ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第十五回目となる今回は、2023年1月のCES 2023が示した「我々の愛車」の未来について、ソニー・ホンダモビリティが発表した「AFEELA(アフィーラ)」プロトタイプが示す可能性について綴る。
※本稿は2023年1月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/ソニー・ホンダモビリティ、SONY ほか
初出:『ベストカー』2023年2月26日号
■「自動車の未来図」の具体化を感じさせたCES
米国ラスベガスで開催されるテクノロジー見本市「CES」を訪問取材しました。
そこでは、モバイル(スマートフォン中心)からモビリティ(ソフトウェア定義のEV中心)へ、主役が大きく変わったCESを目の当たりにすることとなりました。
2023年のCESでは巨大なウェストホールが新設され、自動車テクノロジー企業の出展を集約させたことで、まるでモーターショーの様相を呈していました。
実際、出展企業3200社のうち、300社以上が自動車テクノロジー企業となっています。
2018年頃から自動車産業のデジタル革命を表す「CASE」という言葉が汎用されてきました。しかし、自動運転のロボタクシーなどはわかりやすいのですが、我々の愛車がどのように変わっていくのかという実感は乏しかったのではないでしょうか。
2020年頃にはぼんやりとしか見えていなかった自動車の未来図が、今、いよいよ具体化してきています。それこそが、「ソフトウェア定義車」(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)と呼ばれるSDVの世界です。
■SDVが変えるクルマの未来
CASEとは、デジタル化、知能化、電動化という3つの技術革新を原動力に、クルマの価値が「所有」から「利用」へ移行していく、いわゆる「モビリティトランスフォーメーション(MX)」が世界観にあったと言えます。
MXはクルマの保有構造を大きく変えます。
「作って儲け、売って儲け、直して儲ける」自動車産業の時代が終焉を迎える前に、自動車メーカーは製造業からモビリティ産業への転換を急ぐことが命題となっていたわけです。
しかし、自動車産業の未来はロボカーに置き換わるような単純なものではなさそうです。
2020年を境に、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)を実現し、持続可能な社会を目指す「グリーントランスフォーメーション(GX)」がモビリティの重要な責任に加わりました。EVを普及させ、循環型のビジネスモデルを実現させることが求められているのです。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、人々の移動要件・移動頻度の変化に加え、ユーザーのデジタル指向を生み出しました。
これがデジタル技術を社会に浸透させて、人々の生活をよりよいものへと変革することを目指す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の起爆剤となったのです。
「GX」を実現するためにはEVシフトが欠かせず、EVの普及が「DX」を実現するデジタル基盤となるわけですが、2020年以降の自動車産業において、CASEはCASE 2.0へとアップグレードされ、「MX」「GX」「DX」が激しく同時進行することになっていきます。
この変革を実現する技術がソフトウェア定義車(SDV)であり、SDVは今回のCESのキーワードであったと感じます。
■アフィーラの評価はふたつに分かれる
SDVを実現するためにはクルマの抜本的な構造をOSレベルから再設計し、土台となる電子プラットフォームから物理的なプラットフォームまでを一新することになります。
クルマのアーキテクチャはスマートフォンのような構造に変わり、アプリケーションを経由してさまざまなサービスを得られるサービス指向の製品に進化していきます。
その先には、SDVがスマートモビリティとスマートホーム、スマートシティなどの社会インフラとの相互データ連携を実現する未来があります。
そのSDVを実現しようとしているのが、ソニー・ホンダモビリティがCESで発表した「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプです。
やや張りぼて感がぬぐえなかったビジョンS(2020年公開)と比較して、建付けのよいしっかりとしたプロトタイプに進化していることを実感しました。
「無垢」という言葉がぴったりのシンプルなエクステリアとインテリアをあえて採用し、その中心にドンと映画やゲームのエンタメを重視したパノラミックスクリーンが位置します。
エクステリアはかなり実車に近いイメージではないかと思います。一方、提供される顧客体験(CX)にはエンタメ以外の目新しい打ち出し感が乏しく、魅力が今ひとつわかりづらいところもあるようです。
合弁設立からわずか1年でここまで来たと評価するか、発売まであと3年でこの程度しかできていないと批判するかの意見は割れるところではないでしょうか。
アフィーラのコンセプトである3つの「A」、Autonomy(自律性)、Augmentation(身体・時空間の拡張)、Affinity(協調)のうち、はっきりと見えたのはレベル2+から3で運用する「自律性」の部分だけ。
このブランドの勝負どころである「身体・時空間の拡張」に関しては、手の内をほとんど明かしていないように見えます。
ソニーが得意とする時空間の拡張、ホンダが得意とする身体の拡張をこの先3年間でどこまで具現化できるのか、興味が尽きないのです。
SDVへのアプローチは、IT企業らしい飛び道具的なSDVもあれば、メルセデスやBMWが目指す伝統的自動車メーカーならではの安心・安全重視のSDVも生まれてくるでしょう。
ソニー・ホンダモビリティの面白さとは、IT企業と伝統的自動車メーカーのいいとこ取りを実現できるところだと考えています。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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