2022年、F1技術レギュレーションが一新されるにあたり、各チームの序列がリセットされ、新たな戦いが見られることが期待された。結果的にトップグループではレッドブルが独走し、フェラーリとメルセデスは大差で敗れることになった。なぜ彼らは大敗したのか。また、中団以下のチームは、なぜ上位争いに挑むチャンスをつかめなかったのか。その背景を、F1ジャーナリスト、サム・コリンズ氏が分析した(全3回)。第1回はフェラーリに焦点を当てた。
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■「2022年の目標はタイトル獲得ではなかった」と主張するフェラーリ
フェラーリは、そもそもF1タイトル獲得を2022年の目標に掲げていたわけではないのだと、主張している。シーズンスタート時点では、F1-75の方がレッドブルRB18よりわずかながら優れており、全体のベストマシンだったにもかかわらず、フェラーリは、何がなんでもチャンピオンになるという意気込みを持って2022年シーズンに臨んだわけではなかったというのだ。しかしそうだとしても、最終的なポイント表を見て、チャンピオンのレッドブルとの差は予想以上に大きかったと思っているのではなかろうか。
マックス・フェルスタッペンは、鈴鹿で2022年ドライバーズタイトルを確定させた。だがシーズン序盤のフェラーリふたりの強さからして、本来なら、ドライバーズチャンピオンがこれほど早く決まるはずはなかった。
2022年末でスクーデリア・フェラーリのチーム代表の座から退くマッティア・ビノットは、以前、次のように語っていた。
「我々が2022年に掲げた目標は、競争力を取り戻すことだ。従って、我々の目標は競争力を高めることであって、チャンピオンシップを勝ち取ることではないのだ。『競争力が高いからチャンピオンシップ獲得を目指そう』と目標を変更するのは完全に間違ったことだ。競争力が高いというのはひとつの事実であり、世界チャンピオンになることは、それとは異なる次元の課題である」
「かなり早い段階で我々の競争力が非常に優れていることが分かったが、だからといってすぐさま目標をチャンピオンシップ獲得に設定し直していたとしたら、それは間違っていた」
「そういう期待はしていない、あるいは目標にしていないと言うことにより、チームからある程度プレッシャーを取り除くことになるだろう。同時に、ひとたび経営陣として目標を言葉にしたなら、チームに対して示した目標を途中で変更するのは間違ったことだと、私は思う」
「そうではなく、我々がやろうとしたことは、ワールドチャンピオンになるというサイクルを作り始めることだった。つまり、タイトルを一度だけ獲得するのではなく、そこにとどまり、タイトルを獲り続けられる状態を目指すわけだ。だが、それにはより一層時間がかかる」
■長期政権を目指す開発方針。PUはパフォーマンス重視で信頼性を犠牲に
ビノット自身はチームを離れることが決まってしまったが、フェラーリにとって2022年の最大の収穫のひとつは、ビノットがかつて担当していたパワーユニットの優秀さであることは明らかだ。
“スーパーファスト”と呼ばれるフェラーリ066/7は、今も明かされていない多数の革新的技術が導入された燃焼室、改良されたハイブリッドシステム、修正されたレイアウトにより、昨年と比較して大きな前進を遂げた。
「パワーユニット・チームの努力は本当に素晴らしいものだった。前進の約75%はエンジンから、残りはエネルギーリカバリーシステムから得られた。この25年、これほど大きな改善を見たのは初めてのことだ」とビノットは説明している。
フェラーリのパワーユニットは、最高出力においてはホンダにわずかながら劣るものの、トルクが非常に優れており、オールラウンドなパフォーマンスを持っていることは明らかだった。だが、ひとつ大きな弱点があった。その弱点こそが、レッドブルをプッシュし切れなかった最大の要因のひとつであることは間違いなさそうだ。
066/7は何度もブローした。とことん信頼性の低いパワーユニットで、高温のコンディションでしばしば壊れ、それによってフェラーリは何度か優勝を逃がすことになった。メキシコGPを含む何戦かで、フェラーリは、ターボチャージャーの故障を防ぐために、パワーユニットの出力を落とさざるを得なかった。
救いようのない状況に思えるかもしれない。だが実際には、フェラーリにとっては完全に予想していた事態であったことから、むしろ非常に賢い作戦だったということにもなるかもしれない。パワーユニットの仕様は2022年型に基づいて2025年まで凍結されるため、PUパフォーマンスを改善する機会は、2026年に新世代パワーユニットが導入されるまでの間は、基本的には存在しなくなる。だがフェラーリはレギュレーションの抜け穴に注目し、信頼性を無視して性能を追求することに決めた。パワーユニットの開発は凍結されても、マニュファクチャラーは信頼性向上のための開発を続けることはできる。そのため、フェラーリは今後も、ライバルとは異なり、パワーユニットを大きく進歩させることができるわけだ。
「確かに我々は、信頼性よりもパフォーマンスを優先した。ダイナモテストに制限があるためだ」とビノットは認めた。
「その制限はリザルトに影響している。9月、10月、11月、12月に何を開発するかを自分自身で選択する必要がある。やりたいことすべてができるわけではないからね。そこで我々はできる限りパフォーマンスを優先することにした。信頼性のための通常のプランを超えて、パフォーマンスの限界を押し広げたわけだ。信頼性については、後から修正できると分かっていたからだ」
F1-75は低速コーナーでの性能が非常に優れており、シーズンの大部分のグランプリにおいて、この点では他チームのマシンに対して圧倒的優位を示した。それは066/7のパワーデリバリーがトップクラスだったからだけでなく、マシンの空力コンセプトの力もあった。
フェラーリとレッドブルは、全く異なるアプローチでマシンを設計していた。フェラーリは平均速度が低いコースに合わせて最適化されており、レッドブルはサーキットの高速コーナーで強かった。ツイスティなセクションではフェラーリは無敵であり、ストレートラインでレッドブルにかなう者はいなかった。
だが、ザントフォールトでのオランダGPを迎えるころには、そのバランスに変化が現れてきた。理論的にはフェラーリに有利なはずのサーキットレイアウトで、レッドブルの方が速さを発揮するようになったのだ。
ここでF1-75に関するもうひとつの弱点が浮上した。大部分のチームがシーズンを通してマシンに多数の空力アップグレードを入れ続けていたのに対し、フェラーリはほとんどアップデートを行わなかったのだ。後にこれはコストキャップの影響だったことが判明した。フェラーリは2023年型マシンの設計とのバランスから、2022年マシンの開発に割り当てられる資金がなくなってしまっていたのだ。
これもまた、フェラーリが2022年から2025年の期間全体を支配するために、2022年シーズンを犠牲にするという選択を行った影響と思われる。この選択が報われて、2023年にフェラーリのアドバンテージへとつながる可能性はある。
■トップ交代が2023年のパフォーマンスに影響する可能性
だが、そのためには、フェラーリには、2023年に向けて改善すべき大きな問題点がもうひとつある。それはレース戦略の弱さだ。2022年、フェラーリはこの部分においてひどい過ちを何度も犯し、パドックの笑いものになった。ピットストップのミス、タイヤ選択の失敗、全体的なレース戦略の誤りにより、シャルル・ルクレールもカルロス・サインツも、シーズンを通して大量のポイントを失った。レッドブルとフェルスタッペンは、いずれにしてもタイトルを獲得しただろうが、フェラーリのミスがなければ、これほど楽にダブルチャンピオンの座をつかむことはできなかったはずだ。
結局ビノットにとって、2022年がフェラーリでのラストシーズンになってしまった。F1で最も有名なこのチームは、2023年には新しいチーム代表とテクニカルディレクターをトップを迎え、体制変更を行わなければならない。これは少なくとも2023年シーズンのパフォーマンスに関しては、非常にネガティブな影響をもたらす可能性があるだろう。