毎年のように日本各地を襲う自然災害。昨年は8月3日からの大雨で東北、北海道、北陸を中心に被害が出た。また年末には日本各地で大雪による交通マヒが発生した。
災害時に足らざるモノはなにか。災害時に必要な物資・支援ついてトラックジャーナリストで現役トラックドライバーの長野潤一が物流の視点から考察していく。
文/長野潤一、写真/長野潤一・フルロード編集部
※2022年9月発行トラックマガジン「フルロード」第46号より
災害時に必要なモノはなにか?
災害が起きてまず必要なモノはなにか? 最初に救助。次は食料と飲み水であろう。初動体制ではパンかおにぎり、お弁当が用意できればなおよい。昨年の大雨による災害で、新潟県では山崎製パンがいち早く避難所に大量のパンを届けた。
同社は以前から災害支援に対しては積極的だ。大雪の立ち往生に巻き込まれた配送トラックの積荷のパンを、ドライバーの判断で近隣のクルマの乗員に配った例も複数回ある。白ナンバーの自社配送だから成せる業だろう(緑ナンバーで他社の荷物を預かっているトラックにはなかなか真似はできないが……)。
「モノ」が無ければ、運びたくても運ぶこともできない。巨大メーカーや業界団体が非常時にモノを放出するということが、支援の第一歩ではないだろうか。
折しも、昨年の豪雨災害はコロナ感染の第7波の最中で、毎日のように全国で20万人超の新規感染者が出ていた。避難所の開設や、復旧ボランティアの運営にあたっては苦労が多かったことだろう。
コロナ感染者の避難や、避難所内での感染防止策は、従来の災害時に必要な物資に加えて、マスク、ゴーグル、ゴム手袋、アルコール消毒薬、体温計、パーティションなどが必要である。
発熱者や無症状感染者、濃厚接触者の想定もあらかじめしておく必要があり、抗原検査キット(次善の策として)や、カゼ薬(オミクロン株の軽症者にはカゼ薬が有効とされている)なども用意しておきたい。
また物資を運ぶ運送会社においても、感染拡大防止、事業継続のためにこれらの準備が必要であろう。
いっぽう避難生活や復旧ボランティアの活動を始める際には、生活雑貨、日用品が必要になる。ティッシュペーパー、紙皿、キッチンラップ、洗剤……、生活に必要な物品は数限りなくある。
これらはドラッグストアに行けばだいたい揃う。近くのスーパー、ホームセンター等が営業していればそこでも調達できるが、災害時には停電などで閉店が多い。
移動販売車が来てくれることがあるが、ほとんどはスーパー、コンビニが運営するもの。しかし、被災地ではドラッグストアの商品へのニーズが高い。
もしこのコラムをドラッグストアの経営側の方が見ておられたら、ぜひ移動販売車の企画をお願いしたいと思う。災害が毎年多発する日本には絶対に必要だ。
断水と災害廃棄物
災害の時は、通常の物流のほかに、生活用水の供給、災害ゴミの運搬(静脈物流)という、平時には発生しない物流が必要になる。前者は水道局などの給水車が、後者は自家用の軽トラックなどで行なうことが多い。
水害の場合は家財の洗浄などで大量の水が必要になる。しかし、自治体の給水車には長蛇の列。給水車にはぜひ分岐水栓を付け、5〜10人くらいが同時に給水できるようにしていただきたい。
また、水質にこだわるため水不足が起きる。飲料用と生活用水をハッキリと分け、生活用水は大量に供給すべきだ。生活用水は、地区ごとに農業用ローリータンク(500L程度)を設置し、そこから自由に汲めるようにすれば供給は円滑になる。
そこへの補充は2トン車に、より大きい農業用タンクを積んで巡回する。また、IBCコンテナ(1kL液体パレット)も活用できる。
災害廃棄物の運搬は、通常の廃棄物とは比べ物にならない量が一時に出るため、仮置き場がパンクし、捨てに行くにも渋滞ができる場合があり、貴重な復旧作業の時間を無駄にすることになる。自治体担当者におかれては、同時並行して多数の集積場所を用意するなど、柔軟な対応を取ってほしい。
水害地域で家財の搬出や泥の掻き出しを経験したことのある人ならわかると思うが、周りじゅう泥だらけで、体の休まる場所はクルマの中ぐらいしかない。晴れた日になれば砂埃が舞い上がる。
復旧活動にとって、トイレ、シャワー、風呂、洗面所、洗濯機等は必需品だ。数キロ離れた民宿等に活動ベースを置ける場合はいいが、地域内に留まる場合は非常に困る。
自治体は、初動対応で仮設トイレを手配するだろう。しかし、風呂、シャワーとなると自衛隊クラスの装備が必要になる。
水道の出るホテル、施設等が住民に無料開放する場合もある。東日本大震災の時は、石巻市河北地区では道の駅「上品(じょうぼん)の郷」の入浴施設が、近隣ではほぼ唯一稼働しており、たいへん助かったのを思い出す。
トイレや入浴施設、コインランドリーを架装した特殊車両もあるが、まだ数が少ない。ただし、特殊装備を架装してしまうと車両の稼働率は非常に悪くなってしまう。
車両に固定せずに、架装物をアームロール脱着方式のコンテナ化し、平常時は積み重ねて備蓄しておけばよいと思う。ハウスメーカーやプレハブメーカーには、コンテナ型トイレ、コンテナ型シャワーの開発をぜひお願いしたい。
救援物資のロジスティクス
東日本大震災のような巨大災害においては、県の救援物資集積地には物資があふれ、外には降ろし待ちのトラックが待機、だが被災地には物資が届かないという状況が発生した。スーパー、コンビニ等もほとんど営業していなかったため、被災地は物資不足に陥った。
また、住家の備蓄を分け合って食いつないだという話も聞いた。見本展示会場等の県集積所には、後に日本通運などの物流企業がオペレーションに入り、動線確保や物品の入出庫管理をすることにより正常に動き出した。
また、各地区や避難所のニーズ取りまとめが非常に重要で、物流を動かす情報の元となる。避難所内での物品の分配も大仕事だ。避難所では、住民の「アレが欲しい。コレが欲しい」というニーズにいちいち自治体職員が応対したのでは、労力を取られてしまう。
平時にはスーパーのレジに住民が並んでしていた膨大な作業だ。これは流通の領域である。だから自治体が、災害によって壊れてしまった「メーカー〜物流〜流通」という一連の仕事をゼロから立ち上げようとしても、相当な労力が要るし、上手くいかない。
そのためにも、先に挙げた移動販売車(あるいはコンテナ型店舗)の派遣は非常に重要である。
また、情報が得られないときに個人でクルマに物資を満載してニーズを聞かずに被災地に向かう「プッシュ型」の供給は、かえって支援の邪魔になるのかといえば、あながちそうではないと思う。情報のない中、ピンポイントで末端に届けることは、充分に助けになる。普段からの付き合い、情報収集が重要だろう。
これからも日本は風雨災害、地震・津波災害などは発生するだろう。今回挙げた支援物資などは自治体が発災後ただちにすべて用意・調達できるものではない。不足分を国がすぐに届けられる体制をつくるべきではないか。
家屋の全壊、半壊等に対しても、国や自治体から一部補助は出るものの、基本的には自力復旧であり、ボランティア頼みである。
災害は自然が相手だから、減災はできても、起こること自体は避けられない。災害が起こるたびに国民が心を痛めるのではなく、もう少し安心して復興を見守れる国になってほしいと思う。
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