ほぼ壊滅状態のセダンながら、未だに教習車には当然のように採用されている。そろそろコンパクトカーとかに変わってもいいような気がするけど、もうよくない!?
文:山本晋也/写真:ベストカーWeb編集部
■教習車=セダンのルールはなかった!! 違うルールが!!
遠くない未来に新車ラインナップからセダンが消滅してしまうのではないか、といわれるほどセダンカテゴリーのモデルは激減している。それにもかかわらず、いまだに自動車学校で使われている教習車はセダン型が基本。
すでに日本の自動車メーカーが用意している教習車専用モデルというのは、トヨタ(カローラアクシオ・ベース)とマツダ(東南アジア仕様のMAZDA2のセダン)くらいになっているが、そのいずれもがセダン型なのは教習車としてセダンであることが定められているからなのだろうか。
たしかに巷の声を見聞きしても「トランクがあるセダン型でないと教習車として認められない」、「教習車のルールを定めた時代にはセダン型が乗用車の基本だったから」などなど、もっともらしい意見は多く流布されているようだ。
結論からいえば「教習車はセダン型でなければならない」という基準は存在していない。
■厳しいサイズ規制が存在!! 軽自動車は絶対ダメ
実際、トヨタ プリウスは教習車として見かける機会も少なくないが、プリウスには独立したトランクは存在していないので、厳密にはセダンとはいえないボディ形状だ。
ハッチバック型ボディでも教習車になれるのだとすれば、たとえばトヨタでもっとも売れているヤリスを教習車にしてもいいような気もしてくる。
しかし、ヤリスを教習車にするのは難しい。なぜならボディが小さいクルマは教習車としては認められないからだ。
事実上、教習車に求められる要素というのは、道路交通法によって定められている。同法・二十四条には、運転免許の技能試験において使うべきクルマの大きさなどが定められている。多くのユーザーが取得する「準中型免許及び準中型仮免許」の技能試験に用いるべきクルマの条件を引用すると以下の通りだ。
最大積載量2000キログラム以上の準中型自動車で長さが4.40メートル以上、幅が1.69メートル以上、最遠軸距が2.50メートル以上及び前軸輪距が1.30メートル以上のもの
ボディサイズに関わる部分を見慣れた数字で書き直すと全長4400mm以上、全幅1690mm以上、ホイールベース2500mm以上、前トレッド1300mm以上となる。
全長やホイールベースが短いと取り回しが容易になってしまうため公道を走行するのに必要なスキルを身につけているかを確認するには不足。かといって極端に大きなクルマで技能試験をするのも非現実的。ということで、こうした基準があるといえる。
当然ながら自動車学校で使う教習車も、この基準を満たしていないといけないため、コンパクトカーや軽自動車を教習車にすることはできないのだ。ちなみに、前述したヤリスのボディサイズは(全長3940mm×幅1695mm×ホイールベース2550mm。前トレッドは1480mm)で、惜しくも全長が基準を満たしていない。道路交通法的にいっても教習車としては不適格というわけだ。
■CX-5でもいいけど……ほどよいサイズが鉄則
では、SUVやミニバンなど実際のマーケットで主流となっているカテゴリーでは、どのようなモデルであれば教習車の基準を満たせるのだろうか。全幅とホイールベース、トレッドについては登録車であればほとんどのモデルがクリアしているので、問題となるのは4.4m以上という全長だろう。
SUVカテゴリーのトヨタ車でいうと、ヤリスクロスやC-HRは全長が足りない。カローラクロスが全長4490mmでクリアしているが、全幅1825mmと広すぎるのは初めて運転するクルマとしては難易度が高すぎるといえそうだ。
マツダのSUVを見ても、CX-30やMX-30はいずれも全長4395mmでギリギリ足らないため、教習車として使えそうなのはCX-5となってしまう。こちらも全幅は1845mmもあるので、やはりワイドすぎるといえる。
かつて5ナンバーサイズ・セダン「グレイス」をベースにした教習車を用意していたホンダにしても、人気SUVモデルのヴェゼルは全長4330mmと少々足りない。ひとクラス上のZR-Vになれば全長4570mmと条件を満たすが、やはり全幅1840mmというのは広すぎるのだ。
■新型ステップワゴンでもOKだった!!
ミニバンカテゴリーでいえば、ステップワゴンはボディの見切りがよく、全幅も1750mmとさほど広くない。教習車として使えそうな印象もあるが、全長4800mmと長いのは教習車として考えると大きなウィークポイントだ。
ホイールベースが基準よりかなり長くなっているのも縦列駐車などの教習プログラムにおける難易度が上がり過ぎるといえそうだ。ちなみにホンダ ステップワゴンAIRは全長4800mm×全幅1750mmでホイールベース2890mm。前トレッドは1485mm。同様のことは、トヨタや日産のMクラスミニバンでもいえる。
また、ホンダ フリードやトヨタ シエンタといったコンパクトなミニバンでは全長の条件を満たせないため、教習車にすることは難しい。
現在、教習車を用意していないメーカーでいえば、スバル クロストレックはコンパクトなボディで教習車に向いていそうなサイズ感だが、それでも全幅は1800mmとなっているのは気になるところ。
■サイズに取り回しを考えるとJPNタクシーが最適か!?
結局、道路交通法で全幅の基準が1690mm以上と定められていることから、5ナンバーサイズのモデルが教習車としてふさわしいということになり、5ナンバーで全長4.4m以上という条件を満たすためにはトランクを持つセダン型になってしまう、というのが実情だろう。
もしセダン型でない教習車が生まれるとすれば、その有力候補といえるのがトヨタのタクシー専用モデル「JPN TAXI」だ。そもそもフリート向けのモデルという点、ランニングコストに有利なLPG仕様というのは教習所にも向いている。
さらにいえば全長がギリギリで4.4m以上、全幅も1700mm以下の5ナンバーサイズとなっているのも教習車にふさわしいといえるポイント。ちなみに全長4400mm×全幅1695mmでホイールベース2750mm、前トレッド1485mmと基準に適合するのだ。
かつて、実質的にトヨタのタクシー向けモデルとなっていた「コンフォート」が全国の自動車学校で教習車として愛用されていた時代がある。その流れを汲んだJPN TAXIであるからして、将来的には教習車として活用されることがあり得るかもしれない。
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投稿 そろそろ変えても……なぜ教習車はセダンが当たり前なのか は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。