近年まれにみる拮抗のシーズンとなった2022年。その物語の立役者こそ、ニッサンZ GT500、ホンダNSX-GT、トヨタGRスープラGT500であり、その細部に至る技術的追求。新規車種参戦、空力開発の一部解禁と再登録により、新たな時代に生み出された“三者三様”の個性とは──。
12月22日(木)に発売されたauto sport臨時増刊『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、2022年のGT500クラスに参戦した3車両の車両技術を解説。ここでは、そのなかからホンダNSX-GT編の一部を抜粋してお届けする。
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ホンダは2代目NSXが2022年12月に生産終了となるのに合わせ、最終モデルを開発した。『タイプS』がそれで、全世界で350台を販売。日本へは30台が割り当てられた。そのタイプSの登場に合わせ、レース活動を行う方のホンダ(4月1日からホンダ・レーシング=HRCが活動の主体)は、GT500クラスに投入するNSX-GTのベース車をタイプSに切り換えた。
その切り替えにともない、フロントバンパー開口部の割り当てを最適化。2020年以来となる空力開発の解禁にともない、フリックボックスとラテラルダクトに手を入れ、進化させた。「大きくステップアップできるチャンスでした」と、車両開発を担当する徃西友宏氏は説明する。
「開発コンセプトは従来路線の継続進化ではあるのですが、2020年、2021年と同じ形で戦っている間に、次のタイミングに向けて空力開発の下準備を進めていました。2022年型には、ある程度蓄積できていた進化のアイデアを入れています」
ドラッグを低減して、ダウンフォースを増やし、空力効率L/D(エルバイディー)を向上させるといった、正攻法的な開発を最重要課題として取り組んだわけではない。なぜなら、それらは「現在の規則だと劇的に上がる余地は残っていない」からだ。ならば何を狙ったかというと、ひと言で表現すれば「最適化」ということになる。サスペンションのセッティングやエンジンの制御など、何にでも使える便利な言葉だ。詳しい内容に耳を傾けてみよう。
「特性の最適化です。予選のタイムアタックもそうですし、レース中のいろんなシチュエーションでもそうですが、クルマを操るとき、こういう状況ではダウンフォースはこうあってほしいとか、前後のバランスはこれが理想だなど、複数のドライバーさんから理想を聞き取り、風洞試験や実走テストを通じて確認し、改良しました」
■無駄のそぎ落としと“最適化”
あちらを立てればこちらが立たないということは、車両開発ではよくあることだ。例えば、ブレーキングを安定させたいからとリヤのダウンフォースを増やすと、コーナーでフロントが入りづらくなり、曲がりづらくなる。そうした背反をなくし、2022年型のエアロパッケージとして開幕戦に用意する段階で、理想に近づけるのが狙いだ。
「乗りやすくするという言い方もできるのですが、それをやると、とかく低いレベルでまとまりがちです。高いレベルで理想的な特性になるよう、初期の段階でクルマのキャラクターに入れ込む。それが2022年型で最も力を入れた部分でした」
フロント開口部の割り当てに関しても空力と同様、2020年、2021年の実戦経験を通じて蓄積した知見を織り込んでいる。2020年はミッドからフロントにエンジンの搭載位置を変えた最初の年だったので、信頼性を重視した設計としていた。冷却系にはマージンを持たせている。2シーズンの経験から、不要と判断した無駄をそぎ落とした。
同時に、空気の入口から出口まで、すべてを見直して再構築。2021年型との大きな変化は、ボンネットフードの中央部、ウインドスクリーン寄りにNACAダクトを追加したことだ(コクピットに空気を導いている)。NACAダクトを使う場合は、フラットボトムを起点にした高さ275㎜より上に認められる開口部の面積が小さく規定されるが、検討の結果、トータルの性能はNACAダクト有りのほうが上だったため、採用を決めた。
「2020年、2021年はGRスープラとタイトルを争っていたので、我々もスープラを見ながら開発した側面がありました。我々が用意した2022年の空力は結構な上げ幅だと思っていたので、充分戦っていけるだろうと思っていたのですが、フタを開けてみたら……どう警戒すればいいか分からなかったクルマが想像以上に速かった。ストレートも速いし、コーナリングやブレーキング区間も速い」、ニッサンZだ。
「従来我々は、富士ではスープラに負けるけど、もてぎでは取り返して最後まで行こうという考えでした。ところがZというかなり大きな強敵が出てきたという印象です」
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『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、このホンダNSX-GT編のほかにも、GT500テクニカルレビューとしてニッサンZ GT500編『連鎖した、ポジティブな変化』、トヨタGR スープラGT500編『最速最多の、不完全燃焼』も収録されている。
※この記事は『2022-2023スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2022年12月22日発売)内の企画からの一部抜粋・転載です。