロレスを作ってくださり、本当にありがとうございました!

行くぞー! 1、2、3、ダー!」

ファンと一体となった咆哮が東京ドームにこだまし、アントニオ猪木さんのテーマ曲とともに幕を閉じた追悼大会。

ご時世であることを束の間忘れ、隣の人たちと一緒になって拳を上げ叫んだ日本一有名な掛け声。その響きに鳥肌が止まらず、帰りの電車の中でも頭の中では「1、2、3、ダー!」が鳴り続けていた。

今後の興行は会場ごとに「声出し応援可能な大会」や「声出し応援可能エリア」を設置するなど、完全に元の環境に戻るのはまだ少し先かもしれない。

しかし、久しぶりに声の戻った東京ドーム大会をきっかけに、プロレスファンたちにも“闘魂”が再燃したに違いない。