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F1ストーブリーグ開幕。フェラーリほか各チームの人事が大きく動いた。またアウディVWグループの影響は?

 フェラーリのチームプリンシパルにうわさ通りフレデリック・バスールが決まった。バスールの抜けたアルファロメオにはマクラーレンからアンドレアス・ザイドルがCEOに就任。他にはウィリアムズのCEOヨースト・カピートとTDを務めたFX ドゥメゾンが同時にチームを去った……というちょっとした動きがあった。さてこの人事にはどういう意味があるのか、元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。

文/津川哲夫
写真/Redbull,Ferrari,Mercedes

■ザイドルの移籍はアウディがザウバーに介入にした影響か?

 ポルシェを通してザイドルとVWグループの関係は深いので、ザイドルのマクラーレンへの就職自体がアウディF1発進への布石であったのかもしれない。

  ザイドル離脱後のマクラーレンのCEOにはこれまでチーム・エンジニアを務めてきた。アンドレア・ステラが昇格、もともとフェラーリでシューマッハ時代のエンジニアを務めてきた人物で、エンジニアリングの経験は豊富だ。ただし、まだチームの運営の責任者の経験はなく、マクラーレンとしてはザイドルの離脱が急であったために、後任の準備がなく、ステラの昇格が現状での唯一の選択肢だったのかもしれない。

ルクレールはバスールのアルファロメオ/ザウバーでF1デビューをしている

 アウディの影響と思えるものは他のチームにもあった。ウィリアムズのCEOヨースト・カピート、そしてTDを務めたFX ドゥメゾンが同時にチームを去ったことだ。彼らはかなり短い期間の就任であった。

 うがった見方をすれば、カピートもドゥメゾンもウィリアムズへの就任の裏には、彼らの強いドイツコネクションによってF1への進出を考えていたVWグループとのパートナーシップを得る可能性を期待していた。もっと言えばウィリアムズのオーナーであるドリルトン・キャピタルはチームをVWグループへ売却したかったのかもしれない。そしてそのコネクションを期待していたわけだが、F1へ名乗り出たVWグループのアウディはザウバーとザイドルを選んでしまった。こうなると高額給与のカピートとドゥメゾンの存在は来期以降のバジェットにも荷が重くなる。

 それで、アウディの発表の後にウィリアムズは契約の更改を拒んだのではないだろうか。もちろんこれは邪推でしかないのだが……。実際ウィリアムズからはまだ時期CEOとTDの発表はなく、二人の退職ありきでの人事発表であることがわかる。

■ノン・ワークス5チームはアウディワークスを目論む

 現在のF1はトップ3チームのうち、フェラーリとメルセデスが完全ワークス態勢でレッドブルはセミ・ワークス……、とは言え事実上ホンダワークスと言って良い。またアルピーヌは他のトップ3チームとは形は違うが4番目のワークスとしてポジションを構築している。

 こうなると中堅以下のプライベートチームには実際のところ勝ち目はない。各チーム頑張ってはいるがPUはカスタマー供給なのでそのコストは払わなければならない。もちろんカスタマーPUでもワークスと同じPUが供給されているのだが、もしもPUを壊せばそれなりの出費は覚悟しなければならず、予算がそれほど潤沢ではないチームではPUを最大パフォーマンス仕様で使うことは滅多にはない。それだけでもワークスとの差は大きく開いてしまう。

 したがって第5番目のワークスとして登場するVWグループにノン・ワークス5チームは一喜一憂していたはずである。これを上手く掴めばワークス体勢が待っているからだ。もちろん低迷からの脱却にはこれが最高の方法だ。ワークスの資金、ワークスの技術とコストフリーのPU、技術的バックアップ、施設、人材……数多くの利点が得られるからだ。

 アストンマーチンは自社のPU開発を語っていたのだが、現在のチーム状況では技術的に無理があるように思える。アストンマーチンのF1 PU開発の裏にも実はVWグループとのコラボへの期待があったのかもしれない。

 それは現在のチーム代表のマイク・クラックもまたザイドルと供にポルシェの耐久で働き、彼もまたVWグループとの強いコネクションを持っていた。したがってF1経験は少なくともいきなりクラックをチーム代表に据えたのだ。

■VWグループとのコネクションある人材を重要ポストに……

 ザイドルを招聘したマクラーレンを始め、カピートを雇用したウィリアムズ、クラックのアストンマーチン。皆VWグループとのコネクション考えた人事といっても決して間違いではないはずだ。そしてアウディがザウバーとのコラボを決めた時、ザイドルがアウディに動き、カピートはチームを去り、はたしてクラックは……という話になるわけだ。

  現実にF1チームの運営責任者を簡単に見つけ出すのは極めて難しい。F1でのマネージメントのキャリアが豊富で成功実績を持つ者などそうはいないのだ。またたとえ他のカテゴリーで成功を収めようとも、F1社会は制度そのものから特別で、独特のヒエラルキーの中でいかに上手くやるかが成功の鍵になってくる。この3人の中ではでザイドルが上手く制した成功者と言っても良いかもしれない。残念ながらカピートはまだ成果を出せないまま去り、クラックには大きな責任がのしかかってきた。

■F1の運営は未経験者や畑違いから来た人には極めて難しい

 F1チームは所謂レーシングチームとは全く違う組織と運営がなされている。800人を超えるスタッフと、バジェットキャップで規制された額でさえ200億円に達する、それも毎年使われる額だ。これはもはやチームというよりも企業なのだ。その運営は未経験者や畑違いの人物には極めて難しいのは当然のことだろう。

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津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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