11月19日(土)に東京ビッグサイトで開催された「東京国際プロジェクションマッピングアワード Vol.7」。
新型コロナウイルスの影響から近年はオンライン開催となっていたが、今回は3年ぶりに有観客+オンライン配信にて開催。「ENJOY!!!」をテーマに選ばれた14組が競い、最優秀賞に日本工学院八王子専門学校、優秀賞に大阪芸術大学・HAL大阪、大同大学、審査員特別賞に東京国際工科専門職大学、東京造形大学が選ばれた。
テレ朝POSTでは、アワードの審査員陣のひとりであるエリイにインタビュー。
「Chim↑Pom from Smappa!Group」の一員として、社会が抱える諸問題を内包するようなアートを生み出す、その行動力やアイデアの源について聞いた。
◆選ばれないことがどれだけ可能性を秘めているか
――今回、アワードの審査員を勤めていかがでしたか?
「開催前からどんな作品が見れるのか、とても楽しみにしていました。見たことがないものが見れるかなあとか、熱気とか。審査員についてはやったことがないので、それについても考えました。審査をする側の基準ってどこにあるのだろうって。
みなさんの作品を見終わったあとに審査員達で話し合いの時間があったのですが、作品に対してほぼ意見が一致する体験がありました。このお店のご飯美味しい、っていうような味覚と視覚体験は似ているのでしょうか。全く違う文化圏の方にも見てもらって、意見を聞いてみたいですね!」
――エリイさんの最優秀賞への寸評の中に「見るに耐えられる作品だった」というお話がありましたが、クオリティというのは作品をつくるうえで大事な部分だと思いますか?
「クオリティが高いと作品が説得力を産み、それが作品の態度に繋がっていく。そして自分が持つオリジナリティをどう打ち出すかですね。ものをつくる人は日常生活の一瞬を通して、どの角度から物事を見るか、どのような態度で生きていくのか、それを作品に落とし込める力などが必要なのかなと私は思います」
――そういう点ではどのチームもクオリティが高かったですね。
「今回の『ENJOY!!!』というテーマに沿っていたのも、嬉しかったですね。もし街中の大型スクリーンで流れていたら、
例えばですけれど、もし自分が技術力が追いつかないなあと思ったら、技術力がある人と組めばいい。本当に大事なことって、技術力だけじゃなくて、作り手がどういう目の付け所をもっているか、考え方の道筋をもっているか。それこそが宝物だと思います」
――寸評の中で、「選ばれなかった人はそのことを強みに思ってほしい」と話していたのが印象的でした。参加者全員に送る言葉として、すごく真っ当だなと。
「このステージに辿り着くまでに、それぞれのストーリーがめちゃくちゃあったと思うんですよ。一人で出た人もいれば、何十人で一緒に作り上げたチームもいる。経験した糧が力強さとなって、今後に繋がっていくと思うんですよね。賞を取れたのは先程も言ったように、ほぼ満場一致だったからです。その時思ったのは、賞を取れなかったといって誰かに選ばれなかったからといって、だから何?ということです」
――ここまでやって来た個々のストーリーは色褪せないし、選ばれなかっただけで“よくなかった”わけではないというですね。
「表現者はオリジナルの着眼点を作品へ落とし込む力を持っていますよね。私は審査の点でいうと、ずっと審査される側だったと思います。美大受験用のデッサンの講評から始まり、美大では作品が教授に審査されたり。その中で思ったのは、審査側に何かの責任が取られることはなく、もちろん全てを拾えるわけではない、ということでした。
選ばれなかった中にどれだけの可能性を秘めているか。例えば、世界一美味しい焼豚を作る人がいて、食べる人は麺だけすすっていたら気付かない。でも絶妙なラインですが、世界一美味しいと何故か焼豚が輝くんですよね。その輝きに麺の先に箸を伸ばさせる、っていう力はあると思います」
――エリイさんご自身も様々な作品をつくっていますが、アイデアの源泉はどんなところにあるのでしょうか。
「観察でしょうか。よく見ることですね。多方面から物事を見たり、考えたりするように心がけています。そして、決めつけてしまわないように気をつけています。決めつけるのは簡単ですが、
――今年はエッセイ『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』(新潮社)や、11月に完結した『新潮』の連載小説『壺中の天地』など、執筆のお仕事も多かったと思います。アート作品をつくるのと、物語やエッセイを描く作業はまた違うものですか?
「アートはコレクティブでやっているので、最初の段階からみんなでボールを投げ合って作品をつくっていく感じなんですけど、文章は編集者さんとのやり取りはあっても、最初の書き出しはひとりの作業なのでその違いがありますね。ボールをひとりで持ってる、みたいな。文章を世の中に出す、という点ではまたボールは違うところに投げられていくんですけどね」
――執筆活動は今後も?
「そうですね。この間、今まで書いた事がない文量を書いたんですよ。すると、その後に書いた文章が、今までかかっていた4分の1の時間で書けたのが面白かったですね。クリエイティブをする行為は、私にとってぴったりハマりながら広がっていく感覚があって、有難いです」
――エリイさんは何かを思い立ったらすぐ動いている印象がありますが、その行動力はどんなところから来るのでしょう。
「うーん、どこにあるんだろう。大概のことはとても面倒くさがりで、辛いです。昨日、カラオケに行ったときも友達に『全然トイレに行かないね』って言われて『いや、行きたいけど面倒だから行かないだけ』と答えたら『スッキリしてから歌いたくない?』と。そうだよな、って思ったしいつもそうしたいです」
――先日も渋谷PARCOで閉店したラーメンの1日限定の復活イベントをされていましたよね。
「あれは単純に大好きなラーメンが食べたかったんです。今、渋谷PARCOに『金三昧』という資本主義とは何か、作品とは何かを問うような実験的なショップが入っているんですが、PARCOから何か屋上でイベントをやってくださいみたいな話になって。
昔、『有昌』っていう中華料理屋が渋谷の並木橋にあって、めちゃくちゃ美味しかったんです。随分前に立ち退きになっちゃって、居抜きの物件を見つけるたびに『いいところあるよ』って店主に知らせたんだけど、『渋谷区じゃないからな』って。彼は渋谷区生まれ渋谷区育ちなんで、場所へのこだわりがあるんですよね。それで、渋谷PARCOなら渋谷区だから文脈が活きるしいいんじゃないかなって。そういう誰かのこだわりが、私にインスピレーションを与えてくれることはありますね」
――エリイさんが動くと、その現象がアートに見えるような気がします。
「まあ、ただ、しいたけソバが食べたかっただけなんです。本当は他の料理も全て美味しいので、お店の復活を心底願っています」
――今回のアワードにはたくさんの若いクリエイターが参加してくれました。エリイさんから、コンテンツ作りを担う制作者たちに伝えたいことはありますか?
「みなさん、本当におめでとうございます。今回は貴重な体験をありがとうございました。寒空の中、自分や他の人の作品を見守る姿から、静かな熱が溢れていました。これから社会に出たりして、それぞれ一人一人の経験が展開していく予兆を感じたのではないでしょうか。作り手として、いま生きている世界に対して自分事として捉える、社会を自分が作るという一歩一歩が道になります。そして声の大きい誰かが何かを叫んだときに、本当にそれが正しいのかなって考える。『この人が言ってるからそうなんだ!』と何も思わず取り込むまえに、果たしてそうなんだろうか、と問う」
――自分を信じて。
「いや、自分を信じなくてもいいと思いますけどね。だってそれが本当かどうかわからないじゃないですか。だからやっぱり、よく観察する、判断力を持つ、知るっていうことですかね」
――最後に、現代では手にしたスマホから1秒でツイートできるくらいテクノロジーがあちこちに根を伸ばしていますが、クリエイターを含め誰かが何かを発信し、周囲に影響を与えていく構造は、時代を超えても根源的には変わらないと思いますか?
「テクノロジーを含めて、社会情勢も何もかもが今は瞬く間に変わるので、全く一緒ということはないと思うんですけれど、昔は昔で同じようなことも起こっていたとは思います。形が変わっただけで、人間っていうのはどこまでもそうなんだな、と思うことはありますね。
昔スーダンで、報道写真家のケビン・カーターが飢餓寸前の子供を狙うハゲワシを撮ったんです。それは『ハゲワシと少女』としてニューヨーク・タイムズに掲載され、94年にピューリッツァー賞を受賞するんですね。私はそれを新聞の一面で見たんです。幼心に衝撃的でした。でも『どうして助けなかったんだ』というインターネットがない時代だったけれど批判が寄せられて、結局彼は自ら亡くなってしまう。今にも繋がる話ですよね。ただ風通しだったり、繋がりだったり、良くなった部分もたくさんあるような気がします。今はその過渡期じゃないでしょうか」
※エリイ プロフィール
2005年に東京で結成されたアーティストコレクティブChim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー(2022年4月27日にChim↑Pomより改名)。2月に森美術館で大規模な回顧展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」を開催した。社会問題やそのシステムに対し独自の視点から現代のリアルを提示、都市論を展開する。国際的に活動し、各国の国際展、ビエンナーレに参加。プロジェクトベースの作品は、グッゲンハイム美術館、ポンピドゥセンターなどにコレクションされている。
新潮社より著書『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』を上梓。写真集に『エリイはいつも気持ち悪い エリイ写真集produced by Chim↑Pom』(朝日出版社、2014)。著書に『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』(新潮社、2022)。
~東京国際プロジェクションマッピングアワードVol.7受賞作品~
【最優秀賞】
チーム名:photons 作品名:「Ride It Out」 学校名:日本工学院八王子専門学校
受賞者コメント:
大人数でたくさんの物量をこなしてきたので、この賞をもらえて本当に光栄です。
プレゼンター:エリイ氏
ドキドキしました!最優秀賞ということで、ほぼ満場一致でした。 クオリティが高いのが一番の理由ですし、来年この会場で1年間ながれる作品として成立していて説得力のある、見ているときにとってもワクワクする作品でした。
一見、普遍性があるものの中には、オリジナリティが薄れてしまうということもはらみます。選ばれなかった皆さんも賞をとれなかったということは、裏返せばそれだけ強みになる要素を持っているということです。
【優秀賞】
チーム名:風呂ドリル 作品名:「if I」 学校名:大阪芸術大学・HAL大阪
受賞者コメント:
最優秀賞を目指してきたので悔しい気持ちもありますが、ありがとうございます。
プレゼンター:松山周平氏
キャラクターがどんどんでてくることで、作品の中に奥深さを感じる作品だと思いました。個々のキャラクターのディティールや演出が繋がって1つのストーリーになることでその奥深さが出たのではと思います。クオリティが高く素晴らしかったです。
【優秀賞】
チーム名:大同グルーヴスラッガーズ 作品名:「Swing!」 学校名:大同大学
受賞者コメント:
作品にいろんな人が関わってる中で、このような賞をいただけて本当にうれしいです。打ち上げは絶対にチーズパンを食べようと思います!
プレゼンター:Seishiro氏
物語の基盤と野球の関連性がどう繋がるのかワクワクしながらみていました。スタジアムから始まり、街につながり…と構成も素晴らしかったですし、画面の切り替えがとてもマッチしていました。最後にまたスイングする結末が出来上がる全ての流れがスムーズかつ綺麗で、チャレンジ精神がある素晴らしい作品でした。
【審査員特別賞】
チーム名:IPUTデジキャン3rd 作品名:「第7回東京ビッグサイトボルダリング大会」 学校名:東京国際工科専門職大学
プレゼンター:川本康氏
とてもユーモアがあり、スポーツがテーマになっているのが珍しい。20年前の「スキージャンプ・ペア」を思い出しました。
【審査員特別賞】
チーム名:こごチーム 作品名:「れっつ、えんじょい!!」 学校名:東京造形大学
プレゼンター:シシヤマザキ氏
正直言って私の中では最優秀賞でした。本当にどうしてもねじこみたいぐらいの気持ちで、推させて頂きました。エンタメの骨太なしっかりとした基盤ができていて、作品を見ているということを忘れさせるぐらいの、引き込まれるパワーがある作品でした。上映順が最初の方で、ともすると霞んでしまいそうですが、しっかりとオリジナリティがあってよかったです。皆さんには自信を持ってほしいと思いましたし、これからも作ることを続けて欲しいです。
(取材、文:飯田ネオ、写真:長谷英史)