累計発行部数5500万部を超える伝説のクルママンガ『頭文字D』。クルマ好きの若者たちはこれを読み、古き良きスポーツカーに昂り、峠へと繰り出した。2020年には新装版も発売され、連載終了からおよそ10年が経過しようとしている現在でもその熱は冷めやらず、当時のクルマたちは中古車市場においても高い人気を誇る。
本稿では、同作に登場した人気車をピックアップし、連載当時は詳しく語られなかった、各車の仕様(グレードやボディカラー)、カスタマイズ、チューニングの変遷などを紹介していく。第3回となる今回は、本作の影の主役ともいうべき人物、高橋涼介の愛車であるRX-7(FC3S型)を取り上げたい。涼介とFCのバトルシーンはそれほど多くなく、物語の重要なアクセントとなっていたが、果たしてどのような進化を遂げてきのただろうか。
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
■純正に近い姿は涼介の性格を表す?
FC3S型のRX-7は、RX-7としては2代目モデルで、搭載されたロータリーエンジンとともに世界的に注目を集めたスポーツカーだった。作中では高橋兄弟の兄、高橋涼介の愛車として登場し、まるで弾丸のような塊感のあるスポーティなスタイリングとともに高い人気を博した。
作中に初登場したのは、Vol.1「ハチロク買おーぜ」の最終盤。赤城レッドサンズの面々が秋名山へ遠征してきた場面である。この時、レッドサンズはFD(FD3S型のRX-7)を先頭に押し出して走行しており、FCは2番手でチラチラと見える程度であった。
その姿が明確に描かれるのは、Vol.2「最速!! ロータリー・ブラザーズ」だ。秋名山での練習走行を終えた高橋兄弟が、秋名スピードスターズの実力について語る場面。FCのボディカラーは白で、純正色に照らし合わせるなら「クリスタルホワイトパールマイカ」である。紙面はモノクロであったためこの時点では判明していなかったが、のちに高橋涼介の異名が「赤城の白い彗星」であることがわかり、白いボディカラーだと確定される。
エクステリアを見ると、エアロバンパー、サイドスポイラー、リアウイングなどが見られるが、どれも後期型の純正エアロパーツと思われる仕様だ。唯一、エアロミラーは社外製のようで、なだらかな流線型のものが取り付けられている。また、ドアには複数のパーツメーカーの(?)ステッカーが貼られており、これは当時の流行りを反映したものである。
リアフェンダー上には「RedSuns」とチーム名のステッカーが貼られている。峠で走り屋がこれを見たら、「あの赤城レッドサンズのRX-7だ!」と恐れおののいたに違いない。また、マフラーもかなり大きめの排気口になっていて、社外パーツを取り付けてたようだ。
初登場時からホイールは5本スポークのパナスポーツ風デザインのものを装着していたが、妹の緒美(つぐみ)を迎えにきたシーンでは、6本スポークのホイールに変わっている。家族とはいえ女性を乗せるときは、乗り心地を気にしてタイヤ&ホイールを変更したのだろうか。拓海へのバトルの誘いを花束とともに送るくらいのキザな男だからやりかねない(笑)。
■こだわりを捨ててセッティングを変更する
FCにとっては作中で初バトルとなった、拓海との一戦を前にして、エンジンと足まわりのセッティングを変えている。なんとそれまで340psを発揮していた涼介のFCはデチューン! 涼介曰く「MAXで260馬力前後ってとこかな……」とパワーダウンしている。
というのも、従来は上りでも下りでもトータルに速いクルマを目指してセッティングしていたが、今回は下りでハチロクに勝つためにパワーではなくトータルバランスを取った形だ。ここに関しては涼介も「プライドをかなぐり捨ててでも負けるわけにはいかない」と発言しており、その走りを目の当たりにした弟の啓介も「コーナーの脱出速度は上がっている」と言った。
そしてバトル当日、秋名山に姿を現したFCは、さらにルックスが変化していた。フロントバンパー下部のリップスポイラーがさらに低姿勢なものへ変更され、ナンバープレートもオフセット装着された。これによって空気流入量を増やして、エンジン冷却率をさらに高めようという狙いだろう。また、車体後方を見ると、マフラーも右出しから左出しへと変更されている。別のパーツメーカーのものが採用されたのだろう。
バトル前に記されたスペック表を見ると、「エンジン内部はノーマル、スポーツコンピューター、EVCで設定ブースト0.9kg/cm2、追加インジェクターなし、ブローオフバルブ、ツインプレートクラッチ、80パイマフラー、MAX出力280ps(推定)、トータルキャンセラーはFCの常識」となっている。これを見て、愛車のセッティングを考えて人も多いのでは?
また、このバトルでは走行中のインテリアが見えるが、純正から変更しているのは、バケットシートとステアリング(MOMOレーシング風)とシフトノブ程度か。拓海のハチロクのようにドリンクホルダーすら付けていないのは、涼介らしい潔癖さと言えるかもしれない。
■物語のクライマックスで最終進化形に!
FCの2回目のバトルとして描かれたのは、「エンペラー」須藤京一のランエボIII戦である。真っ先に目につくのがホイール。RSワタナベ風デザインの8本スポークのものが採用されている。きっと4WDのランエボに対抗するための狙いが隠されているのだろう。結果、スペックの勝る相手に対して華麗なる勝利を収めている。
その後、涼介がプロジェクトDのリーダーとしてドライバーから身をひいたために、しばらく作中にFCが登場することはなくなってしまう。しかし物語終盤、北条凛の駆るスカイラインGT-R(R32型)とのバトルを志したところで久々にその勇姿を現すと、ドアミラーを純正と思わしきスタンダードなタイプに戻している。
そして運命のスカイラインGT-R戦、最後の姿は華麗にしてド迫力。まずヘッドライトが埋め込み式になり、カーボンボンネットを採用。ホイールはいかにも軽量そうな6本スポークのものになり、バンパーはさらに大型のエアインテークを備えたものへと変更され、ナンバープレートの取り付け位置も右側へと変わっている。マフラーも右出しへと戻された。
なにより一番の変更点は、かなり大型のGTウイングが取り付けられたことで、これはバトルがターンパイクの下りになることを予想し、高速コーナーでのスタビリティ重視のために採用されたようだ。
さらに、車内にはロールケージが取り付けられ、これだけでもラストバトルに挑んだ涼介の覚悟が伺える。かくしてブランクがありながらものぞんだ一戦で、FCはキズだらけになりながらも華々しくも壮絶なフィニッシュを迎えるのだった。
■掲載巻と最新刊情報
投稿 ラストまでカッコいい! 『頭文字D』伝説モデルの進化列伝03 RX-7(FC3S型)編 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。